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47、ラムネさんとコンセプトカフェ

 私は、花の街ジュエンの地図を、完全に暗記していた。引きこもり生活の成果ね。


 行ったことのない場所でも、ミッションに出てくる場所は、名前が表示されるから、この街のどこにどのゲームのコンセプトカフェがあるかも覚えている。


 私がこの世界に来た直後とは違って、混むコンセプトカフェは別のものに変わっていた。今は『月の世界の王子様』よりも、四大精霊が登場するゲームの店の方が混んでいる。


 四大精霊が登場するゲームの名前は、『四大精霊物語』の後ろに、長い副題が付いている。しかも、その副題は、見るたびに違う気がする。配信される星によって、変えてあるのだろうか。


 そうは言っても、花の街ジュエンは、『青に染まるキミの春』のメイン舞台だから、『青に染まるキミの春』のコンセプトカフェは圧倒的に多く、どの店も相変わらず混んでいるみたい。



 私は、行こうと思っていたコンセプトカフェまで、ラムネさんと並んで歩いた。彼女は、相変わらず強引だけど、今日は少し雰囲気が違う。


 なんだか不安そうな表情もするから、強く断れば、一人にしてくれそうだけど、何かに必死に見える。とりあえず、警戒しながらも、一緒にランチを食べることにした。


「この店にしようと思うんだけど」


「うん、いいね! 私は来たことのない店だよ。宿屋からちょっと遠かったね」


「ええ、一番空いてるかなって思って。この近くには、看板通りがないから」


「へぇ、オモチさんって、鋭い観察眼を持ってるんだね。私は、主人公の頃は、何も考えてなかったよ」


「暇な時間はずっと、地図を見ていたからかな」


「ん? 暇だったの?」


 あれ? 私が引きこもり生活をしていたことを、ラムネさんは知らないの?




「いらっしゃいませ。2名様ですね。お席にご案内します」


 わぁっ! 『月の世界の王子様』に登場する王家の食事のみたい! 店員さんは、ゲームと同じメイド服を着ている。メイド喫茶とは違って、スカート丈は膝よりも長いシンプルな黒のワンピースに、白いエプロン姿。


 男性店員は、居ないのかな。メイドさんしか出てこないんだっけ? 執事は居たような気もするけど。


「すごく豪華な店内装飾ねー。高級店なのかな」


 ラムネさんは、私におごると言ったから、気になるみたい。たぶん、主人公ほどお金は入ってこないんだろうな。


「私の分は自分で払いますよ。その方が貸し借りなしで、いいと思うので」


「えっ? あ、そういう意味じゃないよ。あっ、そっか。オモチさんには、屋台でおごってもらったよね。あの時は、全然お金がなかったから。そのお返しもしなきゃね。私がおごるから、気にしないで。主人公の期間が終わると、急に大変になるからね」


 いや、私は帰るんだけど。でもやはり、それは言えないし、言わない方がいいよね。ラムネさんも、日本人だったんだから。



 席に座ると、ラムネさんはすぐにメニュー表に手を伸ばした。そして、ホッとしたような笑顔を見せた。


「よかったぁ。ランチは、他のコンセプトカフェと、同じくらいの値段だよ。夕食は、すごく高いけど。Aランチを2つで」


 ラムネさんは、店員さんに注文すると、店内を見回している。落ち着きのない人だな。初めて来た店だって言ってたから、興味があるのかも。


 私もメニュー表を見てみる。この店は、ランチの種類が多いみたい。でも、ほとんどの人がAランチを注文している。あっ、初めての人には、Aランチがオススメって書いてあるからかな。そして夕食は、確かに高い。1万Gゴールドからだもんね。



「オモチさん、この店、当たりかもしれないよ」


「ん? どういう意味ですか?」


「私ね、ほとんどのチャットサークルに入ってるんだけど、その情報だよ。新店舗では、毎日サプライズがあるんだって。レジの横に花が飾ってあるでしょ? 新しい店の証拠だよ」


 ラムネさんにそう言われて、キョロキョロしてみると、確かに、レジの横に、開店祝いっぽい花の鉢が置かれていた。


「サプライズって、何ですか?」


「えーっとね、特定のランチには、食後に豪華なデザートが付いている店が多いかな。だからみんなAランチを頼むんじゃない? Aランチは、初めてそのコンセプトカフェに来た人のために、お得になってるの」


「なるほど。オススメって書いてありますね」



 話している途中で、料理が運ばれてきた。とても大きなトレイに、大きな食器。ゲームと同じだよー。テンションが上がる!


「お皿が大きいのに、料理は小さいね」


 ラムネさんは、少し不満げに見える。


「ゲームの中でも、こんな感じでしたよ。攻略対象は全員が王子様なので。夕食は、コース料理だけみたいですね」


「へぇ、そういうコンセプトかぁ。やはり、知らないゲームって、感動しないなぁ。あっ、悪い意味じゃないんだよ?」


「わかってますよ。私は逆に、テンションが上がってますけど」


 私達は、ランチを食べた。味は普通か、やや雑な感じかな。混んでる店だから仕方ないよね。シャルルさんと行った酒場よりは、美味しいけど。



「ラムネさんは、しばらく街を離れていたんですか?」


 私は、気になっていたことを尋ねた。私の引きこもりを知らないってことは、そういうことだよね。


「えっ? どうして、知ってるの?」


「あー、いえ。私が昨夜まで引きこもっていたことに、気づいてないみたいだから」


「そう、なんだ。うん、ちょっと離れてたよ。でも、もう終わったから。お金も入ったし、しばらくは楽に過ごせるから、これで良かったんだ〜」


 ラムネさんの表情は、全然、良くなさそう。何か、嫌なことがあったのかな。



 食後の紅茶とデザートが運ばれてきた。でも、普通に見える。サプライズが無いことが、サプライズだったりして?



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