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77、涙が止まらない

「オモチ、待たせたか?」


「ひぇっ? あ、いえ、えっと……」


 う、嘘っ! シャルルさんが来てくれるんじゃないの? どうして、セルさんが……本物?


 驚きすぎて上手く声が出ない私は、変な顔をしてるよね。しかも、主人公の魅了魔法は消えている。どうしよう。ちゃんとしないと……。


「ククッ、また子猫みたいな顔になってるぞ。あの悪役令嬢からは聞いたが、一応、ミッションを確認させてくれ」


「ひゃいっ!」


 あっ、声が裏返っちゃった。



 私は携帯機を操作して、ビンゴミッションを見せた。


「デイリーミッションをもう一度見せて」


 ええ〜っ!? あ、うん、知っておいてもらう方がいいかな。デイリーミッションに切り替える。そして、彼が頷いた気配を察知して、ビンゴミッションに切り替えた。


 どうしよう。魅了魔法はまだ習得してない。



「なるほどな。ミッション29で、そんなのが出るとは驚きだが、まずは時間的にビンゴからだな。よし、行くぞ」


 あっ、また置いていかれる!

 私は、慌てて、彼の背中を追った。




 宿屋を出ると、宿屋の建物をぐるっと回り、隣接する転移屋に向かっているみたい。


「オモチ、不思議そうな顔をしてたな。悪役令嬢の方が良かったか?」


「えっ? いえ、サリィさんから、シャルルさんが護衛してくれると聞いていたから、驚いて……」


「ふっ、そうか。悪役令嬢には、このミッションは、時間的に厳しそうだったからな。しかしオモチ、大変な目に遭ったな。もう大丈夫なのか?」


 あっ……。


 転移屋に着き、順番待ちの列に並んだとき、彼に頭をポンポンされて、なぜか涙があふれてきた。どうしよう。


「怪我は、もう……」


「そうか、怖かったんだな」


 頭を抱き寄せられて、私は彼の腕の中で、涙が止まらなくなってしまった。うんうんと頷くのが精一杯。こんな顔は見せられない。


 私は、どうして泣いちゃうの? 来てくれたことに、まだお礼も言えてない。始まりのカフェで助けてくれたことも、ちゃんとお礼を言わないといけないのに。



「お客さん、どちらまで?」


「ルナシティの南通り公園まで頼む」


 私は、まだ涙が止まらなかったけど、順番が回ってきた。私達は、転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇



「お疲れ様でした。こちらはルナシティ、南通り公園前です。大丈夫ですか? たまに転移魔法に酔う方がおられるのですが」


 私が顔を伏せていたから、転移屋さんに心配されてる。


「ちょっと怖かったみたいだけど、大丈夫だと思うよ。さぁ、行くよ。少し歩こう」


 彼は、私の名前を呼ばなかった。私がウィルの恋人だと噂されていることを、知ってるのかな。



 転移屋の外に出ると、目の前には、大きな公園があった。あまり人は多くない。


「この街では、おまえの名前は出せないな。ネコにするか」


「えっ? あ、噂をご存知なんですね」


「あぁ、迷子の子猫の動向は、気をつけて見ていたよ。悪役令嬢が頻繁に接触してきたしな」


「シャルルさんが……」


「あぁ、アイツは、星に帰らなければならない。だが、滞在者としてのルールの縛りは破れない。だから、必死なんだよ。俺にも協力を求めるくらいだからな」


 シャルルさんは、セルさんとは話したくないと言っていたっけ。シャルルさんの親友だった人を、セルさんが殺したから。そう、セルさんは、本当の恋人だった人を殺した……。


 もう15年以上前の話だと言っていたっけ。シャルルさんは、ある程度、割り切っていると感じた。だけど、セルさんは、その恋人のことを今も忘れてないんだよね。



「その顔は、悪役令嬢から変な話を聞いたか」


「えっ? あ、はい……。セルさんが恋人を殺したって」


 私は、思わず、素直に話してしまった。だけど、彼がその恋人を今も忘れていないことは、言えなかった。


「そうか。アイツから、暴露してやった! と言われたから、そういうことだろうと思っていたよ。たが、ミッションを終えるまでは、俺を信用してくれ。俺は、おまえに危害を加えることはない」


「はい、もちろん信用しています」


 私が即座にそう返すと、セルさんはフッとやわらかな笑みを浮かべた。泣き顔を見られてしまったけど、態度の変わらない彼に安心する。やっぱり大人なんだな。



 人の少ない大きな公園を抜けた先は、ポスター通りになっていた。さすがルナシティね。『月の世界の王子様』のポスターの量が、半端ない。


 ポスター通りの先には、特徴的な看板が出ていた。ファン会館だ。私は、思わず身構えた。入り口には、多くの警備がいる。つまり、このファン会館には、攻略対象がいるのね。




「お客さん、今日の公演は、中継の食堂も満席です。申し訳ありません」


 ファン会館の建物に入ると、1階にいた警備の人が、セルさんではなく、私に声をかけてきた。


「人気なんですね。今日は、『月の世界の王子様』の公演ですか?」


「いや、今やってるのは、『四大精霊物語』ですよ。『月の世界の王子様』なら、王城で毎日2〜3回の公演がありますよ」


 ウィルは居ないんだ。セルさんは、それがわかっていて、ここを選んだのかな。携帯機で地図を出してみると、この場所は、王城からはかなり離れている。



「じゃあ、王城に行ってみるか?」


 セルさんが、私に問いかけた。


「いえ、またの機会にしましょう。王城の公演だと、全員が揃わないみたいですし」


 私は、警備の人に疑われないように、平静を装う。


「お客さん、『月の世界の王子様』が、次にここで公演するのは、明日の12時からですよ。1時間前に来てくれたら、会場に入れます」


「わかりました。ご親切にありがとうございます」


 セルさんに、携帯機をトントンとされた。あっ、確認しないと! ビンゴカードは、ひとつがチカチカと光っていた。



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