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60、感情のない人形

 私は、ウィルのスタッフの人達に紛れて、『月の世界の王子様』のコンセプトカフェ巡りに同行した。


 ウィルは、深夜のショー劇場まで、私を保護してくれるつもりみたい。控え室を出てからは、ウィルとは話をしていない。セントプレスの街にあるコンセプトカフェを、次々と移動して巡るハードな仕事だった。


 仕事とはいっても、私がやっていたのは、たいしたことじゃない。『月の世界の王子様』の攻略対象ウィルが次に行くコンセプトカフェに先回りして、店と事前の打ち合わせをするケイトさんの後ろでニコニコしているだけのこと。


 この街では、『月の世界の王子様』のコンセプトカフェでも、反応が薄いと感じた。ウィルの名前を出すと、店員さんは、やっと笑顔を見せてくれる。


 他の攻略対象の女遊びが、知れ渡っているのだろうな。私を狙ったカイルやレオンよりも、他の攻略対象の方が、さらに印象が悪いみたい。


 セントプレスという街のことは、私は全く知らない。だけど、いくつかのコンセプトカフェを回っているうちに、別のコンセプトカフェの方が圧倒的にお客さんが多いことに気づいた。


 この街は、四大精霊が登場する乙女ゲームのメイン舞台なのかな。どの看板通りにも、ファン会館で見た四大精霊のポスターが並んでいる。




「オモチさん、大丈夫? あと1ヶ所で終わりよ」


「はい、大丈夫です。セントプレスって、『四大精霊物語』のメイン舞台なんですね。私がいた星には、まだ配信されてなかったから、どんなゲームなのかは知らないですけど」


 気遣ってくれたケイトさんにそう返すと、彼女は軽く頷いた。私の予想は正しかったみたい。


「名作だと言われているわね。しかも攻略対象は、精霊に仕える人達ばかりだから、上品だし能力も高い。この街では、『月の世界の王子様』のファンは、ほとんどいないわ」


「それなのに、ファン会館で公演をしたり、コンセプトカフェを回っているのですか?」


「ええ、制作や運営からの販促活動の指示があるのよ。もうすぐ終わるけどね。それが終わると、彼らは追放されるかもしれないけど」


 メイロ星の人達のことには、私が口を出すべきじゃないよね。しかし、ケイトさんの表情が暗いな。



「もしかして、ウィルさんは、この街にはファンが少ないから、私をスタッフ扱いで保護してくれる気になったのでしょうか」


「そうね。ルナシティでは、見慣れないスタッフを同行させること自体が危険だけど、セントプレスでは無関心だからかな。オモチさんは、ウィルさんが好きなの?」


 えっ!? どうしよう。


 ウィルの娘であり恋人でもあるケイトさんに、どう答えればいいかわからない。ケイトさんは、ウィルの恋人だったから、殺されたのよね。たぶん、ファンに……。


 だけど、変に隠すのもおかしいか。



「私が、この星に来るキッカケになったのが、ウィル王子なんです。だから、ウィル推しですよ。でも、ウィルさんのことが好きかは、自分でもよくわかりません」


「わからないって、どういうことなの?」


「今は主人公だから、アバターが放つ魅了魔法にかかる人が多くて、私には、その人の真意を見抜けないためだと思います。それに私はミッションを終えたら、星に帰りたいと思ってますから」


「あっ、そっか。そうでしたね。すみません。今の私は、ウィルさんの娘の感覚の方が強くて、幼い言動が多くて、恥ずかしいです」


 なるほど。二重人格というか、ケイトさんと娘さんの二人が、一つの身体に同居しているのね。今の言葉は、大人のケイトさんか。


「いえ、大丈夫ですよ。ケイトさんは、ウィルさんの恋人なんですよね? 心配しないでください。ウィルさんから見ると、私はムカつく存在みたいですし」


 ちょっと悲しいけど、でも、仕方ない。


「私は、ウィルさんのマネージャーですよ。恋人だった頃の感覚とは、随分と変わってしまいました。私達は、彼の人気が出る前に付き合っていたから、その頃と今では、彼自身も変わりましたからね」


「ウィルさんは、スターですもんね」


「オモチさんには、そう見えるのですね。私の目には、彼は、感情のない人形のように見えています。私が殺された後、何人も恋人を作っていましたけどね。その度に、魂が削られていくのか……あぁ、変な話をしてすみません。あ、あの店で、最後ですね。行きましょう」


 感情のない人形?


 目的地に着いたことで、ケイトさんは、お仕事スイッチを入れたようだ。




 ◇◇◇



「お疲れ様でした。ウィルさんを稽古場に放り込んだら、私達も休憩にしましょう」


 私達は、コンセプトカフェ巡りを終えたウィルと、やっと合流した。私が同行していることを確認すると、ウィルがホッとしたような笑みを浮かべている。


「ケイト、俺は邪魔なのかよ」


 ウィルは、ケイトさんには甘えるんだな。


「邪魔よ。女子会は、女子しか参加できないのよ」


 ケイトさんがそう言い返すと、ウィルは、フッと満足げに笑った。今の会話は、娘とのやり取りだったのかな。



 転移魔法は、弁当係の男性が担当しているようだ。彼は以前から魔導士だったらしい。また、ウィルの近くにいる人達は、メイロ星にいた頃からの友達だと聞いた。


 今、ウィルを支えているのは、昔からの友達だけだそうだ。ウィルは、昔からの知り合いとケイトさん以外は、信用してないみたい。王城にいたバトラーも、ウィルの昔からの知り合いだと聞いた。


 ウィルが言っていた親しい人達は、彼らのことなのよね? 彼らは、ウィルの心が壊れていく様子に気づいていて、それでも支えている。彼らがいるから、ウィルは、今も頑張れているのかな。



 私達は、ショー劇場近くの稽古場へと移動した。



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