96、何かが違う
夕焼けに染まる不思議な湖の上で、シエルさんは私にキスをした。きっと、メモリーに採用される。私の頭には、そんなことが浮かんでいた。
「突然、ごめん。オモチとは何度もキスをしていたけど、あれは、アバターだったからさ」
なぜかシエルさんが言い訳してる。アバターを身につけてない彼は、少し大人っぽいけど、ちょっと可愛いと思った。アバターの有無は、その人の印象には関係ないかも。性格が変わるわけじゃないもんね。
だけど、アバターのない彼とキスをしたこともあったよね。2度目のゲームの恋人のときは、シエルさんはアバターを身につけてなかった。
でも、指摘しない方がいいかな。あっ、何度もキスをしていたのは、シエルさんも主人公の魅了を放っていたときだったと、言いたかったのかも。
「シエルさんは、もし選ばれてしまったら、どうするのですか?」
「ん? 大喜びするよ?」
えっ? 喜ぶの?
「でも、20周年の大作の攻略対象に採用されてしまったら、この人工星から、しばらく出られないですよね?」
「あぁ、オモチはそんなことを気にしていたのか。確かに、イベントは頻繁に開催されるだろうけど、攻略対象の人数は多いみたいだよ。一人の負担は、大きくないと思う。それに僕は、星間転移くらいできるからね。何も問題はないよ」
「あっ、そっか。人工星から出られないわけじゃないんですね。オルフルさんも、イベントはパスしてるみたいだし」
「うん、そうだね。オモチが僕を選んでくれたら、きっとすごく嬉しいよ。だけど、測定アプリの数値を無視すると、ミッション失敗になるからね」
あれ? やはりシエルさんも、自分が選ばれるわけがないと思ってる?
私が返事に困っていたからか、シエルさんは、湖にある小島へと、私の手を引いて行った。
この湖は、本当に不思議だな。水の上を歩けるなんて、どんな魔法がかかっているのだろう? 課金ルート専用だから、こんな不思議な湖を作ったのかな。
「オモチ、測定アプリは、どうなってる?」
小島には、たくさんのベンチがあるけど、人は少なかった。シエルさんは、その一つに座ると、私を横に座るように促した。
私が彼の横に座ると、スッと肩を抱き寄せた。ちょっと、ぎこちない。たぶん頑張ってるのだと思う。
シエルさんと一緒なら、私はきっと、穏やかに暮らせる気がする。彼は優しくて真面目だし、それに趣味や好みが似てるもんね。
あれ? 何だか私、変な分析をしてる? ゲーム舞台にいるせいで、変な癖がついたのかな。
私は携帯機を取り出して、測定アプリを開く。
【測定対象】
● セルシード:20%
● シエル : 20%
● ウィル : 20%
(指標の目安)
10〜20%: 友達
20〜35%: 好意
35〜50%: 恋愛対象
「オモチ、指標の目安しか見えないな。上の部分は、文字化けしている。数値を教えて」
シエルさんは、携帯機を覗き込んでいた。綺麗な顔だな。イービー星の人って、アバターよりも綺麗なのかもしれない。
「本人にしか見えないんですね。今、3人とも、20%になっています。友達ですよね」
私がそう答えると、シエルさんは、フーッと息を吐いた。緊張していたのかな。
「すぐに反映されるわけじゃないみたいだし、一日の中で、何度も増減するらしいよ。ただ、3人とも友達というのは、マズイね。恋愛対象の上限を超えないと無効になるかもしれない。再測定になると、オモチの滞在期限がギリギリになるよな」
「えっ? 再測定になる可能性もあるんですか」
「うん、そうらしいよ。どう測定しているかがわかれば、対策できるんだけどな。あー、そうか。だから、わからないようにしてるのか」
シエルさんは、自問自答して、納得したように大きく頷いている。
「何がわかったんですか?」
「ん? たいしたことじゃないよ。この人工星では、出身に関係なく対等な恋ができるようにというのが、そもそもの基本理念だからね。測定アプリの数値が高い人に告白することにすれば、ライバル同士が権力を持ち出すことができないでしょ」
「なるほど。確かにそうですよね」
「サリィさんからも、3位にはならないように頑張ってと、言われているんだけどね。今はとりあえず同じなんだね」
シエルさんは、サリィさんにいろいろとアドバイスされたのだろうか。ちょっと、げんなりしているみたい。
「サリィさんは、純粋に楽しんでますもんね。リアル乙女ゲームの見学をしているみたいで」
「そうなんだよ。キャッキャと大騒ぎだよ。サリィさんは、この星が、本当にお好きなのだと思う」
イービー星では、王族は笑うこともできないんだっけ。何も意図しない笑顔でさえ、何かの影響を与えてしまうみたいだし。そんなの、しんどいだろうな。だから、サリィさんは、ここでストレスを発散してるんだよね。
「オモチ、明日は、夜に会えるかな? 今夜は早く眠るよ。アバターのときの感覚が、まだ完全には抜けてないんだ」
「はい。大丈夫ですよ。じゃあ、早めに……んっ」
シエルさんは、また、私の唇を奪った。湖は夜景になっているから、新たなメモリーになるかな?
「夕食を軽く食べてから、帰ろうよ。行きたい店はある?」
「ん〜、行ったことのない店?」
「ふっ、わかったよ」
シエルさんは、私の手を取って立たせると、転移魔法を使った。
◇◇◇
私達は、私の知らないコンセプトカフェで、軽い夕食を食べた。まだ、配信されてない乙女ゲームのコンセプトカフェみたい。
「最新作だよ。アース星では、3年は先だろうね。知っておくと、配信されたときに楽しめるかな?」
「最新作ですか! ありがとうございます」
シエルさんも、セルさんと同じ発想なのね。だけど、何かが違うと感じた。その何かは、わからないけど。




