74、特殊なナイフ
シエルさんは、空腹だったのか、よく食べる。私も少しずつ様々な料理を食べた。あれ? 私も結構食べてるかも。
ロックダム王国のクローラさん達のことや、ロッコ族の話をした後、シエルさんは、話題をたわいもない話に切り替えた。地下室での話は、私には、わからないことだらけだったけど、あまり関わるべきではないと感じる。
セルフィア王国の人達は、未来から来たロッコ族のことをよく知っているようだけど、同じイービー星のロックダム王国の人達には知らされてないみたい。だから、王女であるクローラさんが、探りに来ているのかな。
また、ロックダム王国の一部の人達が、この人工星の覇権を奪おうとしていることも、わかった。だけどクローラさんは、その人達を、ロッコ族から逃がそうとしているみたい。
ロッコロッコ星って、イービー星よりも格下というか、支配下にあるように思える。それなのに、イービー星から来たロックダム王国の人は、未来から来たロッコ族を恐れているのかな。
この世界の上書きが始まったという話も、理解できなかった。過去を変えようとして、未来のロッコロッコ星から魔導士が来ているなんて、そんなこと、できるのかな?
もう、全然、わからない。
ただ、街にいるロッコロッコ星の人達が、未来から来たロッコ族を手伝わなきゃいけないことは、理解した。だから、シャルルさんはその前に、星に帰ろうとしてるのかも。そして、セルさんは……。
「オモチ、刺された瞬間のことは、覚えてる?」
ん? 突然、何? 携帯機を触っていたシエルさんの表情から、笑みが消えている。
「あまり覚えてないです。突然だったから、逆に何が起こったか、わからなかったです。でも、私は殺されるところだったんですよね。恨まれているなんて、思いもしなかったけど」
「オモチが狙われたことは、クローラ王女の想定外だったみたいだよ。彼女達が隠蔽しようとしているナイフは、アバターを管理しているロックダム王国の研究者が開発したみたいだね」
「なぜ私は、そんなナイフで刺されたんでしょうか」
するとシエルさんは、携帯機を見せた。サリィさんからのチャット画面だ。
私に使われたナイフは、アバターの主要な部分を壊すために、ロックダム王国の研究者が開発したものみたい。アバターを攻撃する特殊な武器なのね。
あのナイフを使えば、アバターと魂を切り離し、アバターを砕くことができるらしい。そうなると、魂は、本来の姿の中に戻る。本来の姿に戻った直後は、上手く身体が動かないから、どんなに強い相手でも楽に倒せる、か。
「もしかして、私は殺されそうになったというより、元の身体に戻るところだったんですか?」
「いや、オモチは、自分の本来の身体を自分で保管してないでしょ? だから、アバターの生体反応が消えると、魂が離れる。つまり、確実に死ぬんだよ」
私は、本当に殺されかけたの?
「じゃあ、あのナイフが使われたのは……」
「ロックダム王国の研究者は、アース星以外の人で実験をしようとして、何本かを研究室から持ち出したようだ。だが手違いがあったのか、アース星から来た闇堕ちした主人公達が持っている」
「えっ? 主人公達が?」
「うん、まともな魔法が使えないから、護身用だと言われたみたいだね。ロッコロッコ星から罪人が送り込まれたからかもしれない」
あっ、始まりのカフェで会ったっけ。怖い人だった。
「ロッコロッコ星から来た主人公が強いから、護身用なんですね。そうか、ロックダム王国の研究者は、ロッコロッコ星の罪人を利用して、ナイフの性能を調べるつもりだったのかもしれませんね」
「うん、僕もその可能性が高いと思っているよ。未来から来たロッコ族を始末するために、開発したのかもね。なぜアース星の主人公達が持っているかは、不明なんだ。彼女達が言う、案内人の居場所もわからないからね」
「キコリさん? 私達がこの世界に来るときに、乗船していた人です。アース星に居るんじゃないでしょうか。スープラ社の人だし」
するとシエルさんは、ハッとした表情で、チャットを始めた。サリィさんに伝えるのかな。
何だかわからないゴタゴタに巻き込まれてる。でも、シエルさんが私に聞かせてくれたのは、やはり、彼の誠意なんだろうな。
セルさんは、あのマンスリーミッションはやらないって言ってたから、私が帰った後、研究室に送られる。このゴタゴタの中で、ずっと働かされるなんて……。
私は、何となくグループチャットを開いた。いくつかのグループは、参加しなくても閲覧は可能だとわかったから、療養中の暇つぶしに眺めるようになっていた。
あっ! 3日前の記事に、私達のことが出てる!
投稿者は、森下さんになっていた。キコリさんだよね。7月末の神戸からの船旅参加者は、日本に戻る人がいないことが確定したと書いてある。
そのため、船旅参加者の関係者には、参加者が全員事故死したという連絡が完了した? 私も死んだことにされたの? 嘘!
「ん? オモチ、どうした?」
「閲覧してるグループチャットがあるんですが、私も死んだことにされたみたいで……」
シエルさんは、私の携帯機を覗き込み、眉間にシワをつくった。
「オモチ、僕には読めないんだけどさ。これってアース星の文字なの?」
「えっ? あ、そうですね。日本語です。この投稿者の森下さんが、案内人のキコリさんです」
シエルさんは、目を見開くと、身体に淡い魔力を纏った。そして、自分の携帯機に、コピーした? あっ、これが念写なのかな。私には魔法が見えるようになってる。
「オモチ、助かったよ。これで、いろいろと辿れる。あぁ、恋人の時間が終わったね」
シエルさんは、私の顔を真っ直ぐに見つめた。




