第24話 帰還者と伝説
山道。
風を切る音。
ナナたち救出隊は、全速で駆けていた。
後方――
キジオ、モン、チッチ。
そして救い出された母子たち。
「無理するな、ゆっくりでいい」
キジオが声をかける。
その横で――
タマが静かに言った。
「……主人に、何かあったのですね」
キジオは一瞬だけ目を伏せる。
「大丈夫だ」
短く答える。
「みんなが向かってる」
それは確証ではない。
ただ――安心させるための言葉だった。
前方。
アキュラ。
誰よりも速い。
「待ってろよ……!」
歯を食いしばる。
「絶対助けてやるからな!!」
八の模様が揺れる。
焦りと願いが混ざる。
ナナ。
シロ。
そして――ユキ。
三匹が同時に足を止めかける。
「……なにこれ」
ユキが呟く。
「近づいてる……何かが……」
ナナの毛が逆立つ。
シロの目が細まる。
「……大きいですね」
ハリーも遅れて感じる。
胸騒ぎ。
経験したことのない圧。
一方――
別ルート。
ギンジ、ゲン太、カン。
走りながら。
カンが口を開く。
「……あいつはな」
「弟みてぇなもんだったんだよ」
低い声。
「ミツとポンズと俺で……よく面倒見てた」
短く笑う。
だが、すぐに消える。
「ガキのくせにさ……」
「子供なんかできてよ……」
言葉が詰まる。
ギンジが言う。
「男気も責任もいいがな」
「今回のは違ぇ」
「追い込まれて、判断ミスっただけだ」
ゲン太が続く。
「やっちまったことは消えねぇ」
「でもよ……」
少しだけ声が柔らぐ。
「助けてやりてぇよな」
誰も否定しない。
その頃――
訓練場。
ナナたちが先に辿り着く。
そして。
止まる。
全員が。
地面。
倒れ伏す十羽のカラス。
静寂。
その中心に――
二匹。
巨大なノルウェージャン。
そして大きく精悍な茶トラ。
「……」
誰も声を出せない。
「……タカウジ」
シロが小さく言う。
「……ポンズ」
その奥。
さらに――
もう一つの影。
傷ついたハチ公。
その横で。
静かに舐める大きな猫。
ただ、そこにいるだけで。
空気が変わる。
圧。
貫禄。
言葉では足りない“何か”。
ハリーが息を呑む。
「あれが……」
ナナの瞳が揺れる。
「……ゾロ」
全員が理解する。
だが――
近づけない。
自然と、後ずさる。
(……なんだ、この感じ)
誰もがそう思った。
ミツ以外は。
沈黙。
ほんの数秒。
だが――長い。
「……あれ?」
ゾロが顔を上げる。
「みんなどこにいたのぉ?」
軽い。
あまりにも軽い。
「おお!ミツ!」
「たっだいまぁー」
場の空気が――崩壊する。
「……え?」
アキュラが固まる。
「……あんな感じなの?」
ミツが目を逸らす。
「……ま、まぁな」
バツが悪そうに。
「ハチ公は!?」
アキュラが駆け寄ろうとする。
ゾロが答える。
「んー?」
「まあ死にはしないって」
「しばらく動けねぇだろうけど」
軽い。
だが正確。
その時。
「おお!ゾロじゃねぇか!」
ギンジたちが到着する。
「あらまぁギンちゃんお久しぶり~」
気の抜けた再会。
「知り合いだったの?」
ナナが小声で聞く。
シロが答える。
「イノシシ戦、手伝っていたそうですよ」
「っていうかさぁ」
ゾロが首をかしげる。
「なんでギンちゃんがここにいんの?」
「俺が誘っても来なかったくせにぃ」
軽口。
ギンジが鼻で笑う。
「……あ、いけね」
ゾロが思い出したように言う。
「話してる場合じゃねぇや」
「おい、ハチの治療頼む!」
急に現実的。
「え?俺たち?」
ポンズが欠伸する。
「とりあえず飯食って寝るわ」
「ニャオスたっぷり使っちゃったからねー」
タカウジは無言で歩き出す。
「夜また集合なー」
ゾロもついていく。
三匹。
あっさりと消える。
「……違う…思ってたのと」
ハリーが呟く。
全員、同意だった。
だが。
次の瞬間。
空気が変わる。
「ハチ公!!」
アキュラが駆け寄る。
「おい!!しっかりしろ!!」
体は傷だらけ。
だが――生きている。
「よかった……」
安堵が漏れる。
ミツ。
「バカが」
吐き捨てる。
だが目は逸らさない。
カンは顔を近づける。
「……死んだら許さねぇぞ」
それが精一杯の言葉。
「……ごめん……」
ハチ公がかすかに言う。
涙が滲む。
「もういい」
アキュラが遮る。
「今は寝てろ」
その場が少し落ち着いた頃。
ナナ。
動かない。
視線は――
ゾロが去った方向。
(……あれが……)
胸の奥がざわつく。
ただの強さではない。
もっと――深い何か。
その隣で。
ユキもまた。
同じ方向を見ていた。
(……なに……この感じ)
言葉にならない感覚。
懐かしさ。
引き寄せられる何か。
まだ――気づいていない。
その理由を。
その繋がりを。
だが。
確実に。
物語は――核心へ近づいていた




