75、ビンゴミッションを始める
「ゲームの恋人時間は、終わりましたね」
私は、シエルさんの言葉を復唱するように、無意識に繰り返した。もう、私には主人公のアバターが放つ魅了魔法もないし、ゲームの恋人でもなくなった。彼の目にどう映るのかは、少し気になる。
「まだ、返事は聞かないよ。だけど、僕の考えは変わってない。そもそも僕は、アバターの放つ魅了魔法にはかからないからね」
変わってないというシエルさんの言葉には、ちょっとだけホッとした。だからといって、求婚を受ける覚悟はない。私って、身勝手だよね。
シエルさんは、またチャットの返信をしていた。彼は私には、あまり気を遣わないみたい。お互いに居心地がいいのかもしれない。シエルさんと一緒にいると、無言の時間も気にならない。不思議だな。
「オモチ、デイリーミッションをやってみる? 終わりから逆算すると、そろそろ良い頃だと思う。ミッション29が何が出るかわからないからさ」
「ん? あ、はい。じゃあ、ビンゴミッションをやってみようかな。どんな罠があるのか、緊張しますけど」
「うん、大丈夫だよ。僕が何とかする」
シエルさんは、やはり良い人だな。何だか神々しさを感じる。イービー星の人の特徴だろうけど。
「じゃあ、始めてみます!」
私は、ミッションの画面を開き、ビンゴミッションに切り替えた。
『ビンゴミッションを始めますか?』
その画面の横には、時計が表示されている。今は、もう夜11時を過ぎていた。この店に何時間いるんだろう。
始めるを選択すると、画面の横いっぱいの正方形のボタンが現れた。そのボタンは、チカチカと点滅している。
「シエルさん、大きなボタンがチカチカしてます」
「ふふっ、押してみて。1枚目は、フリーミッションからひとつが選ばれているよ。そのカードに書いてない?」
「あっ、チカチカしてるけど、書いてます。看板通りに行こう、って」
「チカチカしているのは、達成済みだからだよ。それを押すと、クリア報酬がもらえるよ。時計は出てる?」
「はい、出てます。今は、もう夜11時を過ぎてるんですね」
「時計が出ている間は、その先に時間制限のあるミッションがあるという印らしいよ。そのカードにたどり着くと、残り時間も表示される」
あっ、そうか。罠だよね。
「じゃあ、ボタンを押します!」
点滅しているボタンを押すと、1枚目クリア! という派手な演出画面が出てきた。そして、すぐに次の画面に切り替わった。今度は、正方形が四分割されている。でも、全部点滅してる。
「2枚目に切り替わった?」
「はい、縦横2つずつで4つのミッションが並んでいますが、全部チカチカしてます」
「罠があるのは、3枚目から5枚目までのどこかだよ。ランダムだと聞いたけど、オモチの場合は、操作されてる気がする」
私はドキドキしながら、4つのボタンを押した。2枚目クリア! という派手な演出画面が出た。そして、次の画面に切り替わった。これは、九分割かな? 縦横3つずつのミッションが並んでいる。
「3枚目になりました。9つのミッションのうち、1つはチカチカしてません」
「クリア済みの報酬を受け取れば、残りのミッションが、カードの下の余白に出てくるよ」
シエルさんが緊張していることが伝わってきた。足止めさせるミッションが残ってると、私はミッション失敗になって、帰れなくなる。
点滅しているボタンをすべて押すと、正方形のカードの下に、未達成ミッションが表示された。
*フレンドに3回奢ろう!(2/3)
「フレンドに3回奢ろう、が未達成です。横に変な数字があるけど……」
シエルさんは、携帯機を覗き込み、ホッと笑顔を見せた。
「2回終わっているということだよ。あと1回だね。携帯機が記録しない場所でのことは、カウントされないから、正確な回数ではないかもしれない」
ん? 私、シャルルさんに奢った以外、いつも誰かに出してもらってたよね? あっ! 屋台でラムネさんか。
ラムネさんのことを思い出すと、あのときの恐怖がよみがえってきた。あれ以来、会ってないな。
「ここの支払いをオモチにお願いすれば、ビンゴ3枚目達成だね。あっ、次のデイリーミッションは出てる?」
シエルさんにそう言われて、デイリーミッションの画面に切り替えた。
【ミッション29】未達成
恋人だった人に挨拶に行こう!(0/3)
(残り8日0時間31分)
【ミッション21】酒場に行こう!
【ミッション22】青く輝く湖を見に行こう!
【ミッション23】ショー劇場に行こう!
【ミッション24】異性のフレンドと話そう!
【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション26】看板通りに行こう!
【ミッション27】花壇のある公園に行こう!
【ミッション28】ビンゴを1枚クリアしよう!
ええっ? 恋人だった人って、ゲームの恋人全員? 横の数字は、3人に挨拶しろって言ってるよね。
「オモチ、どうした? 変なミッションか?」
シエルさんが携帯機を覗き込み、固まってる。
「一番最後に出そうなミッションですよね? ミッション29なのに」
「そうだな。今、僕と話していてもカウントされないということは、個室ではダメだということか。これは、明日以降だね。もうすぐ携帯機のメンテナンス時間に入るから」
「そうですね。デイリーミッションにはまだ時間の余裕があるから、ビンゴの時間制限を先にクリアしたいです」
私がそう言うと、シエルさんは少しホッとしたように見える。恋人だった人に挨拶って……なんだか別れ話みたいだもんね。
「じゃあ、オモチ、奢ってもらうね」
「はい、お任せください」
酒場の支払いは、私が済ませた。主人公の魅了魔法を放ってないためか、支払いを誤魔化されることもなかった。




