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50、ルナシティの王城にて

「わかったよ。オモチさん、俺についておいで」


 ウィルは立ち上がると、寝室の扉を開けた。そしてスタスタと歩いていく。


 私は、ウィルを怒らせたのかとビクビクしながら、ベッドから起き上がった。寝室から出ると、さっきの豪華な私室だった。いくつかの扉がある。


「怯えなくていい。こっちだ」


 ウィルは、別の扉を開けて待っている。


 私がそちらに向かうと、ウィルは扉の先へと離れて行き、また別の扉の前で待っていた。一体、いくつの部屋があるの?


 私が近寄って行くと、ウィルはその扉を開いた。その先は、広い廊下みたい。スタスタと行ってしまう。私は見失わないようにと、少し距離を取りつつ、ついて行った。




「二人分の紅茶と甘い菓子を用意してくれ」


 ウィルは、そう言いながら、大きな扉のある部屋に入った。あっ! 王城の食事のだ。コンセプトカフェは、この部屋を再現してる。本物だ!


 中に入ると、たくさんの円卓が並んでいた。食事をする人やメイド服を着た人が何人もいる。私は、大勢の人がいることに安心した。


 助かった、のかな。


 ウィルは、窓の方へと歩いていく。窓際の円卓は、誰も使っていない。窓の外には噴水が見えた。中庭に面してるのね。



 ウィルが席に座ると、メイド服を着た人が、ワゴンを押してきた。そして、菓子皿と紅茶をテーブルに置く。円卓は4人掛けね。私は、紅茶が置かれた席に座った。


「バトラーを呼んできてくれ。例の案件だ」


 執事もいるの? ゲームの設定と同じ響きに、一瞬だけテンションが上がった。だけど、正面の席にいるのは、ウィル。メイロ星からの難民で、悪い噂の元凶だよね。


 ウィルは紅茶を飲み、菓子皿からクッキーをつまんだ。正面に座る私には視線を向けない。窓の外を見て、何かを考えているみたい。その横顔も、すごくカッコいい。私は、彼のプライドを傷付けたよね、きっと。




「お待たせしました。ウィルさん、同席しても?」


 執事の黒服を着た男性が、空いている席に座った。窓から離れた席。外を見る妨げにならないように気を遣ったのかな。


「彼女は、俺を推しているオモチさんだ。アース星から来た主人公だ。ジュエンで保護した。アース星に帰りたいらしい」


「そうでしたか。オモチさん、初めまして。バトラーと申します。怖い思いをされましたね」


「えっ……あの……」


 私は、ホッとしたのか、涙が出てきた。恥ずかしい。



「ウィルさん、どういう状況ですか」


「カイルとレオンが、別の子を使って、オモチさんを監視のない公園におびき寄せた。俺は、自分の推しでなければ邪魔できないからな。彼女がウィル推しだと言うまで、手出しができなかった。彼女は、レオンに追いかけ回されていたよ」


「はぁ、カイルさんとレオンさんですか」


「まぁ、あの二人はまだマシだけどな。強引に魔法を使って支配しようとはしない」


 転移魔法を使って、追いかけ回されたよ。絶望的に怖かったのに。



「それで、ウィルさんは、どうされましたか」


「24時間の恋人だ。あの二人が相手だと、それしか保護する手段はない。俺は、あまり転移魔法は得意じゃないからな」


「なるほど。オモチさんのテスト結果は白だったのですね」


 テスト結果?


「あぁ、俺の推しだという言葉に嘘はない。だが、抱かれたいとは考えていないようだ。純粋な被害者だ」


 私は試されていたの? ベッドに転がされたのに? 私の表情の変化に気づいたのか、ウィルは、私の方を向いて口を開く。



「オモチさん、怖がらせたか? だが俺は、キミの反応に関わらず、抱くつもりはなかった。わざと怯えだフリをして、俺に近づこうとする主人公がいるから、試させてもらった」


「そう、なんですね。でも、24時間の恋人になってしまったら、ウィルさんの自由が24時間なくなるんじゃ……」


「それは、アイツらの主張だろ? 誰かの24時間の恋人になると、複数人で遊べないからだ。アイツらは、くだらない遊びをしている。それを喜ぶ女も少なくない。互いの趣向が一致していたら良いが、アイツらは、媚びられることに飽きたらしくてな。完全に犯罪まがいなことをしている。しかも、俺がその元凶のような噂を流しやがって……」


 ウィルは、怒っていた。それを聞くバトラーも、難しい顔をしている。そうか、ウィルは違うんだ。ウィルのせいにして、他の攻略対象が女遊びをしている。



「くだらない遊びって、子供ができるようなことですか」


「オモチさんは知っていたんだな。そうだよ。アイツらは、何人かで同時に関係を持って、誰の子になるかを競っている」


「ええっ!? そんなこと……」


 聞いていた話より、さらに酷い。


「この身体はアバターだと言われているが、イービー星の技術を使った生命の宿る器だ。被り物ではない。同時に関係を持つと、より優秀な生命体を優先するらしい。子孫を増やしたい研究室の意向で、子が出来ると金が出る。それで、こんな遊びをしているんだよ。アース星から来た人は、魔力への耐性が備わるまでは、子ができやすいからな。狙われるんだ」


 私は、あまりのことに絶句していた。



「最後警告があってから、もう半年が経ちます。そろそろ本気で何とかしないと、我々はこの星から追放されかねませんよ」


 バトラーがウィルに、小声でそう呟いた。


「そうだな。だが最後通告の後の方が、悪化してないか? アイツらを煽っているのも、運営側だろう?」


 彼らは、私の反応を見ながら話している。私がどこまで知っているかを、調べてるの? それに24時間の恋人の席に、なぜ執事が同席できるんだろう。あっ、そっか。ゲームの縛りは、携帯機を持っている人だけだったっけ。



「やっと来たみたいだな」


 窓の外を見ていたウィルが、独り言のように呟いた。



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