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61、ケイトさんと女子会

 ウィルが舞台の稽古をする間は、スタッフ達の休憩時間になっていた。多忙なウィルを支えることは、本当に大変な仕事だと思う。


 私達は、スタッフのパーカーを着たまま、食事をすることになった。ケイトさんが女子会と言っていた通り、私とケイトさんの二人っきりだ。


 たぶん、ケイトさんが配慮してくれたのだと思う。昨日、私は怖い思いをしたから、男性が同席しない方がいいと考えてくれたんだろうな。




「オモチさん、お腹が空いたわよね? 今日は途中で食べる暇がなかったもん」


 この話し方は、娘さんの方の感覚かな?


「お腹ぺこぺこですよ。ケイトさん、この店はコンセプトカフェなんですか?」


「ここは、コンセプトカフェではなくて、女性限定のレストランだよ。セントプレスの街には、こういう店が多いの。女尊男卑な価値観の人が多いからかも」


「女尊男卑?」


「ええ、乙女ゲームって、男尊女卑な物語が多いでしょ? 男性は地位も名誉もあって、女性主人公が庶民という設定になってる」


「確かにそうですね。『月の世界の王子様』も、主人公は平民で、攻略対象は王子様だから、完全なシンデレラストーリーです。あっ、だから、この街では、あまり人気がないのかな」


 私がそう指摘すると、ケイトさんは、右手の人差し指を立てた。なんだかウィルと似てるかも。娘さんだから当然だけど。


「当たりよ。女尊男卑な価値観の人でも、攻略対象が四大精霊なら大丈夫みたい。精霊に仕える人達が、攻略対象の精霊を演じてるんだけどね。みんな上品なのよ」


 もしかすると、ケイトさんは『四大精霊物語』が好きなのかも。



「お待たせしました。本日の定食です」


 注文してないのに料理が運ばれてきた。ホール係は、男性ばかりなのね。


「すごく綺麗ですね」


「オモチさん、女性限定の店は、どこも美味しくて綺麗な料理を提供するのよ。たぶん、お客さんに鍛えられてるのね」


「ちょ、私達は、スタッフのパーカーを着てるのに……」


「ん? いいのよ。全く知らない客より、素性がわかる方が安心でしょ」


 私はすぐに、ケイトさんの指摘通りだと理解した。常連客が多い店では、素性のわからない客を警戒するみたい。


 私達が、あれこれと言っていても、ホール係の店員さん達は、苦笑いしているだけで、あまり気にしないみたい。これは、常連客も同じだと思う。


 だけど、初めて来たお客さんには、多くの視線が突き刺さっている。あー、主人公なのかも。私達のスタッフのパーカーを見て、何か言ってるし。




「オモチさん、食後のデザートはどうする? 私はねー、このジャンボパフェに挑戦してみたいのよねー」


 また、娘さんスイッチが入ってるかな。ケイトさんは無邪気な笑顔で、大きなパフェの写真を指差してる。


「ケイトさん、それって、グループでどうぞって書いてありますよ? 4〜5人でシェアするのでは?」


「え〜、せっかくの女子会なのにー」


 絶対に、娘さんスイッチが入ってるね。


「わかりました。じゃあ、それにしましょう。でも、食べられるかな?」


 私は不安を口にしたけど、ケイトさんは、もう注文してる。そっか、スタッフは男性ばかりだから、食べたくても食べられないよね。


 だから、はしゃいでるのかな?


 ケイトさん自身も、大人の彼女の魂が、娘の魂と融合して、だんだん置き換わってしまうことが怖いだろうな。


 これは、思い出作りなのかも。


 アバターという技術は、ある意味、残酷だと感じる。生きている人の転生なら、空っぽのアバターに入るのに、亡くなった人の転生は、自分の娘の身体に同居することになるなんて。



「写真より大きくないですか?」


 運ばれてきたジャンボパフェがテーブルに置かれると、ケイトさんの顔の下半分がパフェで隠れた。


「すごく大きいね! 上手く食べないと、どんどん溶けるよー。あはは、楽しい! オモチさんも早く食べて!」


「美味しい! これならいけるかも?」


「うんうん! いけるいける」


 溶けてくると、ケイトさんが器用に魔法を使って、凍らせてくれる。魔法って便利ね。




「ちょっと! 貴女って、ウィルの恋人なんでしょ!?」


 ジャンボパフェを半分ほど食べた頃、知らない女性が私達のテーブル横に立った。ケイトさんのことかと思ったら、私を睨んでいる。


「へ? 私、ですか?」


「そうよ! しかも、ウィルのスタッフなの? ひどいじゃないの!」


 彼女が何を怒っているのか、わからない。私がキョトンとしていたせいか、その女性は、携帯機を私に見せた。


 あっ、花火のメモリーを買ったのか。


「これは、貴女よね? オモチという名だったかしら。ダミー情報だと騒がれているけど、ウィルとデートしていた画像が、いくつもグループチャットに流れていたわよ!」


 今度は、チャットの写真を見せられた。昨夜の店の上からの画像の悪い写真か。やはり出回ってたのね。


 どうしようかと、私はケイトさんの方に視線を移した。あっ、彼女もチャットを確認しているみたい。



「ウィルさんのファンの方ですか?」


「当たり前でしょ! 『月の世界の王子様』なら、ウィル推しよ!」


「ありがとうございます。そちらのチャットは、私達の宣伝活動の一つでもあります。今日はセントプレスで、ファン会館の公演とコンセプトカフェ巡りをする予定になっていましたので……」


 マネージャースイッチを入れたケイトさんが、にこやかな笑顔で、そう説明した。にこやかだけど、威圧感が半端ない。


「なっ? 宣伝活動?」


「セントプレスでは、『月の世界の王子様』は、人気がないので、話題作りです。我々が意図したものとは異なる写真も流れているようですね。すぐに改ざんされてしまうんですよー」


「ふん、それなら、いいわ」


 その女性は、チッと舌打ちをして離れていった。怖っ。


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