80、彼の恋人が死んだ理由
私は、セルさんが再び話してくれるのを待った。
そんなに長い時間ではない。だけど、彼の恋人が、彼のファンに殺されたかという疑惑の答え合わせをしたくて、長く感じた。嫉妬したファンが彼の恋人を殺したのなら、彼が殺したわけじゃないもの。
ウィルも、恋人のケイトさんをファンに殺され、ケイトさんの魂は、娘の身体に同居してる。これはアバターの能力らしい。
セルさんの恋人は、アバターを身につけてない状態で子供ができたから、転生できずに死なせてしまったのか。それで、彼が殺したって言ってる?
「オモチ、話を中断しちまったな。あはは、悪い」
「いえ、あの、話すのが辛いなら……」
「いや、オモチには話そうと思っていた。だから、聞いてくれ。オモチが俺のことを、勘違いしているみたいだからな」
「勘違い?」
セルさんは、私を真っ直ぐに見て、頷いた。私が何を勘違いしてるの?
「あの頃の俺は、自信過剰だったのかもしれねぇな。攻略対象になると、急に世界が変わる。だが、過激なファンには困っていた。アバターを身につけると体型を隠せるが、本来の身体に子供ができてからは、彼女は悪影響を考えて、アバターを身につけなかった。当然、過激なファンには、すぐに見つかったよ」
「恋人の居場所も、ですか」
「あぁ、だが、彼女も魔導士だ。後から考えれば、過激なファンから身を守ることくらい、できたんだ」
えっ? ファンに殺されたわけじゃない? セルさんは、辛そうに表情を歪めた。だけど、もう涙は出てこない。
「俺は、恋人に敵意が向かないようにするために、攻略対象になり切ることにした。それが、取り返しのつかない結果を招いた」
「攻略対象を演じる人は、少なくないと思いますけど?」
「ふっ、オモチが知っているのは、ウィルだろ? 18禁の攻略対象じゃない」
「えっ? あ、はい」
黒魔導士セルシードになり切ることが、ウィル王子と何が違うの?
セルさんは、スゥハァと深呼吸をしている。その表情は、今まで見たことないほど辛そうなのに、話そうとしてくれてる。
「俺はな、いや、黒魔導士セルシードはな、言い寄ってくる女は抱くんだよ。執拗につけ回してくる過激なファンは、それでだいたいが収まった。一度しか抱かない。それも黒魔導士セルシードのスタンスだから、二度目を要求してくるファンには、物語のセリフを使って突っぱねた」
抱く? えっ……あ、18禁だから?
「ふっ、オモチも、言葉を失っただろ? それも一人や二人じゃない。俺も、何人のファンと関係を持ったかなんて、数えてない。毎日、何人も抱く日もあった。恋人の身体の中では、俺の子が成長していくのに、俺は帰らなかったんだ」
「でもそれは、身重の恋人から、ファンを遠ざけようとしてたんですよね?」
「俺は、そのつもりだった。だが彼女は、そうは思わなかった。俺の言い訳だと捉えていた。そして、限界が来たのだろう。彼女は、未開地のマグマだまりに身を投げた」
「えっ……」
彼女は、自殺したの?
「俺が、殺したんだよ。アイツが疑心暗鬼で苦しんでいたことに気づかなかった。俺は、浮かれていたのかもしれない。アイツが体調を崩したときも、一番居てやらないといけない時期も、俺は、言い寄ってくるファンを抱いていたからな」
それでセルさんは、私に誘っているのか? と、何度も聞いていたのかな。冗談だと思っていたけど、そうじゃない。彼は、ファンに言い寄られると、きっと今でも、恋人を自殺に追いやったという後悔が押し寄せてくるんだ。
彼の恋人の親友だったシャルルさんも、今は割り切っているように見えるのは、この事情を理解したからか。
セルさんが自らの手で、恋人を殺したわけじゃない。ただ、互いの想いが、大きくすれ違ってしまったことで起こった、悲しい事件だったんだ。
だけど、私が変に慰めの言葉をかけるのは、違うと感じる。セルさんが私に打ち明けてくれたのは、私が彼を勘違いしているからだと言っていた。
それって、私がセルさんに惹かれていると、彼が感じているから? 私を拒絶するために、こんな話をしたの?
どう言葉をかけるべきか、わからない。でもきっとセルさんは、私の反応を待ってる。どうしよう。正解がわからない。いや、正解なんて、ないよね。
私は、セルさんの顔を真っ直ぐに見た。彼は、少し緊張したように見える。そうだ、きっと、彼が望む反応は……。
「セルさん、最低ですね」
「あぁ、俺もそう思うよ」
やはり、これでいいんだ。セルさんの目には、また涙がにじんできた。私は、セルさんの恋人だった人に、雰囲気が似ていると、シャルルさんが言っていた。だからセルさんは、私を地球に帰そうとしていると。それが、罪滅ぼしだと……。
でも、これで終わりではない。
彼が、なぜ、こんな話をしたのか。タイミング的に、やはり、未来から来ているロッコロッコ星の人と関係ある気がする。
シエルさんが教えてくれたことは、きっと、セルさんに伝えるための知識。いや、セルさん自身が立ち直るためにも、彼が流されて生きることに終止符を打つ必要があるのだと思う。シャルルさんと頻繁に連絡を取るシエルさんは、きっと、すべてを知ってる。
「セルさん、未来からロッコ族が来ているそうですね」
「えっ!? あぁ、驚いた。そうか、オトメンのテスト要員から、聞いたんだな。街で遊んでいる同郷のサポートを必要としているみたいだよ」
セルさんは、チカラなく微笑んでいる。やっぱりそうか。彼は、街に居たいんだ。恋人と暮らした思い出が、どこかにあるはずだもの。
「セルさん、罪滅ぼしのつもりなら、街の治安を守るべきじゃないですか? 悪役は、街での争いを止める警察みたいなものでしょ」




