62、舞台役者のウィル
大きなパフェを食べ終えた私達は、これからウィルが出演する、ショー劇場へと移動した。長い休憩時間だったな。
関係者の入り口に立つと、ケイトさんは、マネージャースイッチが入ったみたい。さっきまでとは別人に見える。身体の中の魂が入れ替わるのかな。今は、大人のケイトさんね。
私はケイトさんの後ろにいるだけでも緊張するのに、彼女はすごいな。娘さんの身体に転生する前から、ウィルのマネージャーをしていたのだろうか。
「わっ! 着物?」
私達が控え室へ入っていくと、ウィルが舞台衣装を身につけて、舞台化粧をしているところだった。和装っぽい衣装は、とても似合っている。
「オモチは、生クリームを食ってきたのか?」
「へ? あ、えっと、パフェを……なぜ、わかるんですか」
「ふっ、髪に付いてるぞ。左側だ」
嘘っ! 左側の髪を見てみると、ちょっとテカテカしている場所があった。持ち上げて確認すると、確かに生クリームの匂いがする。
「すごい観察眼ですね」
「ケイトは、右の袖口に、べっとりと生クリームが付いてる。楽しい女子会だったらしいな」
指摘されたケイトさんも、慌ててスタッフのパーカーを脱いで確認している。あっ、何か魔法を使った。生クリームを落としたのかな。
「ウィルさん、準備は大丈夫ですか」
「あぁ、問題ない。ここから先は、ただの役者だからな。気分も良い」
「それなら良かったです。私達は、関係者席で鑑賞しますね」
「今夜は、ケイトも観るのか? 緊張してきたじゃないか」
ウィルがそう言うと、ケイトさんは冷ややかな表情を作った。するとウィルは、ククッと笑っている。自然な笑顔に見えるけど、ケイトさんからは、ウィルは感情のない人形に見えているのかな。
◇◇◇
私達は、スタッフのパーカーを着たまま、ショー劇場の客席に移動した。関係者席は最後列みたい。
次々に入ってくるお客さんに礼をして、出迎える。客席の場所を尋ねる人もいて、私はアタフタしていたけど、他のスタッフが対応してくれた。
私達以外にも、別の制服を着た人達がたくさんいた。出演する役者さんの関係者らしい。主要な役者のスタッフは、関係者席に座れるけど、立ち見をするスタッフの方が数は多い。
舞台が始まった。
以前、シエルさんやサリィさん達と見たショーとは違って、普通の演劇みたい。だけど、使われている曲には覚えがあった。同じ曲だ。四大精霊に関する演劇なのね。
ウィルが演じるのは、四大精霊の一人、水の精霊ウンディーネ。控え室では、普通に和装だと思っていたけど、照明が当たると半透明に見えた。精霊っぽくて、すごく素敵。
主役は、火の精霊サラマンダーみたい。以前とは違ってセリフもあるけど、同じ物語なのだと感じた。敵のドラゴンは、魔法で作り出していたみたい。客席をドラゴンが飛び回るから、すっごくドキドキする。
四大精霊がドラゴンを討伐し、街に平和が戻ったところで、演劇は終了。そして、ハープのような楽器が演奏される中、順に役者さんが紹介されていく。
ウィルは、すっごく拍手されてる!
スタッフとして行動していたからか、浮かれる気分よりも、ホッとしたかな。無事に終わって、ウィルがたくさん拍手をもらえて、良かった。
◇◇◇
私達が控え室に戻ると、ウィルは、もう、着替えを済ませていた。ちょっと機嫌が悪そう。
「ウィルさん、セリフが一つ飛びましたね? アドリブで繋いでいたけど、焦りがお客さんに伝わりますよ」
ケイトさんは、そんなチェックをしていたの?
「わかってるって。セリフが飛んだのは、俺だけじゃないよ。主役が酷かったから、みんなグダグダになったんだ」
全然、グダグダじゃなかったよ?
「やはり、演劇のレベルは、ルナシティの役者さんの方が高いですね」
「あぁ、だが、ルナシティは、音楽の奏者が良くない。オモチが見たショーとは、格が違っただろ? 一流の奏者は、イービー星の専用レストランにしか出演しないからな」
ウィルは、自分にも他人にも厳しいんだ。
「オモチさんは、イービー星の専用レストランでショーを観たことがあるのですか?」
あっ、ケイトさんが食いついた。
「はい、でも、セリフはなくて、演奏と魔法だけで綴られる演劇でした。役者さんは居なかったから、単純な比較はできないです」
「俺も、観てみたいな。はぁ、疲れたぜ。オモチを送りたいが、今の俺だと、どこに着地するかわからない」
ウィルは、観てみたい、という言葉を打ち消すように、荒っぽい話し方をしてる。
「私は、転移屋で帰るので……」
「オモチ、今、何時かわかってるか? 転移屋がどこに運ぶか、わからないよ」
「えっ、どうしよう」
「オモチの次のミッションは……あー、明日は無理か」
ウィルは、明日もミッションに付き合ってくれるつもりだったの? なぜ? あ、噂の打ち消しがまだできてないと思ってるのかな。
「ウィルさん、2〜3日は空ける方がいいです。チャットを見たファンが、レストランで声をかけてきましたから」
「なっ? そうか。オモチ、明日は、イービー星の護衛がつくだろうから、護衛と一緒に行動しろよ? まぁ、ルナシティくらいしか、過激なファンは居ないけどな」
あの女性、ちょっと怖かったもんね。
「わかりました。気をつけます」
「じゃあ、オモチを送ってから帰るぞ」
ウィルがそう言うと、弁当担当のスタッフさんが、全員をジュエンの宿屋ノームの前に、転移してくれた。
「皆さん、ありがとうございました」
私が頭を下げたけど、彼らは消えない。
「オモチさん、宿屋に入って」
ケイトさんにそう言われて、私は慌てて、宿屋の扉を開いた。そして、振り返ったときには、彼らは転移魔法の光に包まれていた。




