72、クローラさんの素性
「オモチ、お待たせ。あれ?」
投薬治療の後、地下室で魔法の使い方を学んでいると、シエルさんが来てくれた。私のアバターが魅了魔法を放ってないことに、すぐ気づいたみたい。
「オモチさんのアバターから、下品な魅了魔法は消しました。主人公の期間中ですが、再び襲撃を受ける危険性が高いため、私達の判断です」
私に魔法の発動を教えてくれていた、白いローブを身につけた人が、シエルさんに説明してくれた。
「治癒魔導士の判断ですか。よく、運営側が許可しましたね」
シエルさんは、何かを疑っているように見えた。いつものシエルさんとは違う。警戒しているの?
「貴方は、セルフィア王国のアイル村の人ですよね? セルフィア王国の王宮仕えの料理人一族でしょう?」
「それが、何か?」
「私は、ロックダム王国から来ていますが、この星では生まれに関係なく平等なはずです。イービー星での地位を持ち込まないでいただけますか」
えっ? なんか、バチバチかも。
「僕は、地位を持ち込んでいるつもりはありませんよ。そう思うのは、ロックダム王国から来た貴女達が、良からぬ企みをしているからではありませんか」
「私は、あの人達とは同類ではありません。この人工星の維持に協力しているだけです」
話が全然わからないけど、二人がイービー星の別の国の人なのはわかった。だから、こんなにバチバチしてるの? イービー星では、完全な序列があるから争いは起こらない、って聞いたけど。
「あ、あの……彼女は、治癒魔導士として、精霊の加護のある宿屋で働いているだけですよ」
薬師が、二人の間に入った。
「そうでしたか。オモチから主人公特有の魅了魔法を消去したのは、誰の判断かを教えてもらえますか」
「クローラ王女です」
あれ? この名前って……。
「やはり、ロックダム王国の王族が動いているのですね。この人工星の覇権を奪うためですか」
シエルさんは、白いローブを身につけた人に、鋭い視線を向けている。
「違います! クローラ王女は、ロックダム王国からこの人工星に来て、連絡が途絶えた人達の事件の調査をされています。セルフィア王国への反逆心などありません!」
連絡が途絶えた人の調査?
「それなら、街ではなく、研究室を探すべきでしょう。主人公のミッションを操作し、罠を仕掛けているのは、ロックダム王国から来た人達ですからね」
「その人達との連絡は取れています。働きに来たのではなく、観光に来た人達が集団で消えています」
集団誘拐事件?
シエルさんは、白いローブの人に冷たい視線を向けたまま、ため息を吐いた。
「クローラ王女は、どこにおられますか? オモチに、接触したことがあるようですね」
あっ! フレンドじゃないのにフレンドだと言って、話しかけて来た女性のことかな? そういえば、あの後、ファン会館の上のレストランで、サリィさん達に話したっけ。
白いローブの人は、シエルさんの問いには答えない。なんだか、イービー星のバチバチに巻き込まれてる気がして、落ち着かない。
「私に、何かご用かしら? オモチさん、体調はいかが? 私、貴女とのフレンド登録ができてなかったわ」
タイミングよく、地下室に入って来た女性には、見覚えがない。だけど、当然なのかも。彼女の頭には、小さな突起がある。アバターを身につけてないのね。
「見た目が違うのですが、クローラさんですか?」
私がそう尋ねると、彼女は妖艶な笑みを浮かべた。サリィさんよりも、かなり年上かな。20代いや30代前半くらいに見える。
「あのときはアバターを身につけていたわね。クローラよ。投薬治療は完了したかしら?」
クローラさんは、白いローブの人に尋ねたようだ。シエルさんがいるのに、気にしてないみたい。
「ロックダム王国のクローラ王女でしょうか。なぜ、オモチの主人公特有の魅了魔法を消去したのですか? ゲームのルール違反として、失敗扱いになりそうですが」
シエルさんは、それで怒っていたのね。
「治癒魔導士が、運営側に話を付けたわ。私は、下品な魅了魔法には、そもそも反対なのよ」
「オモチは、失敗扱いにはならないと?」
「ええ、もちろんよ。逆に不利になることだもの。オモチさんを刺したナイフは、特殊なものよ。アバターの管理をする研究室が渡したとしか考えられないわ。それを公表すると言ったら、何でも要求を聞くと言ってきたわね」
「ではクローラ王女は、オモチを失敗させようとはしてないのですね」
「当たり前じゃない。セルフィア王国の王女が手助けをするようなプレイヤーは、さっさと自分の星に帰ってもらいたいわ。オモチさんが永住することになると、サリィ王女は、ますます、この星に居座るでしょう?」
サリィさんを恐れてるのかな。あっ、そっか。セルフィア王国は、イービー星でトップなんだよね。
「なるほど。オモチへの治療も、彼女を星に帰すためなんですね? 薬湯を使うとは驚きましたよ」
「あのナイフを使って、誰かを殺そうとした痕跡を消す必要があったのよ。セルフィア王国に圧力をかけられる前に、この人工星で覇権を握ろうとしている者達には、ここを捨てて、星を出るように忠告したわ」
「なぜ、そのような忠告を? もしや、クローラ王女は、この世界が上書きされ始めたことを、ご存知なのですか」
この世界の上書き?
「あら? そんなことを暴露してもいいのかしら?」
「問題ありません。すでに多くの人が知っていることです。あぁ、クローラ王女が調査に来たのは、未来から来たロッコ族のことですね? 彼らは街にはいませんよ。未開発エリアで、元凶を潰す仕事をしているはずですから」
シエルさんの指摘に、クローラさんはフッと感情の読めない笑みを浮かべた。




