40、新たな主人公が来たみたい
食堂を出た私は、部屋に戻った。
忘れないうちにと、倉庫のアイコンを開き、シエルさんからもらった紙袋を収納した。中身の名前を決めることができるみたい。『シエルさんの料理』と打ち込む。
これで、非常食になる。
チャットのアイコンを再び開く。既読未読の機能はないみたい。シエルさんからの文章も長かったし、チャットというよりメールみたいね。
新たに個別チャットをする、を選ぶと、友好値5位までのフレンド名が表示された。まだサリィさんが一番上か。シエルさん、セルさん、シャルルさん、ラムネさんの順に並んでいる。サフスさんは選択できないみたい。
この画面から個別チャットを開始するから、サリィさんは、私にはチャットできないのね。でも、シエルさんは、私にチャットをくれた。そういえば、フレンドは少ないって言ってたっけ。
『サリィさん、おはようございます。チャットが開放されました』
短い文章を送った。レストランの食事代のお礼を書くべきかと迷ったけど、それは、会ったときに直接言う方がいいと思った。
『オモチさん、おはようー! また異常なミッションが出たんだよねー? アバターの魅了魔法が強くなってたって、シエルさんが言ってたよ。危険すぎるよー! とりあえず今日は、チェックイン時間には宿屋に入って、引きこもってる方がいいよ。私、ちょっと調べてみるー。それから、シャルルさんにも、この件は連絡しておいたよ。彼女も、すっごく怒ってたよー。だよねー! 私も思わず、はぁ?って叫んじゃったもん。ありえないよね、ほんと。だけど、気をつけていれば大丈夫だからね! とにかく今日は引きこもっててー。宿屋の掃除時間がウザいよね。連泊ができない仕組みは、主人公を外に出させるためだけど、こんなことを考えたのは誰だー? とにかく今日は、宿屋の部屋にいてねー。あっ、それから、悪役の人って、わりとまともな人が多いよー。特に、街と研究所を行き来する人は、ミッションに振り回されてないからー。じゃあ、また会いましょう! あ、またチャットするねー。返信はしなくていいよー。私は貴族じゃないから、普通にしてねー。またねー』
な、長い……。
『ありがとうございます。今日は引きこもってます』
私は、短い返信をしておいた。やはり、チャットじゃなくて、メールだね。改行がないから、読みにくい。あっ、改行機能がないのかも。
でも、サリィさんの文章は、元気をもらえる。話し言葉そのままだ。もしかすると、音声変換とかの魔法を使ってるのかな。
暇すぎる私は、携帯機をいろいろと開いてみた。
メモリーには、また二次元の写真が増えていた。シエルさんと花畑の切り株のような椅子に座って話す様子か。背景の花畑が綺麗で、草原にいるように見える。
乙男ゲームのテスト要員であるシエルさんは、メモリーやポイントを増やす必要があるみたい。きっと、思わず欲しくなるスチール画のような物が、売れるよね。
あっ、それなら、私にも協力できるかも。私が欲しいと思う場面をシエルさんに伝えたら、少しは恩返しができるかな。
◇◇◇
宿屋のチェックアウト時間が近づいてきた。私は、フロントに行き、チェックアウトした後、また宿泊予約をしておいた。チェックイン時間までは暇だな。
地図を確認すると、宿屋の前には、フレンドさんが待ち構えていることがわかった。今日は男性ばかりかも。私が、強い魅了魔法を放っているためか。
あれ? 私が宿屋から出ないからか、地図からフレンドを示す点が離れていくことに気づいた。地図を広域にしてみると、点が集まっていく場所がある。
その場所は、始まりのカフェ。
新たな主人公が来ているのね。時計を見ると、もうすぐ12時。4日前の私は、逃げ回っていたよね。あっ、セルさんと24時間の恋人になった頃かも。
シャルルさんの居場所を表示してみると、始まりのカフェにいた。彼女がいるなら大丈夫かな。あれ? シャルルさんが移動していく。悪役令嬢の役割は終わったの?
でも、始まりのカフェに集まっていく点が多い。一体、どういうこと? シャルルさんは、行動範囲内にいるすべての主人公とフレンドになってるんだよね?
シャルルさんの居場所を示す点が消えた。街の外に出たのかな。何か急用なのだろうか。
どうしよう……。
新たに来た主人公は始まりのカフェで、怖い思いをしているかもしれない。そう考えると、私はジッとしていられなくなった。
気づけば、私は始まりのカフェへと、駆け出していた。
◇◇◇
始まりのカフェの前は、入れないほどの人でいっぱいだった。新たな主人公が外に出ないように、塞いでいるようにも見える。
「あっ、オモチさん」
店の前にいた男性が、私に気づいた。見覚えはないけど、たぶんフレンドさんよね?
「こんにちは。この騒ぎは、何ですか?」
「新しい主人公が来たんですよ。オモチさんは、どうしてここに? お一人ですか?」
話しているうちに、その男性が私に惹かれていくのがわかる。こんな短時間で効くのね。魅了魔法が強くなっているというのは、こういうことか。
「今日は、フリーミッションをしてるんです。始まりのカフェには入れないのかな」
すると、声が聞こえていた人達が、サーッと道を開けてくれた。魅了魔法って、すごいのね。
「オモチさん、どうぞ。始まりのカフェのフリーミッションということは、お食事ですか? ご一緒したいな」
「でも、混んでますよね?」
「新しい主人公とフレンドになりたいだけですよ。俺は、オモチさんと話せる方が嬉しいです」
「僕も、オモチさんとご一緒したい」
私を見つめる熱い視線が、どんどん増えていった。怖い。でも、新たな主人公の方が怖い思いをしてるよね。




