98、セルさんが住んでいた街
「ここは、ゲーム舞台ではあるが、メイン舞台じゃない。だから、何もない住宅地だぜ?」
私達は、セルさんの転移魔法で、見知らぬ街に移動した。石造りの建物が並んでいて、普通の街に見える。
「静かな街ですね」
「あぁ、そうだな。昔は、研究室から街に行くことになった人達が集まっていたが、あちこちに新しい街が増えたから、ここは廃墟同然だよ」
セルさんは、キョロキョロしながら歩いていく。しばらく来てないみたいだけど、こんなリクエストをして、よかったのかな。
「オモチ、一応、ゲーム舞台を案内するよ。昼間だと印象が違うだろうけどな。向こうだ」
「夜の街が舞台だったんですか?」
私がそう尋ねると、セルさんは、パッと私の顔を見た。あっ、だよね。18禁のゲームってことは、当然、夜の街がメインだろうな。
「ふっ、オモチと話してると、たまに肩透かしをくらうな。子猫だったのを忘れてた」
「あ、いえ、成人してますから! 静かな住宅地と夜のイメージが結びつかなかっただけです」
「そうかよ。あはは」
セルさんは、楽しそうに笑ってくれた。あれ? 私は、セルさんを傷付けないか、とても気にしている?
たまに住人とすれ違うけど、特に何も気にしてないみたい。主人公の魅了魔法が無くなったことで、私の感覚も少し変わったかな。
これまでなら、きっと知らない人にも笑顔を向けられていた。でも本来なら、知らない人にジーッと見られて微笑まれたら、怖いもんね。
セルさんは、ずっと、私の少し前を歩いている。どうしてだろう? 安全じゃない場所では、しっかりと寄り添ってくれた。私は、放し飼いの猫なの?
「あぁ、そういえば、測定アプリの数値はどうなっている? 昨日シエルさんに会ったから、変わったんじゃないか?」
「昨日は、3人とも20%だったから、シエルさんは再測定になるかもと言ってたんですけど、今朝、かなり変わっていました」
「シエルさんの数値は、50%を超えたか? 50%を超えないと再測定らしいな」
やはり、情報は共有してるのね。
「それが、シエルさんの数値は動きがなくて、セルさんが40%になってました。うぷっ」
セルさんが突然立ち止まるから、私は彼の背中に激突してしまった。振り返った彼の表情は、引きつっているように見える。
「俺が40%? ウィルは?」
「えっと、ウィルは55%でした」
そう答えると、セルさんは明らかにホッとしてる。やっぱり、選ばれたくないのね。あれ? 私……ショックを受けてる?
「どういう測定なのかがわかれば、対策できるんだけどな。測定アプリには複数の種類があるらしくて、どれがオモチの携帯機に入ったか、わからない」
「複数の種類?」
「あぁ、一度体験すると、何に反応するのかわかるだろ? だから、複数の種類があるらしい。俺は、今回で何回目か忘れたが、多いのは、心拍数を測るタイプだな。測定アプリが入っている間は、メンテナンス時間も測定されるから、一日に何度も変わるらしいよ」
「確定するまでは、誰になるかは、わからないってことでしょうか」
「まぁ、そういうことだ。しかし、なぜシエルさんの数値は、動いてないんだ? 彼は、数値を上げる努力をしていたんじゃないのか?」
確かに、シエルさんは、頑張ってくれてたと思う。
「不思議な湖に行ったから、たぶんメモリーが増えていると思います。オトメンのときの知識を使って……あっ……」
「ん? 何だ?」
私は、シエルさんのキスに、トキメキを感じなくなってる。だから、いろいろな分析ができたんだ。
「たぶん、私の問題だと思います。ゲームの恋人に慣れちゃったのかも……。だから、全く触れなかったセルさんや、ウィル王子を演じていたウィルの数値が高くなったのかもしれません」
「なるほどな。逆に冷めてしまうこともあるからな。だから、キスは難しい」
冷めたというか……えっ? あ、今、私、すごく恥ずかしい話をしてる?
「あ、別に、変な意味じゃないですからね!」
「ん? オモチは、何かエロいことを考えてるのか?」
「考えてませんっ!」
食い気味に否定すると、セルさんはフッと笑った。何だか寂しそうな笑みにも見える。
あっ、この景色のせい?
前方に、商店街のような通りが見えてきた。アーケードがあって、少し暗い雰囲気。でも、夜は店の看板が光るだろうから、賑やかなのかも。
「あぁ、この時間は、どこもやってないな。オモチ、この通りが、ゲーム舞台だよ。乙女ゲームとは違って、範囲が狭いんだ。18禁のゲームは、あちこちの街の繁華街が舞台になっているからな」
「攻略対象ごとに、舞台が変わるんですね」
「そういうことだ。似たような繁華街ばかりだから、その場所を特定するのも難しいらしいぜ。俺の頃は、夜の街が少なかったから、すぐに見つかったけどな」
営業していない商店街を歩くのって、ちょっと寂しいな。だけどセルさんは、懐かしそうに眺めている。あっ、そうか。彼はもうすぐ街を去るから、次にいつ来られるかわからないもんね。
「オモチが、ここに来たいと言ってくれて良かったよ。ずっと気にはなっていた。だが、俺は一人では、来る勇気がなかったからな」
ん? 何か変?
「何だか、もうここには来られないような言い方ですよね。あの子たちの世話が終われば……」
「上書きが上手くいかなければ、滅びるからな。20周年の大作は、アース星に配信されることはないと思うよ」
地球は、確か、5年遅れだっけ?
「えっ? そんなに早く?」
「あぁ、未来人の介入がなければ、あと3年後には、人工星を捨てて、別の星に逃げることになるらしいぜ。だから、ここでの思い出は、これが最後だろうな」
セルさんは、力なく笑うと、私を抱き寄せた。




