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58、なぜかセントプレスの街へ

「はぁ、悪い。今日は特に、病的だな、俺は」


 ウィルの頭を撫でていると、しばらくして彼は私の肩から離れた。地面に落ちたキャップを拾うと、魔法で泥を払ったみたい。


「ファンサービスで疲れていたのに、私を保護してくれたから、疲れが限界を突破しちゃったのかも」


「だから、それがムカつくって言ってんだろ!」


 そう言いつつ、ウィルの表情は柔らかい。


「疲れてるから、ムカつくんだよ。そういうときは、甘い物がいいよ。あっちにアイス屋さんの屋台が出てたよ」


「オモチがアイスを食いたいんだな。仕方ないな」


 ウィルは、キャップを深く被り、私の腕をつかむと、アイス屋を目指して歩いていく。まだ少し目がうるんでいるけど、泣いているようには見えないから大丈夫ね。




 ウィルは、屋台でアイスを買ってくれた。


「ありがとう。私、ずっと奢ってもらってばかりだね」


「変な奴だな。オモチは主人公なんだから、奢ってもらうのは当たり前だろ?」


「そうなのかな? でも主人公って、デイリーボーナスもあるし、お金には苦労してないよ?」


「ふぅん、変な奴」


 ウィルは、アイスを食べているうちに、調子が戻ってきたみたい。何だか不思議だな。私はウィルと並んで、アイスを食べてる。ウィルは、スターなのに。


 チラッと携帯機を見て、ウィルとの恋人時間が、もう1時間を切ったことに気づいた。あれ? 15時から、どこかで公演だったよね? もう14時半を過ぎている。



「ウィル! 大変! 時間だよ? 公演があるんだよね?」


「あぁ、そうだな。今日は、この後はずっと、セントプレスだ。公演の後は、コンセプトカフェを回って、夕食後はショーの練習をして、ショー劇場で舞台だな」


「じゃあ、早く行かなきゃ! アイスを食べようって言ってゴメン。時間ヤバくない?」


 私が早口でドワッと喋ったからか、ウィルはキョトンとしていた。


「オモチは、そんなに早くしゃべれたのか」


「へ? 慌ててるからだよ。もう、行って。私はひとりで帰れるから。今日は、ありがとう!」


「オモチは、そんなに俺を追い払いたいのか?」


「追い払いたいとか、そんなんじゃないよ。もうすぐ公演の時間だから、焦ってるの!」


 ウィルは、全然焦ってないみたい。



「時間になれば、強制転移で会場に移動させられるから、気にしなくていいよ。オモチも来る?」


「えっ? いや、私は、セントプレスって知らないし」


「でも、次のミッションは、ショー劇場だろ? ショー劇場が開くのは深夜だから、またフレンドに騙されたら困るだろ」


「もう騙されないから」


「信用できないね。オモチは、あまりにも無防備だ。それに、まだ、ロッコロッコ星の魔導士が言っていた作戦は、上手くいってない」


 ウィルは、心配してくれてるの? あ、ゲームの恋人時間だから、主人公の魅了にかかってるのかも。うっかりついて行って、恋人時間が終わったら、私は知らない街で、路頭に迷うことなる。



「あー、時間みたいだな」


 ウィルの足元に魔法陣が見えた。


「じゃあ、ね。お仕事がんばって……ええっ!?」


 突然、ウィルに抱きしめられて、食べかけのアイスを持ったまま、私も転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇



「ありゃ。ウィルさん、何をしてるんですか!」


「アイスを食ってたら、拉致されそうになったから、オモチにつかまったんだけど?」


 拉致って……。


 私達が転移した場所は、小さな控え室のようだった。大きな鏡があり、化粧品の匂いがする。


 ウィルに説教をしたのは、マネージャーなのかな? あっ、ルナシティで、ウィルの護衛をしていた女性かも。



「規定時間の5分前に来てなかったら、強制転移ですよ。オモチさんは、主人公なんですね。席を用意しますから、公演を見て行かれますか?」


 えっ、レオンも居るよね?


「ケイト! ダメだ。昨日、カイルとレオンから保護したんだよ。怖い思いをしている。オモチは、星に帰らせてやりたい」


「被害者でしたか。では、なぜ、連れてきたのですか」


「アース星の主人公は、狙われてるからな。次のミッションは、ショー劇場だぜ? 関係者扱いで保護してくれ」


「はぁ? とりあえず、ウィルさんは公演ですよ。それが終わるまでは、私が保護していますから」


 ケイトと呼ばれた女性がそう言うと、ウィルは、服を着替え始めた。そして、たぶん少し遅刻だと思うけど、その部屋から出て行った。




「オモチと申します」


 まだ、恋人時間が残っているから、私から話しかけた。


「ウィルさんのマネージャーをしているケイトです。私のことは、何か聞いてますか?」


「いえ、何も。急に、知らない街に来てしまって、驚いています」


「ウィルさんとのご関係は、24時間の恋人でしょうか? 残り時間は、確か30分程度ですね」


 さすが、完璧に把握されている。


「はい、そうですね。公演中には、恋人時間は終了します。たぶん、ウィルさんは、恋人時間が終われば気が変わると思いますし、私は失礼しますね。近くに転移屋さんは……」


「公演が終わるまで私が保護すると約束しました。帰るのは、ウィルさんの許可をもらってからで、お願いします。よかったら、公演の様子のモニターを見られますか? 私はチェックの仕事があります。この控え室には、カイルさんもレオンさんも、入ってきませんから」


「は、はい。では、一緒に見させてください」


 私は、溶けかけたアイスが床に落ちないように、慌てて食べ始める。


 ケイトさんは、モニターを付けると、何かの道具を持って、その前に座った。お仕事の邪魔をしないようにしなきゃ。



 モニターに映ったウィルは、キラキラしていた。以前に見た公演とは印象が違う。


「あら、今日は元気ね」


 ケイトさんが少し驚いたような顔で、小声で呟いた。



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