64、シエルさんのミッション
シャールくん達が移動すると、大勢のファンも移動した。次のコンセプトカフェについて行くのかな。店の前に並んでいた人達も、半分以上がいなくなった。
私達は、すぐに店に入ることができた。しかも、いつも混んでいるのに、店内は半分近くが空席になっている。ある意味、ラッキーかも。
「急にガラガラになったね」
「そうですね。攻略対象の人達は、コンセプトカフェ巡りも大事な仕事なのでしょうけど、大変ですね」
私がスタッフ目線で話したためか、シエルさんは返事に困っているように見えた。でも、今、ここに残っているお客さんは、『月の世界の王子様』のファンもいるだろうから、変なことは言えないな。
「とりあえず、Aランチでいいよね。注文するね」
シエルさんは、そう言いながら、もう店員さんを捕まえていた。行動派だよね。
「あ、はい。わっ! 学食風なんですね。乙女ゲームでは、シャールくんはいつも、フライドポテトを食べてたんですよ」
シエルさんが持っていたメニューが見えた。夜営業のメニューに、フライドポテトがある。
「僕も知ってるよ。どんな味がするんだろうって、思ってた。アース星の料理だよね? ゲームに登場する料理の大半は、アース星のものだと聞いたよ」
「はい、よく知っている料理ですよ。シャールくんが食べていたのは、細長いフライドポテトだけど、いろいろな形があります。あっ、前にシエルさんと行った別のコンセプトカフェで、ポテトフライをたべましたよね?」
「ん? あれは芋をカットして揚げ焼きにしてあったでしょ。皮もついてたし、こんな細長くなかったよ。あー、これは夜メニューか。夜も来てみる?」
シエルさんは、フライドポテトが気になっているみたい。メニューをジーッと見てる。ふふっ、可愛いな。
「お待たせしました。Aランチです」
あっ、これは完璧に再現されてる。『青に染まるキミの春』の学食だ。
「おおっ! フライドポテトが付いてるよ!」
「ふふっ、そうですね。ゲームの学食が完璧に再現されていますよ。これはテンションが上がる」
シエルさんは、まず、フライドポテトから食べてる。しかも、シャールくんがやるように、二本同時につかんでる。
「結構、食べやすいな。もっと油っこいのかと思ったよ」
「そうですね。店によっては、もっとカリカリに揚げてあることもありますが、学食はこっちですよね。持つと少しふにゃっとする感じ」
「カリカリも美味しそうだね」
シエルさんは、料理人でもあるから、興味津々なんだろうな。それに、乙男ゲームのテスト要員をするときに、いろいろ勉強したみたいだから、乙女ゲームにも詳しい。彼自身も、乙女ゲームが好きだから、無理してテスト要員をしてるんだよね。
「あっ、シエルさんのミッションは、どうなってますか? 私にできることなら、お手伝いしますよ」
私がそう提案すると、彼は嬉しそうな顔をしている。もしかして、また期限ギリギリでクリアしてるのかな。
「オモチ、助かるよ。僕は、今日は19日目なんだけど、まだ、ミッション20なんだ。20日程でミッションを終えて、報告書をまとめないといけないのにさー」
「えっ! マズくないですか?」
「かなり深刻な状況だよ。まぁ、最悪30日目まで延ばしてもらえるけどね。早く食べて、あちこち回ろう。僕のミッションは、フレンドと有名な公園に行こう、で止まってる」
シエルさんは、フレンドは少ないんだっけ。私も、次のミッションを確認した。あれ? 簡単だ。あと5つか。終わりが見えてきた。
【ミッション26】未達成
看板通りに行こう!
(残り14日9時間35分)
「私は、看板通りです。法則が完全に崩れたのかな」
「まだ恋人は出ないんだね。あっ、もしかすると、グループチャットの影響かな? オモチは永住すると判断されたのかも」
シエルさんは、後半部分は、ギリギリ聞こえる小さな声だった。すごく配慮してくれる。
「そうだといいのですけど。とりあえず、有名な公園ですよね? 早く行きましょう。どこがいいかな?」
席を立ち、私が地図を見て考え始めると、シエルさんが会計を済ませてしまった。
「あっ! 私が払う番だったのに」
私がそう言うと、シエルさんはクスッと笑った。彼の想像通りの反応をしてしまったのかな。
「ミッションに付き合ってもらうから、僕が出しておいたんだよ。オモチは相変わらず、律儀だよね。行くよ」
シエルさんは、私と手を繋いで店を出た。あっ、そうか。彼も主人公だから、話しかけられないようにしたいのね。ゲームの恋人になりたがるのは、それが主な理由かも。
◇◇◇
コンセプトカフェを出た私達は、お互いのミッションをクリアしようと、あちこち歩き回る。
まず、ゲームに登場する公園に行き、シエルさんが止めていたミッション20をクリアした。そして、フレンドと話そう、看板通りに行こう、街歩きをしよう、湖のある公園に行こう、をクリア。
ちょっと疲れてきたところで、コンセプトカフェに行こう、が出たので、あまり混んでない店に入り、お茶をすることにした。
「オモチのおかげで、ミッション25も、これで達成だな。残り5つか。一気に気持ちが楽になったよ」
席に案内されると、シエルさんは、二人分の紅茶と焼き菓子を注文していた。私の好みを完璧に把握されてる。もしかすると、シエルさんの好みと似ているのかな?
「私も、さっき、同じことを考えていました。看板通りも行ったから、私はあと4つかな? あれ? 3つだ。でも、ミッション28のこれって、初めて出ました」
自分の携帯機を穏やかな表情で眺めていたシエルさんは、私が見せたミッションを見て、一気に凍りついていた。




