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95/122

95、測定アプリに振り回されてる

「そろそろ、送っていくよ。シエルさんは、今どこにいるか、わかるか?」


 セルさんは立ち上がると、個室の扉を開いた。ただの状況確認のためだけに、私と会ったのかな。


 携帯機でシエルさんの居場所を確認すると、ジュエンにいるけど、移動しているみたいだった。用事があるのかな。聞いてみようとチャットを開くと、シエルさんからチャットが来ていた。



『オモチ、暇になったら連絡くれる? 今日と明日は、サリィさんから、仕事禁止命令が出てしまったよ』


 仕事禁止命令?



「シエルさんは、今、ジュエンにいます。外を歩いているみたいです。仕事禁止命令が出てるって」


「ふっ、サリィさんか。あの人は単純に楽しんでるようだな。悪役令嬢が、少しキレていた。まぁ、イービー星の人の価値観は、俺達にはわからないが」


「確かに、サリィさんはワクワクしてましたね。私が誰を選ぶのか、リアルな乙女ゲームを見ている感覚でしょうか」


「そうかもな。シエルさんが歩いている場所は、どの辺りだ?」


 私はセルさんに、地図アプリを見せた。


「わかった。じゃあ、行くか」


 私が携帯機を操作していた間に、セルさんは酒場の支払いを済ませていた。ほんと、いつも奢ってもらってばかりだな。


 店を出ると、私達は、転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇



「うわっ! びっくりした」


 転移で移動した場所は、まさにシエルさんの目の前だった。すっごく正確な転移ね。


「おっ、悪い。ちょっと着地点が狂った。シエルさん、オモチを引き渡しに来ましたよ。じゃ」


 そう言い残すと、セルさんは、スッと姿を消した。何だろう? いつも通りな気もするけど、ちょっと何かが違う。


 そっか。セルさんは、転移のとき以外、全く私に触れなかったんだ。いつもは、子猫扱いしてたのに。




「シエルさんの居場所を地図で見せたら、こういうことになりました。チャットの返信ができなくて、すみません」


「いや、大丈夫だよ。セルさんは、正確な転移ができるんだね。地図を見て、僕の移動速度を計算したようだね」


「そうなのかな? 着地点が狂ったって言ってましたけど、あれは照れ隠し?」


「ふっ、たぶんね。一瞬、磯の香りがしたけど、海に行ってたの?」


 シエルさんは鋭いな。水槽があったし、店内は磯の香りが漂っていたから、服に付いてるのかも。


「シーパスの街に昼食を食べに行ってました。次のアース星で配信される乙女ゲームの舞台だからって」


「あぁ、サリィさんが好きなゲームだね。メイン舞台は海だから、海岸沿いには観光客が多いよ。シーパスの街は、セルフィア王国にある街に似せて作ってあるから、店にハズレはないよ。セルフィア王国の人がよく行くからね」


「へぇ、そうなんですね。とても都会だなと思っていました。漁師飯のような定食を食べましたよ」


「ふっ、そっか。楽しめたんだね」


 シエルさんは、なぜか少し寂しそうな表情をしているように見えた。



「はい。ただ、昼に会ったウィルほどじゃないですけど、セルさんも、いつもとは違うような気がしました。開発中の乙女ゲームに選ばれたくないのかなって」


「ん? そんなことを言ってたの?」


「いえ、普通を装っていたというか、二人とも距離を感じたというか……。ウィルは途中で崩れてたけど、セルさんはいつも通りに見えたのに、何か違っていたから」


 私は上手く説明できなかった。シエルさんは、少し考え事をしているみたい。やはり、彼は真面目だな。



「測定アプリの件で、運営から威圧的なメールが来ていたから、ちょっと構えていたのかもね」


「威圧的なメール?」


「うん、たぶん文字化けするだろうから、本人にしか見えないと思うけど、街でのすべてに優先するとか何とか。測定アプリへの協力を拒否すると、追放だってさ」


「ええっ? 街から追放? 研究室送りですか?」


「いや、この人工星からの追放だって。こんなことができるのは、監視者のオルフルさんだろうね」


 オルフルさん、コワイ。



 私達は、どこかへ向かって歩いていた。


「シエルさん、どこに向かってるんですか?」


「オモチが好きそうな場所だよ。サリィさんには、僕が不利だと言われたんだけどね。ただ、やっぱり諦めなくないんだ。オモチの感覚では、恋愛の先に結婚があるんだよね?」


 えっ? シエルさんは、選ばれようとしてる? でも、既に運営は、私の記録を持ってるはずよね。


「測定アプリの数値は、何を測っているんですか? 運営側の記録と異なる結果が出ることもあるのかな」


「それは、わからないね。測定アプリの仕組みは、開発したオルフルさん以外は、サリィさんしか知らないんじゃないかな。僕にも、教えてくれない。ただ、運営の記録は過去のものだから、異なる結果が出ると、新しい方を採用するはずだよ」




 私達は、夕焼けに染まる湖に着いた。


「ここは、シエルさんのミッションの手伝いをしたときに来た湖? じゃないな。ボートがある。あっ! わかった」


 この湖は、『青に染まるキミの春』のエンディングで流れるシーンのひとつだ。たぶん、課金キャラのルートだよね。


「オモチは、やってないかな? 『青に染まるキミの春』に出てくる場所だけど、課金しないと遊べない攻略対象だと思うよ。だけど、僕は好きなんだよ」


 シエルさんが、私の手を取った。そして、湖に向かって歩いていく。



「ちょ、湖に落ちちゃう……あれ?」


 湖の水は、私の靴が触れると、光っている。


「ふふっ、面白いよね。この湖は、魔力のある人が乗ると、固まる性質があるみたいだよ。湖上を歩けるんだ」


「面白いです! 沈まないか、ドキドキしますね」


 シエルさんの笑みが、少し変わった気がした。夕焼けに照らされる湖のせいかな。


 えっ!?


 見上げた私の唇に、シエルさんの唇がスッと重なった。



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