88、未来から来たロッコ族
「にぎり寿司がある!」
私は思わず、声を出していた。私にここに座るようにと言った子は、ニコニコしている。随分と小さいな。個人差があるみたいだけど。
「お友達は、日本人なのね。私も日本人だったよっ。その記憶が戻ったのは、この星に来る直前だったけど〜」
「最終転生をしたとき?」
「うん、そうだよ。だから私の口が、和食を求めてるの〜。もう少ししたら、街に行くよ」
「へぇ、同郷なのね。私が泊まってる宿屋は、朝食に旅館のような和食が出る日があるよ」
「旅館の和食? すごぉい! あっ、でも、街ではアバターを付けなきゃいけないって聞いたから、味覚が変わるのかな?」
「味覚の違いは感じないよ」
「それなら、楽しみっ! どこの宿屋?」
えーっと、話しても大丈夫なのかな? シャルルさんに視線を向ける。
「精霊の加護のある宿屋は、朝食が美味しいわ。でも、宿泊費が高いけどね。オモチさん、この子たちの残り物でよければ、食べてやって。この不思議な料理は、この子たちの特別注文だと思うわ」
「お友達も、食べて食べてっ!」
その子は、せっせと、箸や小皿を用意してくれた。見た目は子供だけど、中身は大人なのね。
「ありがとう。お〜っ! 美味しいね。宿屋でも、細巻き寿司は出たことがあるけど、生魚は使ってなかったよ。これは、何だろう? マグロっぽいけど」
「マグロだよっ! 冷凍だけどね〜。大阪で買ったって言ってたよ」
「ええっ? 大阪?」
「うんっ! 私達が故郷の味を求めるから、日本に行った船が買ってきてくれたんだって。じゃないと、私達が直接行っちゃうから、って言ってた」
「そ、そうなんだ」
こんなに小さな子だけど、宇宙人だよね。勝手に行ってしまうと、大変なことになりそう。
私は勧められるままに、マグロのにぎり寿司を食べた。回転寿司よりも圧倒的に美味しくてびっくり。
「オモチさん、ミッションを確認してみて」
食後の緑茶を飲んで、ホッとくつろいでいると、シャルルさんにそう指摘された。そうだった、忘れてた。
「はい、見てみます」
うん、達成になってる。チカチカしているミッションの報酬を受け取ると、時計の表示が消えた。もうこれで、時間制限のあるカードは、終わったのね。
そして、4枚目クリア! という派手な演出画面が出てきた。苦労したから、これは嬉しい。あ、みんなに助けてもらったから、私の成果ではない気もするけど。
すぐに次の画面に切り替わった。今度は、正方形が25分割かな? 半分以上は点滅してる。ポチポチと報酬を受け取っていくと、未達成ミッションが、その下にズラリと並んだ。
「シャルルさん、おかげで時計が消えました!」
「そう、良かったわ。一応、確認させて」
シャルルさんに携帯機を見せると、彼女は、悪役令嬢を忘れたかのような、やわらかな笑みを浮かべた。
「5枚目は、回数系の簡単なものが残っているわね。これも、時間制限があると厳しいけど。4枚目で時間制限が出たのは、ラッキーだったわ」
「はい、コールドパンの看板通りは、知らない私には簡単だと思ったけど、難関だったようです」
「そうね。私は行けないもの。デイリーミッションは、どうなっているかしら?」
携帯機の画面を切り替えて、シャルルさんに見せる。
【ミッション29】未達成
恋人だった人に挨拶に行こう!(2/3)
(残り6日7時間32分)
【ミッション23】ショー劇場に行こう!
【ミッション24】異性のフレンドと話そう!
【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション26】看板通りに行こう!
【ミッション27】花壇のある公園に行こう!
【ミッション28】ビンゴを1枚クリアしよう!
「挨拶の残りは、シエルさんかしら?」
「はい、シエルさんです」
「じゃあ、行きましょう。ミッション29を達成したら、いよいよ最後ね。時間的な余裕はあるけど、何があるかわからないから、早く終える方がいいわ」
ん? 私と同郷だと言っていた女の子が、携帯機を覗いていた。興味があるのかな? そういえば、街に行くと言ってたっけ。
「さぁ、キミ達、転移屋までの護衛をお願いするわよ」
「はい、はーい!」
シャルルさんは、私の分までお会計を済ませてくれた。支払い額を確認して、一瞬、天を仰いでいたけど……。
洞穴の外に出ると、かなり暗くなっていた。もともと暗かったけど、ここは日が暮れるのが早いのかな?
「まだ夕方のはずなのに、暗いですね」
「そうね。時差があるのかもね。ここは、未開地の中だから、街からはかなり離れているもの」
「ええっ? 未開地?」
「どう見ても、未開地でしょう? まぁ、クリスタルの採掘地までは、道が繋がっているから、正確に言えば、一応、開拓地かもしれないけどね」
ロッコ族の子供達は、また、どんどん魔物を狩っている。私と同郷だと言っていた女の子も、すんごく強い。
「未開地だから、あの子たちは、アバターを身につけてないのですね。さっきのレストランも、アバターじゃない人もいましたし」
「ええ、そうね。アバターに姿が近い種族は、ゲーム舞台の街以外では、自由だからね。まぁ、イービー星の人達は、街でもアバターを身につけてないけど」
あっ、小屋が見えてきた。あれ? 何だか、見え方がおかしい。蜃気楼?
「シャルルさん、小屋が透き通っています?」
「ん? ここは透明な森だもの。地中のクリスタルが輝く夜になると、木々は見えなくなるのよ。その時間は、魔物は活動しないんだけど、クリスタルショップも閉まるのよね」
小屋の前で、ロッコ族の子供達が待っていた。シャルルさんの顔をジッと見てる。
「みんな、ありがとう。助かったわ」
シャルルさんがそう言うと、子供達はガッツポーズを作り、どこかへ走り去って行った。




