69、薬湯
翌朝、薬師が言っていたように、外に出られそうなほど、体力が回復していた。地下室に投薬治療に行った後は、久しぶりに外に出てみようかな。
朝食前に、シャルルさんに、今日の投薬治療後は外に出られることを、チャットしておいた。
シャルルさんからの返信はなかったけど、シエルさんからチャットがきた。シャルルさんが知らせたみたい。
『オモチ、外出できるようになって良かったよ。地下室に迎えに行くね。できそうなフリーミッションを手伝うよ』
あっ、来てくれるんだ。心強いけど、なんだか申し訳ない気がする。だけど断るのも良くないか。
『ありがとうございます。昼過ぎから、約3時間の投薬治療になると思います』
『わかった。シャルルさんから、やっておくべきフリーミッションを教えてもらったから、無理のない範囲でクリアしようよ。じゃあ、後でね』
シエルさんは、仕事は大丈夫なのかな? もう、乙男ゲームのテスト要員は、終わったかな。
朝食後のお茶を飲みながら、久しぶりにミッションを開いてみた。焦ると治療に悪影響だと薬師に言われていたから、全然見てなかった。ちょっと怖いな。
【ミッション28】未達成
ビンゴを1枚クリアしよう!
(残り8日13時間36分)
【ミッション20】恋人を作ろう!
【ミッション21】酒場に行こう!
【ミッション22】青く輝く湖を見に行こう!
【ミッション23】ショー劇場に行こう!
【ミッション24】異性のフレンドと話そう!
【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション26】看板通りに行こう!
【ミッション27】花壇のある公園に行こう!
随分と減ったけど、まだ余裕はある。今日は、ここに来て20日目か。思いっきり進めてなかったら、デイリーミッション失敗で、永住が決定してたよね。
そっか、20日目か。シエルさんのテスト要員の期間は、まだ残っているかな? 確か7日違いだったと思うけど。
◇◇◇
いつものように、宿屋のチェックアウト時に宿泊予約をしてから、地下室に降りた。
「オモチさん、こんにちは。こちらにお願いします」
あれ? いつもは、薄型テレビのような画面の前で、椅子に座って点滴を受けていた。だけど、薬師さんはベッドを指している。
「はい、ベッドに寝転ぶのですか?」
「今日と明日は、アバターの核となる部分の修復ですので、こちらの薬湯に入ってもらいます」
ん? お湯? ベッドの下には、湯船のようなものが用意されていた。
「服を着たままでいいのですか?」
「はい、問題ありません。あっ、携帯機は手に持って、上にあげていてください」
私は、携帯機を握って、ベッドに寝転ぶ。すると、湯船が上がってきて、私は、頭も沈んでる!? だけど、息苦しさはない。人肌くらいの水温だから、何だか変な感じ。
あっ、透明なカプセルみたいなもので蓋をされてる。携帯機を握った手だけは、カプセルの外みたい。
だんだん眠くなってきた。薬湯って、飲む物じゃないのね。身体がポカポカしてきたけど、水中という感覚はない。不思議すぎる。
◇◇◇
私は眠っていたみたい。目が覚めると、ベッドの上だった。もう、薬湯は片付けられている。
上体を起こし、寝ぼけた頭で周りを見回していると、知らない男性が、心配そうな顔で近寄ってきた。誰? 別の薬師だろうか。
「オモチ、大丈夫? なかなか目覚めないから、心配したよ」
この声って……。あっ! 寝癖みたいな髪型。プロフィールの写真と同じだ。
「シエルさん? 私、薬湯がポカポカで眠ってしまったみたいです」
「ふふっ、ポカポカだったんだね。よかったよ。薬師が、アース星の人に使うのは初めてだと言ってたから、ちょっと焦った。魂とアバターを繋ぐ臓器が損傷しているんだね」
「アバターの核となる部分の修復だと聞いてます。2日間と言われたから、明日もだと思います。あっ、私が寝てしまったから、もしかして、もう遅い時間ですか?」
「うん、今は、夜8時すぎかな」
ひぇっ! シエルさんには、昼から3時間の投薬治療って言ったよね、私。
「すみません。シエルさんを待たせてしまって……」
「ふふっ、気にしなくていいよ。今夜は、僕は眠らない日だし、寝起きのオモチを見れた。無理のない範囲で、出掛けようか」
「は、はい。あっ、薬師さんは……」
「食事休憩中だと思うよ。また明日の昼に来てください、と言ってた。しかし、薬湯を使うとは驚きだね。アバターを生み出すときの魔法薬だよ。宿屋ノーム側が支払うと聞いた」
「あ、はい。昨日、定額で払った一部の返金をしてもらいました。宿屋側にも落ち度があったから、一部を払ってくれるみたいです」
「そっか。たぶん、オモチの方が一部だと思うけどね」
「ええっ? そう、なんですか?」
「うん、外に出てみればわかると思うよ。僕を見て、すぐにわかったのも、薬湯の影響かな?」
「えっと、今のシエルさんは、アバターじゃないですよね? プロフィールで写真を見ていたし、声がシエルさんだから」
「ふふっ、そっか。オモチには声でバレたのか。久しぶりに自分の身体に戻ったから、まだ違和感があるよ。オトメンの研修期間の途中から、アバターだったからね」
確かに見た目は、印象が違う。以前のシエルさんより、少し大人な雰囲気だな。
「いつ、戻ったんですか?」
「一昨日だよ。昨日は、ダルくてほぼ寝てたかな。昨夜は少し仕事をしたけどね。アバターの頃とのギャップで、いろいろ失敗したよ。オルフルさんから、数日休んで調整しろと言われてしまった」
「叱られたんですか」
「そうだね。サリィさんの配慮かもしれないけどね。オモチの護衛ができる。もう、失敗はしないよ。さぁ、出掛けようか」
シエルさんは、手を出してくれた。




