97、イライラするオモチ
コンセプトカフェを出た後、シエルさんに宿屋ノームまで送ってもらった。いつも通りの優しい笑顔で、また明日、と言ってくれた。
私も早く寝ようと考え、部屋に入って、すぐにベッドに潜り込む。でも、なかなか寝付けなかった。
ほぼ確実に地球に帰れることがわかった今、この人工星での滞在期間が短いことを寂しいと感じる。ずっとミッションに追われていて、このゲーム舞台を楽しめてない。
いや、違う。たくさんのことがあって、だけどそれは、いろいろな人に流されてきたようで、私自身がしっかりと見てなかったのかな。
今も、測定アプリの数値を気にして、何人もの人が動いてくれている。だけど、そもそも何? 何を測定するの? 恋愛を数値化なんて、できないよ。恋ってそんなものじゃないはずでしょ。
この人工星は、イービー星の人達が資金提供している娯楽世界だから、やはり私の感覚とは違うのかな。結婚と恋愛は別物だという価値観はわかる。でも、何かが違う。
モヤモヤしながら考え事をしていると、外が明るくなってきた。えーっと、夕方にウィルと会って、夜はシエルさんだっけ。測定アプリに振り回されて、皆の予定が乱されてる。はぁ、何だかイライラしてくる。私が使うことにしたせいだけど。
私のために、何人もの人が協力してくれているのに、私はイライラする。このイライラは何?
◇◆◇◆◇
翌朝、手早くシャワーを浴び、濡れた髪のまま、かなり遅めの朝食をいつもの食堂で食べた。ロッコロッコ星の料理だったから、食べるのにも時間がかかって、少し焦る。派手な蛍光色には慣れたけど、食べ方はまだ上達しない。
食後は、白いジュースのような冷たい飲み物を飲んだ。チェックアウト時間を気にしながらだと、落ち着かないな。自業自得だけど。
髪は乾いてきたけど、服は着やすいワンピースを選んだから、今日の気分には合わない。宿屋の清掃時間が終わったら、すぐにチェックインして着替えたいな。
携帯機をチェックすると、3人からチャットが来ていた。嬉しいはずなのに複雑。彼らは私のせいで、測定アプリに振り回されてる。彼らの時間を奪っている気がして、大きなため息が出る。
『オモチ、昼すぎに宿屋に迎えに行く』
えっ? 着替える時間がない。
『今日の公演が終わったら、夕方から時間があるから、少し会おうよ。時間と場所は、また連絡する』
これって、セルさんがウィルの所に送ってくれるということか。何だかなぁ。
『オモチ、おはよう。今夜、あのレストランに行こうと思ってるんだ。アバターは身につけてないから、普通の服で行くよ。ウィルとの夕食が終わったら、連絡くれる?』
セルフィア王国の直営レストランに行くのかな?
私は、それぞれに短い返信をした。今日も、3人が事前に打ち合わせしていたことがわかる。何だかなぁ。やっぱり、理由はわからないけど、イライラする。
マズイな。測定アプリの数値が下がったかも。再測定になったら、本当にギリギリになってしまう。
測定アプリを開くと……えっ?
【測定対象】
● セルシード:40%
● シエル : 20%
● ウィル : 55%
(指標の目安)
10〜20%: 友達
20〜35%: 好意
35〜50%: 恋愛対象
シエルさんの数値は変わってない。だけど、ウィルが50%を超えてるし、セルさんは2倍に増えてる。一体、私の何を測ってるの?
このままだと、私はウィルに告白するってこと? 数値を見て相手を決めるなんて、あまりにも変だよ。
「お客様、チェックアウト終了時間まで、あと10分です」
「あっ! ありがとうございます」
ホール係のお姉さんが、声をかけてくれた。助かる。私は慌てて食堂から出て、チェックアウトの手続きをして、今夜の宿泊予約をした。
◇◇◇
「オモチ、待たせたな。うん? どうした?」
セルさんは、慌てて来てくれたみたい。まだ12時半だから、予告通りの昼すぎだよ。彼は、私の変化には敏感だな。
「セルさん、時間通りですよ。今朝は寝坊したので、いろいろとぐちゃぐちゃで〜」
「ふっ、確かに髪はぐちゃぐちゃだな。撫でまわしても問題なさそうだぜ」
あっ! セルさんが、私の頭をポンポンと叩いた。それだけなのに、嬉しいと感じる自分がいる。
「ちょ、また子猫扱いですかー?」
「あはは、今日はボサボサな子猫だな。まぁ、外を歩いていれば、すぐに落ち着くだろ。行くぞ」
セルさんは、またスタスタと行ってしまう。私は置いていかれないように追いかけた。
「どこに向かってるんですか?」
「ん? オモチが知らないコンセプトカフェにでも行こうと思ったが、どこか行きたい場所があるか?」
シエルさんと同じ発想だ。だけど、シエルさんとは違う。そっか、セルさんは自分で選んで行動してるからかな。シエルさんは、一生懸命に調べたり、サリィさんにアドバイスをもらってる。
「セルさんが住んでいた街に、行ってみたいです」
嫌なことを言ってしまったかな。彼の表情は、一瞬、戸惑ったように見えた。
「何もないぜ? 古い18禁のゲーム舞台の街だが、主人公の受け入れはしていない。だから、コンセプトカフェもないからな」
「そうでしたか……」
やはり、彼は行きたくないよね。恋人と暮らした思い出の街だろうから、他人には汚されたくないのだと思う。
「あーっ、わかった! オモチは、アース星に帰ったら、俺が攻略対象をした18禁のゲームをやるつもりだな?」
「へ? いや、その……」
「仕方ねぇな。案内してやるよ。俺も、ずっと行ってないから、新しい店とかはわからねぇぞ」
セルさんは、ニヤニヤと変な笑みを浮かべている。ちょ、私、18禁のゲームなんてやらないからっ! あ、でも、二次元のセルさんに会えるのか……。




