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45、街歩きとウィルのファンサービス

 月の王都ルナシティの王城を出た私は、携帯機の地図を見ていた。道に迷ったわけではない。このまま帰るのは、さすがにもったいない気がしたためだ。


 この街にはフレンドも少ないし、何より、最新作『月の世界の王子様』のメイン舞台! そして今の私には、話しかけてくる人は、ほとんどいない。自由なんだから、やっぱ観光したいよね。


 私は、地図を見ながら、あちこち歩き回ることにした。



 途中で、ゲームに出てくるワゴン販売を見つけて、クレープを買う。ぼったくられるかもしれない携帯機は使わない。お金をまだ持っていてよかった。でも、クレープが1000ゴールドって高いよね。ゲームに登場する店だからかな。


 うん、美味しい! 昼ごはんを食べてないから、ぺろりと食べてしまった。


 飲み物が欲しくなって、斜め前にある、ゲームに登場したコンビニみたいな店に立ち寄った。さすがに飲み物は1000Gもしないけど、現金支払いだとお釣りがない、という貼り紙があったから、調理パンも合わせて800G分の買い物をした。お釣りはなかったけど、お釣り分のつもりか、クッキーをくれた。



 店の前の椅子に座って、レモンティを飲み、調理パンを食べた。これって、ゲームに出てきたのと同じだな。食べているパンの種類は違うけど。


 あっ、なんだかクスクスと笑われている。ゲームを再現したい主人公、って思われているのかも。そのために、椅子がいくつも置いてあるのかな。まぁ、いいんだけどね。


 ゲームなら、ここで、身分を隠した攻略対象に出会う。この出会いから始まるのは、カイル攻略ルート。一番最初に選択したルートだから、よく覚えている。


 私がいつも一番最初に選択するのは、クリアしやすそうな攻略対象。癖のなさそうなキャラを選んで、無難にゲームを進めることで、そのゲームの雰囲気がわかる。いきなりバッドエンドなんかに進んだら、やる気が失せるもんね。


 早く、家に帰りたいな。


 帰ったら、予告を見ていた『レモネードはキスの味』が配信されている頃だろう。サリィさんが推しだと言っていたラックルを、めちゃくちゃ意識してしまうと思う。どの攻略対象のルートでも、脇役に出てくるはず。


 ラックルが、オルフルさんだなんてね。実物を知っているから、違った視点で見れるかも。


 それから、シエルさんが名作だと言っていた、四大精霊が登場するゲームは、来年くらいなのかな。演劇スイッチの入ったシエルさんが使ったセリフが出てきたら、ドキッとするかも。


 家に帰りたいけど……帰ると、ここで会った人達とは、会えなくなる。だからって、さすがに永住はできない。私が帰らなかったら、きっと事故死という形で家族に伝わるのだと思う。深く悲しませてしまうよね。




「あら? こんな所で何をしているのかしら? お目当ての攻略対象に会いに行かなかったの?」


 目の前に、シャルルさんが転移してきた。追いかけて来てくれたのかな。


「王城に行ったんですけど、公演中でした。そこで会った人に、今日はもう公演はないと聞き、帰る方がいいと勧められたので……」


「は? ゲームの恋人がいる貴女に話しかけられるのは、悪役じゃないかしら? 騙されたんじゃないの?」


「その場所を構成する人も話しかけられると言ってたので、王城で働く人だと思います。私のように、24時間の恋人がいる状態で、攻略対象に会おうとする主人公は多いそうです。監禁されたら、時間切れになると言われました」


 私がそこまで話すと、シャルルさんは、シッと人差し指を自分の口の前に立てた。



 えっ!? 嘘っ! ウィル達が、クレープ屋にいる!


 攻略対象だけじゃないみたい。見たことのない女性達も一緒にいる。ファンというより関係者っぽい。メイロ星から移住してきた人達なのかな。


 私が見ていることに気づくと、ウィルが私に手を振ってくれた! キャーッ! どうしよう! めちゃくちゃカッコいい! 私も、手を振り返す。


 あっ、私だけが特別じゃないみたい。ウィルは、あちこちに向かって、手を振っている。ある種のファンサービスなのかな。


 舞台で見た印象とは、また違って見えた。ウィルは、キラキラしてる。服装がシンプルだから、爽やかさが増すのね。


 彼らに近寄っていくファン達を、一緒にいる関係者っぽい人達が、制してる。攻略対象は、名場面の場所を、こうやって歩くのかもしれない。



「初めて、ウィルのファンサービスの場面に遭遇したわ。ちょっとイメージが違うわね」


「キラキラしてましたねー」


「アナタねー、浮かれてるんじゃないわよ。さっさと帰りなさい。アナタには、ルナシティは似合わないわ」


 そう言いつつ、シャルルさんは、自分の携帯機のチャットのアイコンを指差した。チャットしてきてってことかも。


「もう、ウィルも見れたから、帰りますよ」


「転移屋なら、あの橋を渡った右にあるわ」


 シャルルさんはそう言うと、スッと姿を消した。ここに居たから、何か心配させたのかな。


 私は、シャルルさんに教えてもらった転移屋を使って、花の街ジュエンの宿屋ノームに戻った。




 ◇◇◇



 チェックインの時間を過ぎていたから、そのまま、部屋へと向かう。宿屋ノームは、主人公には本当に便利。裏口の先の転移屋は、宿屋ノームが経営していることもわかった。


 部屋に入って、チャットを開く。そして、シャルルさんを選択した。


『シャルルさん、ジュエンの宿屋に戻ってきました。お気遣いありがとうございます』


『オモチさん、せっかくの観光を邪魔しちゃったかしら。でも、あのまま夕方まで居るのは危険だと感じたの。王城で会った人と、まさかフレンド登録してないよね?』


 シャルルさんからの返信に、背筋がヒヤッとした。



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