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85、オモチのいない王城にて

 オモチを宿屋ノームに送った後、セルシードは、ルナシティの王城の中庭に転移した。ウィルとケイトを送り届けることだけが目的ではない。それを、ウィルも察していた。


「セルさん、俺達まで送っていただいて、ありがとうございます。よかったら、お茶でも」


 ウィルの勘の良さに驚いたセルシードは、フッと笑みを浮かべる。


「じゃあ、少し休憩させてもらおうか。この人数の長距離の連続転移は、さすがに疲れた。俺は、あまり転移魔法は得意じゃないんだよ」


「俺も転移魔法は得意じゃないです。この距離の連続転移は、俺には不可能ですよ。着地点が大きくズレてしまいます」


 ケイトは、ふわぁぁっと、大きなあくびをしていた。彼女は、完全に娘の感覚になっている。5歳児はもう起きているだけでも必死だろう。


「ケイトさんは、眠そうだな。王城に住んでいるのか?」


「はい、王城に隣接する使用人用の宿舎を使っています。あっ、ケイト……」


 ケイトは、手をフラフラと振ると、宿舎の方へ歩いていく。客人への配慮をする余裕もないほど眠いらしい。


「一人で行かせて大丈夫なのか?」


「大丈夫です。ケイトが俺の娘なのは、皆が知っていますから。セルさん、こちらへどうぞ」


 ウィルは、王城内にある食事のへと、セルシードを案内した。




 ◇◇◇



「私は、バトラーと申します。同席させていただいても、よろしいでしょうか」


 窓際のテーブル席へ紅茶を運んできた執事は、セルシードに尋ねた。


「ウィルの世話役だな? 同席してくれ」


「では、失礼いたします」


 執事は、ウィルの斜め後ろに、椅子をズラして座った。



「ウィルは、勘が鋭いな。俺が話をするつもりで送ったことに気づいたか」


「俺は、他人の感情変化には敏感になっています。それに、格下の俺達をわざわざ送ってくださるのだから、鈍感な者でもわかりますよ」


「ふっ、そうか。だから、防音結界のある席なのだな。助かるよ」


 セルシードは、中庭を眺めて考えをまとめていたが、紅茶を一口飲むと、ウィルの方を向いた。



「ウィル、おまえはオモチのことが好きだろ?」


「えっ? あ、いや……そんなつもりはないです。俺にはケイトもいるし、何よりオモチは、アース星に帰るのですから」


「俺の目には、おまえがオモチに依存しているように見える。恋人のケイトさんが殺されてから、そろそろ5年になるようだな。二人の魂が同居するアバターは、その子が、一人で生きられるようになる頃には、親の魂は、子の魂の中に取り込まれ、思い出として残る。残酷なようだが、恋人のケイトさんは消滅してしまう」


 セルシードの指摘に、ウィルは静かに頷いた。


「わかっています。ケイトはもうすぐ6歳になりますが、昼間は恋人のケイトが現れるけど、夜遅くなると娘のケイトに完全に切り替わってしまう。あと、1〜2年でしょうか」


 セルシードは、自分の過去と重ね合わせ、辛そうなウィルのことを、羨ましいとさえ感じていた。



「ケイトさんが、話していたよ。ウィルさんはオモチさんのことが好きなのに、鈍感だから気づいてないと。ケイトさんが、あの酒場であのような質問をしたのは、そのためだろう」


「あぁ、オモチに、どちらが好きなのかと聞いてましたね」


「ケイトさんは、オモチに残って欲しいようだな。だが俺は、オモチには、星に帰らせてやりたい。主人公の期間が終わったら、彼女は孤独になる。悪役令嬢は、引き継ぎ期間の後、ロッコロッコ星に帰る。そして、俺は、研究室に飛ばされるからな」


 セルシードがそう話すと、ウィルは目を見開いた。


 未来からロッコ族が来ていることは、イービー星とロッコロッコ星の者しか知らない。



「変なマンスリーミッションが出ているのですか?」


「あぁ、主人公を闇堕ちさせろというクズミッションだ。俺は、これが出ると、いつもスルーしているからな」


「じゃあ、1年間は街に戻れないですね。やはりオモチは、星に帰らせてあげないと、辛い思いをする」


 ウィルが暗い表情でそう話すと、セルシードは大きく頷いた。しばらく、沈黙が流れる。



「オモチの気持ちはわからないが、もう一人のゲームの恋人が、彼女に求婚しているらしい。悪役令嬢からの情報だから、事実だ」


「えっ? オモチに求婚?」


 ウィルは、胸を押さえた。ズキッと胸に痛みを感じた様子。そしてウィルは、自分が激しく動揺していることに気づいた。


「あぁ、オモチは、自分でさっき、名前も言ってたな。俺は名前までは知らなかったが、シエルさんだとはね」


「イービー星の人ですよね。とんでもない存在ですね」


「そうだな。彼は、イービー星を統べるセルフィア王国の王宮仕えの家に生まれた三男だ。家を継ぐ権利がないから、他の星への移住を考えているのだろう。つまり、オモチがアース星に帰っても、彼ならオモチの故郷について行ける」


「ひっ! セルフィア王国って、住人は全員が能力の高い神ですよね? しかも、王宮仕えの貴族なら……」


「あぁ、これ以上に条件の良い相手はないだろう。オトメンのテスト要員をしているのは、イービー星から移住先探しをする人ばかりらしい。その中でも、シエルさんは、圧倒的な人気があるよ」


「そりゃ、そうですよね」


「オモチはアース星に帰れるし、シエルさんと結婚すれば、この人工星に遊びに来ることもできる。ウィル、俺が言いたいことは、わかるな?」


 セルシードが、真っ直ぐに、ウィルの目を見た。



「わかりました。オモチのことを想うなら、絶対に引き止めるようなことはするな、ということですね。もしかして、セルさんも、オモチに惹かれていませんか?」


 ウィルの素朴な質問に、セルシードはギクリとした。


「あぁ、だからこそ、帰らせてやりたいんだよ」



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