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92/122

92、いつもとは違うウィル

 翌朝、私はいつもの食堂で、豪華な朝食を食べた。今朝は、和定食だった。上品な肉じゃがと野菜の小さなかき揚げがあった。


 昨夜、シエルさんが作った和食を食べたっけ。研究熱心な彼は、あの後、天つゆの研究をしただろうか。



 食後の緑茶を飲みながら、私はデイリーミッションを眺めていた。この残り時間が、この星の滞在時間なんだと思うと、寂しくなってくる。


 でも、ミッション30を終えて、ミッション完了しなきゃね。サポートしてくれているシャルルさんが、自分の星に帰れるか否かが、かかってる。まぁ、私以外にも、手伝っている主人公はいるはずだけど。



【ミッション30】未達成

 恋をした人に告白しよう!(注あり)

(残り6日14時間15分)


(注)測定アプリ稼働中のため、ゲームの恋人は停止中

 測定時間残り60時間20分


【ミッション24】異性のフレンドと話そう!

【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!

【ミッション26】看板通りに行こう!

【ミッション27】花壇のある公園に行こう!

【ミッション28】ビンゴを1枚クリアしよう!

【ミッション29】恋人だった人に挨拶に行こう!



 測定時間がガツンと減ってると、なんだか焦る。昨夜の10時くらいから開始したみたい。測定アプリを開いてみる。



【測定対象】

 ● セルシード:未測定

 ● シエル : 10%

 ● ウィル : 未測定


(指標の目安)

 10〜20%: 友達

 20〜35%: 好意

 35〜50%: 恋愛対象



 50%が上限なのかな? シエルさんは、測定アプリを稼働してから、ほとんど喋ってないけど測定されてる。この測定って、私の何を測っているのだろう?



 あれ? メールが来てる。


『オモチ様、おはようございます。測定対象者に、オモチ様が測定アプリを稼働されたことを連絡いたしました。測定アプリの使用者権限は、街のすべてのルールに優先します。測定協力は対象者の義務となりますので、オモチ様の予定に合わせて、行動させる権限があります。測定対象者との個別チャットを解禁しました。ご確認ください』


 ええっ? なんか、迷惑なアプリだったのかな。


 チャットを開いてみると、ウィルからチャットが来ていた。セルさんは来てないけどチャットできるようになってる。シエルさんは、今朝はまだ寝てるのかな?



 ウィルからのチャットなんて、貴重だよね。私は、ドキドキしながら、チャットを開く。


『オモチ、測定アプリって何?』


 えっ? これだけ? もしかして怒ってる?


『ミッション30が、恋した人に告白するミッションで、運営側の測定と異なると失敗になるみたい。それで、測定アプリを使ってます』


 私は簡単な経緯説明をした。返信してすぐに、ウィルは測定アプリ自体のことを聞きたいのかもしれない、と気づいたけど、もう送ってしまった後だった。


『わかった。昼頃に迎えに行くから、宿屋のロビーにいてくれ』


『あ、はい。了解です』


 ウィルが、来る? 一昨日の夕方にコールドパンの案内をしてもらったのに、今日も会ってくれるんだ。あっ、そうか。測定アプリには強制力があるのよね。


 一瞬、嬉しいと思ったけど、ウィルに迷惑をかけているかもしれないと気づくと、テンションが下がる。こんな変なミッションを出す運営側が悪い、と思っておくことにしよう。




 ◇◇◇



 私はいつものように、昼前にチェックアウトした後、宿泊予約をしておいた。これも、あと数えるほどかな。そう考えると、やはり寂しくなってくる。


 日本に帰りたいはずなのに、離れがたい気持ちもある。これが、この人工星の魅力なのかな。だけど、主人公の期間も終わるから、帰らなくても生活は変わるよね。


 そういえば、スープラ社のキコリさんの記事……。私は、事故死したことにされているんだっけ。家族は悲しんだよね。帰ったら喜んでくれるかな。軽率だと怒られるだろうか。


 はぁ。もうすぐ帰れると思ったら、何だか憂鬱になってきた。どうして事故死したと発表したの? スープラ社の信用がなくなるようなことを……あれ? そんな情報、見たことない。こんなに頻繁に帰れなくなる人がいるのに、そんなニュースは聞いたことがないよ。魔法でごまかしてるのかな。




 宿屋のロビーで考え事をしていると、外から、キャーッと歓声が聞こえた。何? 攻略対象が通ったのかな?


 立ち上がって外を見てみると、大勢の人の塊が、こちらに移動してくるのが見えた。


 ええっ? 嘘! 完璧なスマイルを浮かべるウィル王子が歩いていた。しかも、ウィル王子がパーティーで着るような正装だ。いつものフード付きのパーカーで来ると思ってたから、私は普通のワンピースを着てるのに。



「オモチ、お待たせ。行こうか」


 宿屋に入ってくると、ウィルは、完璧なウィル王子スマイルでそう言った。何? どういうこと? なぜ突然、ウィル王子を演じてるの?


「ウィル王子、になってますか?」


「うん? 俺は、いつもこんな感じだよ? 静かな公園で少し話そうか。メモリーミッションが出てるから付き合ってよ」


 メモリーミッション? ウィルは、私の手を取ると、そのまま宿屋の外へ出て行く。目立つ。あまりにも目立ってる。こういうシーンも、メモリーになるのかな。




 私達が歩くと、後ろから大勢がついてくる。一体、どういうこと? やっぱりウィルは、怒ってる?


「ウィルさん、もしかして怒ってますか?」


「うん? まさか、そんなことないよ。オモチと一緒に歩くと気分がいい」


 やっぱりおかしい。いつものウィルなら、ウィルさんと呼ぶと、デコピンしようとしてたもの。ウィルは、何かを隠そうとして、ウィル王子を演じているの?


 一緒に歩いていると、大勢の人がついてくるせいかもしれないけど、私はイライラし始めていた。



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