55、壊れている?
ケーキを食べ終わると、ウィルは、カーペットにゴロンと寝転んだ。そしてすぐに、うつ伏せになってる。
あっ、携帯機を見てるみたい。さっき言っていたグループチャットを確認してるのかな?
「イマイチだな。オモチも転がりなよ。こうすれば、携帯機は監視カメラに映らないからな」
ええ〜? 寝転ぶの?
ウィルは、隣をトントンと叩いてる。私はそろりと、うつ伏せに寝転んだ。するとウィルは、頭を近づけてくる。フードで隠しながら、携帯機を見せてくれてるみたい。
「あれ? 写真?」
「あぁ、オモチに協力してもらったメモリーだよ。花火がメインになってて、俺達だとはわからない」
私も携帯機を出してみた。あっ! ある! 二次元のウィルは、私がよく知っているウィルだよ! 私が作った二次元のアバターとウィルが並んで、花火を見ている!
「わっ! ウィルと私のアバターが並んでる写真! 私、この旅に申し込んだとき、ウィルと一緒に写真を撮りたいって思ってたんですっ!」
舞い上がった私は、思わず、足をパタパタさせていた。あっ、しまった。引かれてしまう。
そっと、ウィルの顔を盗み見ると、彼の表情は優しかった。演技かな? でも、目も穏やかだと思う。
「オモチは、そんなにウィル王子が好きなんだな」
ウィル王子? なんだか他人事みたいな言い方。
「ここに来るキッカケが、エンディングでウィル王子から、会いに来ないかと言われたことですからね。乙女ゲームの制作地で、ファンミーティングか何かのイベントがあるのだと思っていました。まさか、ウィル王子が実在するとは知らなかったし」
「ウィル王子は、実在しないよ」
「えっ? あ、ウィルは……」
「俺は、ただの難民だ。メイロ星では役者をしていたから、ゲームに採用されやすかったんだと思う。あの頃は、この人工星に移住させてもらった礼をしたいと考えていた。100万人ほどを移住させてもらったからな」
「役者だったんですね。演技力がすごいと思ってました。メイロ星から来た人は、100万人もいるんですね」
「今は、半分くらいじゃないかな。街には、1万人も居ないよ。ほとんどは研究所の下働きだな。新規エリアの開発の仕事をしている」
「研究所ですか。街にいる人は、乙女ゲームに出演した人なんですか?」
「あぁ、そうだな。監視者が追放しようとしているのが、街にいる難民だ。新規エリアの開発をしている難民の一部も、その対象だな。メイロ星の出身者は、基本的に野蛮なんだよ」
なんだかウィルは、懺悔をしているように見えた。
「何か、あったんですか?」
「ふっ、アース星の子には理解できないようなことだよ。あー、こんな言い方はすべきじゃないな。悪い」
「いえ、私も、プライベートなことを聞いてしまって、すみません」
私も謝ると、ウィルは少し意外そうな顔をした。変なことを言ってしまったのかな。
「オモチは、ちょっと変わってるね。この星に来る乙女ゲームのファンは、もっと強引だし、自分の欲に忠実なんだよ。アース星の子は、純粋な色欲があるだけだから、まだマシだけどな」
色欲って……。そっか、ウィルは今までに、いろいろと嫌な思いをしてきたのかも。
「攻略対象になると、ファンが押し寄せてきて、大変そうですよね」
「まぁね。アース星以外のファンは、俺達の護衛を殺すことも少なくない。だから、大きな公演のときは、魔導士を護衛に付けることになっているよ」
「えっ? 護衛が殺されるんですか!」
「あぁ、狂ったファンは、怖いよ。今回の恋人ごっこが終われば、イービー星の人が、オモチの護衛をするんじゃないかな」
「私の護衛?」
「俺に関する噂は、もともとは、そういうヤバイファン対策として、広めたんだよ。だが、噂は途中で変わるんだよな。最初は、主人公へのファンサービスをメインにすると言ってただけなのに、アイツらが女遊びを始めたこともあって、変な方向に噂が進んだ。それで俺が、男同士の方が気楽だと言ったら、男色だと言われる。どうしようもないよ」
ん? ファン対策のために、噂を流した?
「もしかして、ウィルは、女性に恋愛感情を持つことはない、のではなくて、ヤバイ女性ファンが嫌いってことですか?」
そう尋ねると、ウィルは、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。図星? シャルルさん達の中で広がる噂は、真実ではないの?
「オモチは、どう思う?」
「えっ? 私? えーっと、まだよくわからないです」
「ふっ、そうか。俺も、よくわからないんだよ。ただ、俺が付き合った女は、すぐに殺される。だから、恋人は男に限定している。たぶん、性別はどうでもいいんだろうな」
そう、なんだ。
「なんか、達観してますね」
「達観か。そう言われると俺がすごい人のように聞こえるな。親しい人達は、俺が壊れていると思っているよ」
「壊れている? なぜ……」
「俺は、役者だったって言っただろう? 演じることは得意だ。何かに困ると、自分の気持ちを封じて演じることで逃げてきた。だから、もう今は、自分に心があるかさえ、わからないんだよ」
それほど攻略対象でいることは、過酷なのね。
「今の言葉も、演技かもしれないんですよね?」
「ん? あぁ、あはは、そうだな」
やはり、そっか。今の言葉は本音だ。私は二次元のウィルをずっと見てきたし、まだ短い時間だけど三次元のウィルも見ていた。言葉に詰まって笑ってごまかすウィルは、初めて見た。
「自分がわからなくなるほど、無理しなくてもいいんじゃないかな。もう、ウィルは充分に、貢献したと思うもの」
あっ! しまった! ウィルは、すごい形相で私を睨んでる。怒らせた。どうしよう。
「オモチ、それはどういう意味だ? 俺はもう不用品か」
不用品? 何を言ってるの?




