84、ウィルが父親してる
「オモチ、俺のせいで酷い目に遭ったよな。でも、死ななくて良かった。本当にごめん」
ウィルは、注文を済ませると、私に頭を下げた。
「あれは、ウィルのせいじゃないよ。私が闇堕ちしてないのが気に食わないって言ってた。私と同じ日に、この世界に来た人だったみたい」
「えっ? 同郷の人に刺されたのか」
「うん、そうみたい。だから、ウィルのせいじゃない。彼女に情報を教えたのは、案内人だもの。たぶん、イービー星のゴタゴタに、巻き込まれたんだと思う」
私の話を聞いたウィルは、ホッと息を吐いた。自分を責めていたのよね。
「オモチが、イービー星の人と関わっているからなのかな。俺には、雲の上の存在だから、ピンとこないが」
「雲の上の存在って、なんだか神様みたいだね」
私がそう指摘すると、ウィルはキョトンとしていた。こんな顔、初めて見たかも。
「オモチは、知らないのか? イービー星の人達は、他の星に移住すると、神としての仕事を負うらしいよ」
「ええっ? 神? 本当に神様?」
「あぁ、そうか、アース星の人は知らないよな。空に浮かぶ星のほとんどには、イービー星から移住した神がいるよ。そうやって、平和な秩序が守られているんだ」
「知らなかった」
シエルさんは、神様だとは言ってなかった。でも、そうか。話の内容を思い出すと、災害の話というか価値観が、大きくズレてたっけ。
「俺が生まれた星は、戦乱が激しくなって、イービー星から来た神に、見捨てられたんだよ。そしてメイロ星は、戦乱で崩壊した」
「そう、なんだ」
メイロ星のことは、どう言えばいいかわからないな。
「しかし、遅いな。もう料理は……あっ、やっと来た」
ウィルが、ケイトさんを心配し始めた頃、散歩を終えた二人が、店に入ってきた。不機嫌だったウィルに、笑みが戻る。ケイトさんの父親の顔なのか、恋人の顔なのかはわからないけど。
「おっ? 食べずに待っていたのか」
ウィルの予想通り、ケイトさんは私の隣に座った。セルさんは、少し驚いたように見える。ウィルの隣しか空いてないから、困惑したのかな。
「料理が揃うのを待ってましたよ。あれ? ケイトさん? 袖口に何か……」
「あちゃ! あはは、セルさんがアイスを買ってくれたんだよ。落っこちそうになったときに、袖口についちゃったのかも」
完全に娘さんになってる。
ウィルは、セルさんに何か言って、頭を下げていた。父親してるよね。
食事を始めると、ケイトさんはずっと喋っていた。そのケイトさんを見るウィルの表情は、複雑そうに見えた。彼女の中から、恋人のケイトさんが消えていくように感じるのかも。
一方で、ケイトさんは、すっごく機嫌が良い。ウィルのマネージャーじゃない時間は少ないから、楽しんでいるのだと感じる。
料理は、メイロ星のものなのかな? サフスさんの屋台で食べた料理もあった。そういえば、サフスさんを見てないな。屋台を出す場所を変えたのだろうか。
「オモチ、デイリーミッションは?」
セルさんに指摘されて、携帯機を見た。
【ミッション29】未達成
恋人だった人に挨拶に行こう!(2/3)
(残り7日1時間33分)
「あっ、二人達成になってます。ケイトさんの指摘通りでしたよ」
「ほんと? よかったぁ。あとひとりだね。でも、ビンゴの方を優先しなきゃいけない気がするよ」
「そうですね。ビンゴはあと2つだけど、実質は1つです」
「うんうん! でも、お土産を買う場所って、私にはわからないよ。セルさんは、わかりますかぁ?」
ケイトさんがセルさんの方に視線を向けると、私もウィルも、セルさんの方を同時に見ていた。何だろう? 私、ちょっとモヤモヤしてる。
「俺は、わかるよ。これも厄介なんだよな。あっ、そろそろ出るか。街の門までは、距離があるのを忘れていた」
セルさんがそう言うと、ウィルはスッと立ち上がった。そして、さっさと会計を済ませてしまった。ウィルのプライドなのかな。セルさんは苦笑いしてる。
店を出ると、ウィルは、ケイトさんの腕を掴んでいた。もう夜遅いから、ほぼ娘さんの感覚になっているためかな。
「オモチさんは、ウィルさんとセルさんのどちらが好きなんですかぁ? あっ、もうひとりいたっけ」
娘ちゃん!
「こら、ケイト! オモチ、気にしなくていいよ。完全にガキになってるからな」
「あはは、はい。ケイトさんは、娘さんの方の感覚になっていると、やんちゃですよね」
「そうだな。大人を困らせるのが楽しい時期らしい」
ウィルは、眠そうなケイトさんをしっかり支えてる。
そんな二人の様子を見て、セルさんは少し遠い目をしていた。亡くなった恋人と、恋人のお腹にいた子のことを、考えているのだと思った。
歩き疲れた頃に、やっと、門が見えてきた。
「あぁ、ウィルさん、久しぶりだね」
「まぁな。転移屋がないから、かなり歩かされたよ」
門番と親しげに話すウィル。一緒にいた私達の方をチラッと見たけど、門番は何も言わない。そのまま、門をくぐることができた。
◇◇◇
「案内役がいると、全然違うな。今日は、助かったよ」
「お役に立てて良かったです。オモチ、ミッション30が出たら、教えてくれ。俺に手伝えるものなら、公演の予定を変えても構わない」
ウィルは、私が主人公の魅了魔法を放ってなくても、協力してくれるのね。私が頷くと、彼は、やわらかな笑顔を見せた。
「オモチを送ってから、王城に送ってやるよ」
足元に魔法陣が現れた。ウィルの返事を聞かずに、私達は、転移魔法の光に包まれた。セルさんは、せっかちな面があるよね。
◇◇◇
「オモチ、明日も今日と同じ時間にロビーにいろよ」
「えっ? あ……」
私が宿屋ノームに入るのを見届けると、私の返事を待たずに、三人は転移魔法の光に包まれた。




