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78、セルさんとおにぎり

「ミッションは、達成できているな?」


 セルさんは、私の携帯機を覗き込んだ。その距離にドキッとしつつ、私は、チカチカしているミッションの報酬を受け取った。



 彼は、ビンゴカードの下の、未達成ミッションがひとつ減っているのを確認したみたい。


 *コールドパンにある看板通りに行こう!

 *クリスタル採掘地で土産を買おう!

 *このカードをビンゴ開始から72時間以内に達成せよ!

(残り時間:58時間12分)



「はい、時間には余裕がありますね。次は、土産を買うミッションかな」


 ファン会館の中だから、具体的な場所は言わない方がいいと感じた。私は主人公特有の魅了魔法は放ってないけど、私の顔を見て、ヒソヒソと話している人もいる。


「いや、上の方にしよう。転移屋に戻るぞ」


 えっ? コールドパンには転移屋がないって、シエルさんが言っていたよね。だから、一番最後がいいって。


 だけどセルさんは、スタスタとファン会館から出ていく。私は慌てて、彼の後ろを追った。




 ◇◇◇



 さっきとは別の転移屋に入ると、また列に並ぶことになった。ファン会館の近くの転移屋にいる人達は、やはり『月の世界の王子様』のファンだよね。視線が怖い。


 私達の前に並ぶ人達は、ほとんどが王城に行くみたい。ウィルの話をしている人達もいて、反射的に私は、声の主の方を見てしまった。


 目が合っちゃった。慌てて目を逸らしたけど……。



「アナタ、ゲームの主人公のオモチさんじゃないの? ウィルの恋人なんでしょ? なぜ別の男性と一緒なのかしら」


「えっ? ええっと……」


 どうしよう。頭が真っ白だ。


「は? ウィルの恋人と噂されてるのは、主人公なんだろ? コイツが魅了魔法を放ってるか?」


「あっ、魔力があるわね。顔が似ていると思ったんだけど……。失礼しました」


 セルさんが冷たく言い放つと、転移屋にいた人達の興味は、私からセルさんに移ったみたい。やたらと、ジロジロと見ている。


 黒魔導士セルシードじゃないかという声も聞こえる。だいぶ前の18禁のゲームでも、知っている人はいるみたい。



「まだ行き先を迷っているから、お先にどうぞ」


 前に並んでいた人達が、順番を譲ってくれるらしい。


「そうか、助かるよ。セントプレスの大聖堂前に頼む」


 セントプレス?


 順番を譲ってもらった私達は、転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇



「こちらは、セントプレス、大聖堂前です」


 到着した転移屋は、すんごい人だった。セルさんは、私の腕を掴むと、転移屋から外へ出た。外も、とんでもない人混み。


「セルさん、あの……」


「あぁ、心配すんな。こういうのには慣れている」


 人混みに慣れてるってこと?


 セルさんは、私の腕を掴んだまま、ズンズンと歩いていく。不思議と、誰ともぶつからない。あっ、セルさんが魔法を使ってるみたい。淡い光が見える。


 人混みを抜けると、ポスター通りがあった。ここも人は多いけど、まだ普通に歩ける。えっ? 私の腕を引いたセルさんは、無言のまま看板の裏の芝生へと入り、スッと座った。




「オモチ、大丈夫か?」


「は、はい。えっと、防音結界でしたっけ。なぜ、セントプレスに?」


「さっきのファン会館では、『四大精霊物語』の公演をしていたからな。ここがメイン舞台だ。自然な流れを装った。しかし、まさか俺にまで気づくとはな」


「黒魔導士セルシードという声が聞こえましたね」


「あぁ、たぶん、声でバレるんだろうな。古い18禁のゲームを知っている奴らは、だいたいが嫉妬深くて粘着質だからな。今も、俺達の足取りを追ってきてる」


「えっ? 王城の話をしていたのに、セントプレスに来てるんですか?」


「あぁ、そのために、転移屋で順番を譲ったんだよ。まぁ、俺は慣れてるから、追跡はされないけどな」


「さっき、人にぶつからない魔法を使っていたのは……」


「あはは、何だ、それ? あぁ、オモチは魔法が見えるようになったんだな。さっき使っていたのは、透過魔法の一種だよ。人とぶつからないんじゃなくて、通り抜ける魔法だ。魔力の痕跡も隠すんだよ」


 透過魔法?


「すごいですね。あれ? じゃあ、ここに隠れたわけじゃないんですか?」


「オモチは鋭いな。隠れてるよ。今頃は、さっきの奴らは、付近のサーチ魔法を使ってると思うぜ。大聖堂付近は、サーチを弾く建物があるから、探しにくいだろうけどな」


「じゃあ、すぐに諦めますね」


「あぁ、サーチを諦めて、転移屋を回るだろうな。俺が追跡に気づいたと思っただろうから、この街に来たのは、転移屋の乗り継ぎのためだと判断するはずだ」


「それって……」


 全然、諦めてないじゃない。ウィルも、こんな風に、ファンに追いかけ回されるんだろうか。



「とりあえず、ここで昼食だな」


 セルさんは、どこからか紙袋を出した。携帯機の倉庫機能かな。中身を見て、私は驚いた。


「おにぎり? ありがとうございます!」


「オモチの故郷の軽食だろ? 俺からすると、不思議な食べ物だ。赤い実が入っているのは、食えないよな。あれは罰ゲームか?」


 セルさんは、おにぎりを割って確認している。何だか、ちょっと可愛い。


「赤い実というのは、梅干しですね。私は普通に美味しく食べられますよ」


「そうなのか!? 知らずに食べたときは、毒だと思って吐き出したよ。乙女ゲームの多くは、アース星の料理を使っているが、たまに毒々しく見える物もある」


 セルさんは、お腹が減っていたのか、もう3つ目のおにぎりを食べようとしている。あっ、梅干しかな? 割って確認した後、手が止まってる。


「それ、もらいましょうか?」


「あぁ、もらってくれ」


 セルさんが割ったおにぎりを受け取った。彼の、こんな申し訳なさそうな表情は、初めて見たかも。



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