44、あざとい笑み
「うん、ありがとう。オモチのゲームの恋人は、明日の昼までじゃないか。明日の朝かと思ってた」
「フレンドになると、わかるんですね」
確認するように尋ねると、レオンさんは、またクスッと笑った。絶対に自信家だよね。どういう角度が、より一層カッコよく見えるか、わかっているみたい。
「そうだよ。やばいな、オモチは可愛すぎる。どうして恋人がいる時間に来るんだよ。今すぐ抱きしめてキスしたい」
「えっ……」
私の表情が引きつったのだと思う。レオンさんは、またクスッと、あざとい笑みを浮かべている。もしかして、わざと私を怖がらせて遊んでる?
「オモチは、公演を見に来たの? 今日は12時の公演しかないんだよ。いつもなら15時からの公演もあるんだけどね」
「私は、攻略対象を見たいだけだから、公演じゃなくてもいいんです。もうすぐ噴水のある中庭に出てくるって聞いていて……」
「ふぅん、『月の世界の王子様』はプレイした?」
「はい、全8ルートクリアしました」
私がそう答えると、レオンさんは少し意外そうな表情を見せた。全ルートクリアは珍しいのかな。
「そうか。アース星には、8ルートしか配信されてないんだね。『月の世界の王子様』は、12ルートあるんだよ」
「へぇ、そうなんですね。知らなかったです。確かに8ルートは、少ないですよねー」
「ルート追加すると、課金キャラも出てくるからね」
レオンさんは、かなり詳しいな。もしかすると、開発側の人だったんだろうか。
「私は、課金ルートは、やってなかったですけど、次の新作が出る頃に、ルート追加がありました。だから、新作をすぐに始めると、時間のやりくりが大変になります」
「オモチは、アバターの中身は若いのかな? 未成年?」
「成人してますけど、あまりお金がなかったから、ゲームは無課金勢でした」
そこまで話したとき、遠くから歓声が聞こえてきた。攻略対象が、噴水のある中庭に出てきたのかも。
「オモチは、『月の世界の王子様』に、推しはいたの?」
レオンさんにそう尋ねられて、忘れていたことを思い出した。『月の世界の王子様』の攻略対象は、すべてメイロ星から来た難民だ。そして、地球から来た主人公を闇堕ちさせるゲームのようなことをしている。
「この世界に来るキッカケになったのは、ウィル攻略ルートのクリア時だったんで、ウィル推しだったんですけど……」
「あぁ、悪い噂を聞いたんだね」
「噂も聞きましたけど、こないだ中継でファン会館の公演を見て、少しイメージと違うなぁって思いました。それもあって、実際に会ってみたくて、ルナシティに来たんです」
私は、素直に打ち明けた。噂を知らないと言うと、どこかで話が食い違いそうな気がしたから、嘘はつかない方がいい。
すると、レオンさんの表情から、笑みが消えた。悪い噂を知っていると言ったのが、マズかったのかも。
どうしよう……。沈黙が長い。早くしないと、攻略対象が中庭からいなくなる。
「レオンさん、私、噴水のある中庭に見に行ってきますね。そのために来たので」
「ウィルに会いたいから?」
「えーっと、はい。プレイした乙女ゲームの攻略対象を、この目で見てみたいなって……」
「ウィルは、やめておきなよ。オモチは、彼らが変な遊びをしている噂を聞いたから、ゲームの恋人がいれば大丈夫だと思って来たんだよね?」
「えっ? あ、はい」
「大丈夫じゃないよ。どこかに監禁されたら、時間切れになるでしょ。オモチと同じように、ゲームの恋人を作ってから来る主人公は多い。当然、彼らは対策をしてるさ。あの噂には迷惑しているんだ」
「監禁って、そんな……」
「アース星の子は、魔法が使えない。つまり、監禁されたら逃げ出せないだろう?」
そんな可能性は、考えたこともなかった。私がまた怯えた顔をしているのかな。レオンさんは、あざとい笑みを浮かべている。私を怖がらせて遊んでるよね?
「監禁されるような所には、行かないです」
「ウィルが、王城内にある名場面の場所を案内すると言っても?」
「名場面、いっぱいありますね……」
もしウィルに微笑まれて、テンションが爆上がりしてしまったら、私は断る自信がない。
「だろう? たぶん、オモチみたいなタイプは、彼らのノリには合わないよ。このまま引き返す方がいい。王城が見たいなら、彼らが他の街で公演する日に来ればいいよ」
「えっ? あ……じゃあ……帰ります」
私はぺこりと頭を下げ、くるりと後ろを向いた。せっかくここまで来たのにな。でも、レオンさんの指摘は正しいと感じた。私が怖がっているから、闇堕ちを避けていることも、伝わったと思う。
それに、攻略対象がいない日に王城に来れば、レオンさんには会えるかもしれない。
そんなことを考えながら、王城の門をくぐろうとしたとき、レオンさんが、目の前に移動してきた。突然現れるから、びっくりするよ。
「な、何ですか?」
「あっ、いや、もう会えない気がすると思ったら、ここに立ってた。オモチには、また会いたいな」
「また、出直してきます。レオンさんが教えてくれたみたいに、攻略対象が他の街に公演に行っているときに」
レオンさんが少し首を傾げたように見えたけど、すぐにあざとい笑みを浮かべた。
「オモチは、普段は、どの街にいるの?」
「私は……秘密です」
花の街ジュエンだと言いそうになったけど、やはり、彼もメイロ星からの難民だと考えたら、怖くて言えない。
「秘密か。ふっ、秘密は暴きたくなるもんだよ?」
「えっ……」
「ふふっ、冗談だよ。気をつけて帰るんだよ、オモチ」
「はい、ありがとうございます。では」
私が門を出ると、レオンさんは、もう何も言ってこなかった。




