83、ウィルが俺様全開
私達は、難民特区の巨大な門に到着した。めちゃくちゃ明るいな。門には、魔導士のようなローブを身につけた人がいて、杖まで持ってる。
この先は、結界のないコールドパンの街。すんなりと、難民特区の外へ出してもらえるのかな。
「お疲れ様です〜」
ん? 何? 魔導士っぽい人の方から、声をかけてきた。しかも笑顔。あっ、セルさんの知り合い?
「コールドパンに来ようとしたら、難民特区の着地点にしか到着しないのは、何とかならないのか?」
あれ? ウィルが俺様全開で、門番に文句を言ってる。
「あはは、ですよねー。転移屋がないから、難民特区以外の場所に着地できないみたいですよー。ウィルさん、ご一緒の方々は?」
「俺の娘とその友達だよ。あぁ、彼は、娘の友達の保護者だ。娘がコールドパンを見たいって言ったからな」
なぜか、ケイトさんのせいにされてる?
「なるほど。この星に移住した人の子は、4〜5歳になると、コールドパンを見たがりますよね。最近は、よく来ますよ。フリーミッションにもなってるから、お友達を連れて、自慢したいのかもしれませんね」
そんなに、よく来るの?
「だろうな。自慢というより、親のルーツを知りたいんだろ。俺の娘は、5歳だけどな。アバターは急成長するから、見た目は大人だが」
ケイトさんは、5歳なんだ。
「ですよねー。難民の印があるウィルさんは大丈夫だと思いますが、娘さんには印がありません。コールドパンの街は、盗賊が多いので気をつけてくださいねー」
難民の印? そんなのをつけられてるの?
「わざわざ言わなくていい。じゃ、お疲れ」
ウィルは、俺様な態度を崩さない。ケイトさんは、いつの間にか、私の腕を掴んでいた。娘さんの感覚になってるみたい。
私達は、巨大な門をくぐった。
◇◇◇
結界の外は、普通の街に見えた。雰囲気が、ルナシティに少し似てるかも。行き交う人も、アバターを身につけている。夜は、淡い光の膜のようなものが見えるから、アバターか否かがわかりやすい。
ウィルはアバターだけど、ケイトさんには、その膜がない。さっき言ってた難民の印って、アバターに付けてあるのかな。
セルさんもアバターだとわかる。夜は見えやすいってシエルさんが教えてくれたっけ。さっきまでは結界のせいか、全然わからなかったけど。
「オモチ、デイリーミッションは、どうなってる? ミッション29だ」
セルさんにそう言われて、私は携帯機のミッションを開いた。
【ミッション29】未達成
恋人だった人に挨拶に行こう!(1/3)
(残り7日3時間25分)
【ミッション22】青く輝く湖を見に行こう!
【ミッション23】ショー劇場に行こう!
【ミッション24】異性のフレンドと話そう!
【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション26】看板通りに行こう!
【ミッション27】花壇のある公園に行こう!
【ミッション28】ビンゴを1枚クリアしよう!
「あっ! 一人だけ達成になってます。あれ? あっ、ウィルさんに、お世話になってありがとうを言わないといけないのかな? でも、セルさんにはそんなことを言ってないし、シエルさんと一緒だったときは、ゼロだったのに」
「オモチ、ゲームの恋人の名前をペラペラと言い過ぎだ」
セルさんが少し呆れてる? 苦笑いしているように見えた。
「何が出てるの?」
ウィルが、私の携帯機を覗き込んだ。美形が近づくと、ドキッとしてしまう。あれ? 私……セルさんに、ドキッとした顔を見られたくない。
「ミッション29で挨拶なんて、初めて見ましたよ」
「あぁ、オモチのミッションは操作されてるんだよ。ミッション30が何かわからないから、この挨拶も、早く済ませる方が無難だ」
するとケイトさんが、何かに気づいたような表情を見せた。
「ミッション30でのことですが、他のゲームの恋人が一緒だと、達成されないみたいですよ。ウィルさんのファンの人が、以前そう言っていたのを聞いたことがあります」
「なるほどな。じゃあ、ちょっと離れるか。ケイトさん、少し俺とデートしないか?」
「セルさんとデートですかぁ? いいですよー」
「じゃあ、二人は先に店に入って、料理を頼んでおいてくれ。俺達は、少し散歩して、料理が揃った頃に入るよ」
「わかりました。では、あの酒場でいいですか? どの店も、ガラが悪いですが」
「いいぜ。俺らの分も料理を注文しておいてくれ」
セルさんはそう言うと、ケイトさんと一緒に離れていった。ウィルが、複雑そうな目をしてる。
「オモチ、行こうか。酒場だけど、あの店は、わりと美味いんだよ。この街の住人はガラが悪いけど、俺には絡んでこないから」
「はい、大丈夫です。ウィルさんは……あ、ウィルは、セルさんと喋ると緊張するのかな」
ウィルさんと呼ぶと、彼はまた指で丸を作った。デコピンの用意だよね。
「ふっ、そりゃ、緊張するよ。あの人は、攻略対象の先輩でもあるし、有能な魔導士だからね。正直に言えば、苦手だ。あの人の目は怖いからな」
「そうなんだ。たぶん、悪役に徹してるんだと思うよ」
「オモチのゲームの恋人は、3人しかいないのか。シエルって、オトメンのテスト要員の人だよな。イービー星の魔導士か。セルさんどころじゃないね」
ん? 何だか、ウィルの表情が暗いと感じた。
◇◇◇
「いらっしゃいませ」
「後から二人来る」
「あっ! ウィルさん! お席にご案内します」
ウィルが知っている店? 私達は、窓際の4人掛けの席に案内された。
どこに座ろうかと迷っていると、ウィルは、自分の前の席を指した。距離を保ちたいのかな。
「ケイトは、絶対にオモチの隣に座りたがる。夜遅くなると、娘の感覚が強くなるんだよ」
へぇ。ウィルは、ちゃんと父親してるのね。




