63、ミッションの法則が崩れた
翌朝、私はいつものように、宿屋の食堂で豪華な朝食を食べた。蛍光色のロッコロッコ星の料理だったから、食べるのが楽しい。
シエルさんからチャットが届いた。彼とは毎日チャットしてる。
『オモチ、おはよう。次のミッションは何? オルフルさんに言われて、今日は俺がオモチの護衛をすることになった。昼12時に、宿屋のロビーで待ち合わせよう』
私の護衛?
そういえば、イービー星の人が護衛するだろうと、ウィルが言ってたっけ。グループチャットを見たファンが騒ぐから、ルナシティには、しばらく行かない方がいいんだよね。
私は、朝食後の不思議なお茶を飲みながら、ミッションを開いてみた。
【ミッション24】未達成
異性のフレンドと話そう!
(残り12日13時間38分)
【ミッション12】酒場に行こう!
【ミッション13】ショー劇場に行こう!
【ミッション14】看板通りに行こう!
【ミッション15】恋人を作ろう!
【ミッション16】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション17】街歩きをしよう!
【ミッション18】静かな公園に行こう!
【ミッション19】異性のフレンドと話そう!
【ミッション20】恋人を作ろう!
【ミッション21】酒場に行こう!
【ミッション22】青く輝く湖を見に行こう!
【ミッション23】ショー劇場に行こう!
次は簡単なミッションだ。ショー劇場のあと、ウィルと話したけど、ウィルはフレンド登録してないから、クリアされてないのね。
私は、シエルさんに、次のミッションをチャットしておいた。少し待っても返信はない。たぶん、サリィさんやオルフルさんに伝えてるのだと思う。
前回は、このミッションには気づかずに、知らないうちに達成されたっけ。ラムネさんに連れて行かれた公園で、レオンと話したからか。
あのときの恐怖がよみがえってきた。ウィルが来てくれなかったら、私は今頃……。
この世界には、主人公を闇堕ちさせようとする人と、助けようとしてくれる人がいる。もう、油断してはいけない。せっかくウィルが助けてくれたんだから。
◇◇◇
私は、いつものように、チェックアウトと同時に、宿泊予約をした。もうフロントの人も、覚えてくれたみたい。私から言わなくても、宿泊予約をするかと聞いてくれる。
「オモチ、お待たせ」
「シエルさん、早かったですね」
「あぁ、変なのが近寄って行くから、慌てて来たんだよ」
走って来たのかな。シエルさんは、肩を上下に揺らし、呼吸を整えている。
「今、喋ったから、これでミッションは達成だよな? 次は、また恋人か? シャルルさんが、そうじゃないかと連絡をくれたよ」
「見てみますね」
私は、携帯機のミッションを開く。ミッション24は達成されている。そして次は……あれ?
「シエルさん、法則が崩れました」
私は彼に、ミッションを見せた。ミッション10以降は、5日ごとに恋人を作ろう、が出ていたのに……。
【ミッション25】未達成
コンセプトカフェに行こう!
(残り13日12時間11分)
「絶対に恋人だと思ってたんだけどな。こっちの対策に気づいて、わざと外したのかもしれない」
それで、シエルさんが来てくれたのね。彼の少しガッカリした表情が、かわいい。
「この次に、出るかもしれませんね」
「あぁ、そうだな! オモチは、どこのコンセプトカフェに行きたい?」
あっ、ちょっと元気になってる。
「私、この街がメインのコンセプトカフェには、まだ行ってないです」
「混んでると思うよ? でも、フリーミッションがあるから、行っておくのもアリかな。よし、じゃあ、行こう!」
シエルさんは、覚悟を決めたみたい。混雑が嫌いだもんね。ん? 何? 彼は手を出してる。
「えっと、手を繋ぐ、の?」
「繋ぐの! じゃないと物騒でしょ? 僕はあまり見てないけど、グループチャットでは、結構な騒ぎになってるからね」
「そう、なんですね。サリィさんの作戦は大成功ですね」
「いや、サリィさんは失敗したと仰っていた。ファン心理を考慮してなかったみたいだよ」
「なるほど。ルナシティには、2〜3日は行かない方がいいみたいです」
私がそう言うと、シエルさんは、なぜか固まってる。
「次のミッションに、出たりして」
「ちょ、そんな、フラグ立てないでくださいよー」
「フラグを立てたのは、オモチだよ。だが、僕と一緒なら、ルナシティでも大丈夫だ。主人公をしている影響はあるけど、オモチを守るくらいのことはできる」
最後の部分が、自分で言って照れ臭かったのか、シエルさんは、少し赤くなったように見えた。
「ありがとうございます。でもルナシティは、2〜3日は行かない方がいいですよ」
「まぁ、そうだね」
私達は、手を繋いで、宿屋ノームから外へ出た。ゲームの恋人時間じゃないのに、これは……なかなか恥ずかしい。
◇◇◇
宿屋から一番近い、『青に染まるキミの春』のコンセプトカフェに歩いて行くと、店の前は、すんごい人だかりになっていた。
「うわぁ、混んでるね。昼食時間だからな」
「そうですね。でも、女性客ばかりですね。いつもなら、男性も多いのにな」
店の前の列に並んでいると、しばらくして、その原因がわかった。店から、スタッフのパーカーを着た人達と、学生服の美形が出てくるのが見えた。
昨日、私はスタッフに紛れていたから、よくわかる。これは、コンセプトカフェ巡り。ということは、『青に染まるキミの春』の攻略対象だ! 誰だろう?
「あぁ、そういうことか。シャールだね。彼らが移動すれば、店に入れるんじゃないかな」
「シャールくん?」
私の声は、大騒ぎするファンによってかき消された。チラッとだけ見えたシャールくんは、笑顔だけど、疲れているように見えた。
ウィルと一緒だな。




