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67、同じ船で来たというヒトが……

 シエルさんは、宿屋ノームのロビーまで、送ってくれた。そういえば、今日は護衛だと言っていたのを思い出した。夜0時を過ぎたからか、用心深い。


 宿泊者以外は、黒いじゅうたんの先へは進めない。シエルさんは、私がその先へ進むまで見届けるつもりのようだ。


「オモチ、明日は、また別の人が来ると思う。サリィさんが明日チャットすると仰っていたよ」


「わかりました。シエルさん、ありがとうございます」


「うん、じゃあね、おやすみ。ん?」




 ロビーのソファから立ち上がった女性が、私に近寄ってくる。あのソファに座っていたということは宿泊者よね? シエルさんは、少し警戒したみたい。宿屋の人も、シエルさんに合図されたのか、カウンターから、一人が出てきた。


「アナタ、私と同じ日に、神戸から来た人じゃない? そのアバターには見覚えがあるよ」


「えっ? あ、もしかして同じ船に乗ってました?」


「スープラ社の船旅でしょ? 私のハンネは、ユウカだよ。案内人のキコリさんに言って、全街の地図をもらって、各地を回っているのよ」


 ハンネって、ハンドルネームだよね? 私は使わない言葉だけど、少し上の世代の人が言ってた。そっか、あの船旅って、年齢層が高めだったな。


「ユウカさん? 私は、実家で飼っていた猫の名前を使っていて、オモチといいます」


「オモチさんは、ニャンコの名前かぁ。珍しいね」


「はい、ユウカさんは、ここに宿泊されてるんですね。初めてお会いしましたけど」


「私は、昨日からこの宿だよ。美味しい和食を出すって聞いたからね」


「朝食ですよね! すごく美味しいですよ」


 ユウカさんと話していると、シエルさんは警戒を解いたみたい。私に軽く手をあげて、宿屋から出て行った。あっ、ちゃんと挨拶できなかったな。


 シエルさんが出ていくと、フロントの人もカウンターへと戻って行った。




「オモチさん、今の人は、恋人なの? すっごいイケメンね。攻略対象じゃないよね?」


「今日、ミッションを進める手伝いをしてくれたんです。彼は、乙男おとめんゲームのテスト要員をしているそうですよ。話しやすいフレンドさんです」


「それって、イービー星の人ってこと? 狙ってるの? 船旅の参加者って、『月の世界の王子様』推しだよね?」


「狙ってないですよ。私も、『月の世界の王子様』がキッカケで、船旅に参加しましたし」


 私は、彼女の表情に、少し違和感を感じた。何だろう? 彼女は周りの様子も気になるみたい。ユウカさんとここで会ったのは、偶然なの?



「オモチさんは、誰の推し? やっぱりウィル?」


「そうですね。ウィル推しですよ。今日は、『青に染まるキミの春』のコンセプトカフェで、シャールくんを見ました。チラッとだったけど、ファンサービスでコンセプトカフェを巡っていたみたいです」


「シャールくんかぁ。ちょっと無愛想だよね。オモチさんは、ここに定住するの?」


「えっ? いえ……」


 どう答えればいいか、わからない。ユウカさんは、闇堕ちしたのだろうか。もしそうなら、帰るとは言いにくいな。


「ふぅん、キコリさんが言っていた残り一人って、オモチさんのことだったのね」


「その残りって……えっ、クッ……」



 何? 突然、左胸に、熱いような冷たいような強い刺激を感じた。息ができない? 胸の中で、何かが弾けるような違和感を感じた。



「ウィルのスタッフをしているくせに、何がシャールくんよ! さっきの人は、シエルくんでしょ? なぜアナタばかり、イケメンを独占してるの? 許さない!」


 ユウカさんが、何か叫んでいる。

 私は声を出せない。


 目の前がチカチカして、だんだん見えなくなってきた。最後に見えたのは赤いじゅうたん。私は……。




 ◇◆◇◆◇




 目が覚めると、私の目に映ったのは、見知らぬ土色の天井だった。起き上がろうとしても動けない。頭を上げると、胸に激痛が走った。


 胸に触れると、包帯が巻かれていることがわかった。どういうこと? 私は、シエルさんに宿屋に送ってもらって、それから……。



「お目覚めですね。オモチさん、状況はお分かりですか?」


 白いローブ姿の女性が近寄ってきた。


「わからないです。私は宿屋に送ってもらって、それから……あっ、同じ星から来たという女性と話していて、なぜか突然、胸が痛くなったような……」


「記憶は、大丈夫なようですね。オモチさんは、記録のない時間に、その女性にナイフで刺されたのですよ。宿屋ノームのロビーでの事件ですが、携帯機には記録されないので、その女性は罪に問うことができません。直前に一緒にいた方に連絡します。少しお待ちください」


 シエルさんを呼ぶの? そんなの迷惑になる。だけど、その女性は私から離れ、階段を上がってしまった。


 ここは、どこなのだろう? 私は、あの女性にナイフで刺された? でも魔法のある世界なのに、なぜ私は、包帯を巻かれて寝かされているの?




 しばらくすると、シエルさんはシャルルさんと一緒に来てくれた。


「オモチ、ごめん。僕が大丈夫だと思ったのが、間違いだった。夜0時を過ぎていたのに、ロビーで待っていた女性に、もっと警戒するべきだった」


「シエルさんのせいじゃないです。最後の一人だと言っていたから、闇堕ちしてないことへの逆恨みだと思います」


「オモチを、最後の一人って言ったのか?」


「はい。刺された後にも何か言っていたけど、よく聞き取れなかったから、わからないですが」


 シエルさんは、すぐにチャットを始めたみたい。サリィさんに報告してるのかな。



「オモチさん、アナタの身体は、止血以外は、全く治療されてないわ。対価なく他人の力を借りると、リタイアになるためよ。ここは、地の精霊ノームの加護がある宿屋の地下室よ。これからどうしたいかを教えてちょうだい」



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