90、料理人としてのシエルさん
「シエルさん、彼女のビンゴの時間制限はクリアできたわ。早くミッション30が知りたいの」
料理人の制服姿のシエルさんが何か言う前に、シャルルさんが、素早く用件を伝えた。
「わかりました。オモチ、ミッション29の残りは、僕だけかな?」
私がコクリと頷くと、シエルさんはフッと感情の読めない笑みを浮かべた。サリィさんやオルフルさんの前だからか、いつものシエルさんっぽくない。
「たぶん、声が聞こえる範囲にフレンドがいるとダメだと思うので、私は、2階の事務室に行ってきます」
シャルルさんは、3階レストランから出て行った。ファン会館に売るって言ってたから、クリスタルショップで仕入れた物を、売りに行ったのかな。
「じゃあ、私はオルフルさんを連れて、会議室に行ってるよー。シエルさんは、ここで食事休憩にすればいいんじゃない? オモチさんもお腹が空いたよねー?」
サリィさんは、オルフルさんの腕を掴むと、レストランから出て行った。ここはシエルさんの仕事場なのに、話しにくいよね。
「変な展開になったな。サリィさんの言うことは絶対だから、食事休憩にするよ。オモチも何か食べる?」
「あ、はい。でも、変な時間に昼食を食べたので、そんなにお腹は減ってないです」
シエルさんに手招きされ、厨房の前まで移動した。厨房内には、6〜7人の料理人がいる。でも、以前に会った人は居ないみたい。
少し待っていると、トレイを持ったシエルさんが、厨房から出てきた。
「オモチ、厨房から見えない席に行くよ」
私は、シエルさんの後ろをついて行った。彼の背中って、あまり見慣れないな。いつも横に並んでくれていたってことだと思う。
「ここでいいか。オモチは、右に座って」
窓際の席だ。一人用なのかな。窓に設置された長いテーブルには、等間隔に椅子が並んでいる。指示された席に座ると、夕方から夜に変わる景色が見える。
「外を見ながら食事ができる席って、いいですね」
「そう? 一応、ここなら携帯機に記録が残るし、厨房から顔も見られない。適当にトレイに乗せてきたから、好きなものをつまんで」
ここのほとんどは、携帯機に記録が残らないエリアなのね。関係者の専用レストランだからかな。
トレイには、見慣れた料理も並んでいた。なぜか、シエルさんは、料理を睨んでいるように見える。
「これって、アース星の料理ですか?」
「うん、そうだよ。おそらく今夜はオモチが来るだろうからって、サリィさんの命令でね。でも、上手くできたか不安だよ。昼から出しているけど、精霊の加護のある宿屋に泊まっている人からは、ダメ出しされたんだ」
「ダメ出し?」
「うん、へこむよね。料理のレシピを覚えても、食べたことのない料理は、難しいよ。食べてみて」
「はい、いただきますね」
お箸はないから、フォークとナイフなのね。野菜の天ぷらから食べてみた。あー、なるほど。冷めたからか、油っぽくて、べっちょりしてる。でも天ぷらなんて、難しいよね。
次は、肉じゃが? これは素材が違う。たぶん、日本にはない種類の肉と芋だ。かつお出汁との相性が悪くて、プンと臭みがある。
「やっぱり、ダメっぽい顔だな」
「いえ、えっと、この肉じゃがみたいな料理は、素材を間違えています。臭みのない肉を使わないと、出汁とケンカしてしまうので。それに芋は、甘くない芋を使うのです」
「ええっ? 根本的な間違いだね。似た食材では無理だったか。最初に食べたものは?」
「天ぷらは、揚げ物の中でも一番難しいんです。たぶん、揚げる油の温度が低かったのかな? 私も上手くできないから、天つゆに大根おろしを入れて、それをつけて食べると、いいと思いますよ」
わっ! メモしてる! シエルさんは真面目だよね。それに、料理人としても研究熱心なんだ。
「オモチ、ありがとう。明日、試してみるよ。あっ、オモチのデイリーミッションって、普通に喋っているだけで大丈夫なのかな?」
「あ、はい。他の二人も、ただ喋ってましたよ。確認してみますね」
携帯機を操作して、デイリーミッションを表示する。
【ミッション30】未達成
恋をした人に告白しよう!(注あり)
(残り7日3時間32分)
【ミッション23】ショー劇場に行こう!
【ミッション24】異性のフレンドと話そう!
【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション26】看板通りに行こう!
【ミッション27】花壇のある公園に行こう!
【ミッション28】ビンゴを1枚クリアしよう!
【ミッション29】恋人だった人に挨拶に行こう!
えっ? ちょっと待って。何、これ?
「まだ、達成されてない?」
私が呆然としていたのか、シエルさんが心配そうに、私の携帯機を覗き込んだ。
「ミッション29は、達成されていますが……」
「何? 警告が出てるじゃないか。オモチ、触らないでよ。横の警告が不気味すぎる。僕には出たことがないから、まだ絶対に触らないで」
「は、はい」
注あり、という部分が、赤く点滅している。明らかに警告っぽいけど、警ではなく注って書いてあるよね。
シエルさんは、サリィさんにチャットしたみたい。すぐに、サリィさんがレストランに飛び込んできた。
「オモチさん、見せてもらうよ」
「は、はい」
サリィさんが携帯機を覗き込んだとき、シャルルさんもレストランに戻ってきた。
シャルルさんは無言で、携帯機を覗き込む。
「これって、採用されたんじゃないのかしら? あ、オモチさんは主人公だから問題ないけど」
採用された? 誰が?
シャルルさんは、自分の携帯機で何かを調べ始めた。
「制作中の乙女ゲームかな? 『恋をしないと出られない星』(仮)は、透明な森に隣接する未開地に、ゲーム舞台を作るみたいね」
皆様、いつも読んでいただき、ありがとうございます。
やっと、タイトル回収ですね。そう、主人公オモチが絡むことになる新たな乙女ゲームの仮題なのです。
こんなタイトルなのに、本作を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。全く煽りも何もないタイトルで、なろうの深海に沈んでしまっていますが、見つけて読んでくださっている皆様のおかげで、書く元気をいただいています。ありがとうございます♪
物語は終盤になりましたが、あと少し続きます。100話以内に完結したかったけど、100話は超えてしまいそうです(今、97話を書いてます)が、最後まで毎日更新できるよう、がんばります。よろしくお願いします。




