39、理想的な相手
「美味しい!」
私は、宿屋ノームの部屋に入ると、シエルさんからもらった丸いドーナツのような料理を食べた。思わず声が出てしまうほどの美味しさに、私は驚いた。
昨日、ファン会館の3階のレストランでも、同じイービー星のセルフィア王国の料理を食べたけど、全く味が違う。噛むたびに、いろいろな味が出てきて、まるで魔法みたい。
さらに、もう一つ食べてみる。うん、これも美味しい。シエルさんが生まれたアイル村の人達は、セルフィア王国の王宮の料理番をしてるんだっけ。彼が作る料理は、こんなにも美味しいのね。
シエルさんが、公園で話していたことに、私は思いっきり納得した。彼は自慢話にも聞こえそうな条件の話をしていたけど、アピールというより、事実を私に話していただけかも。誰から見ても都合の良い相手だと言っていたのは、彼なりの謙遜なのかもしれない。
彼は、イービー星のセルフィア王国にあるアイル村の村長の三男だと、サリィさんに自己紹介していた。あの時点では、王女サリィさんは、シエルさんの名前を覚えてなかったみたい。
だけど、私の24時間の恋人に立候補した後は、サリィさんとはチャットしている。シエルさんは、三男だから家を継げないし、これからどこで暮らすかを決めるために、この星に来ているようなことを言っていた。
この付近では、イービー星が最も強いのだと聞いた。この人工星に多くの資金提供をしているらしいから、戦闘力も強いんだろうけど、経済的にも強いってことだと思う。
そして、イービー星ではセルフィア王国が最も豊かで、その王宮に代々仕えているアイル村の村長の三男に生まれた彼。村っていうけど、貴族だと聞いた。
どの星に移住することもできて、家柄も良くて、優れた魔導士で、こんなに美味しい料理を作れる。しかも、イービー星の人って、みんな美形だ。
彼は、誰もが結婚したい理想的な相手なのね。
媚びられることに、シエルさんは飽き飽きしているように見えた。だから何も知らない私に、あんなことを言ったのかな。
さらに、もう一つ食べる。味は違うけど、どれもすごく美味しい。なんだか、胃袋をつかまれちゃったな。
シエルさんは、丸一日、ずっと一緒にいてくれて、眠いのに頑張って恋人を演じてくれた。とても良い人だと思う。ちょっと可愛いところもあるし、不器用な面も好感が持てる。彼がモテるのもわかる。きっと条件だけじゃなくて、彼自身に人気があるんだと思う。
そんな人に結婚しないかと言われて……私は、彼のプライドを傷つけた。それでも、シエルさんは自分が悪いと思ったみたいで、友達から始めようと思い直してくれた。
私は、シエルさんのことをどう思ってるんだろう? わからない。私の心の中には、セルさんがいるのかな。
◇◆◇◆◇
翌朝、いつものように食堂に行った。
「おはようございます、オモチ様。お好きな席にどうぞ」
あっ、初めて泊まった日と同じ店員さんだ。そして、ふわっと香る出汁のいい匂い。
「おはようございます。今朝は、和定食ですか?」
「はい、もう気づかれましたか。私は、アース星の和定食の日を担当しております」
次のお客さんが来たから、これ以上は話せなかったけど、あの店員さんは日本人だったのかな? 料理ごとに店員さんの担当が決まっているなら、入り口に立つ人を見た瞬間、今日の定食がわかるよね。
少し時間が早いから、食堂はまだガラガラだった。私は、窓際の席に座った。中庭が綺麗。私が泊まっている部屋はどれだろう? 窓の開いている部屋も、中の様子は見えない。何かの魔法でプライバシーを守っているのかも。
「お待たせいたしました。本日は、アース星の和定食です」
「ありがとう。あっ、こないだとは違う。茶碗蒸し? 嬉しいな」
「はい。当店は、主にアース星とロッコロッコ星の料理を提供しております。人気のある和定食の頻度が高いため、いろいろとアレンジしております」
「へぇ、そうなんですね。お店の雰囲気も、和食屋さんっぽいですもんね」
「お客様は、アース星から来られたのですね。この内装は、様々なお客様のご意見を反映したようです。ごゆっくり」
店員さんは、軽く一礼をして、厨房へ戻って行った。この宿屋は、食堂のホール係の人も、とても感じがいい。さすが、高級な宿屋だよね。
茶碗蒸しに気を取られていたけど、炊き立ての白米の横に、細巻き寿司の皿があった。まさかのお寿司にびっくり。生魚が苦手な人もいるためか、中身は、お新香と細切りきゅうりみたい。うん、美味しい。
食後のお茶を飲みながら、私は携帯機を開く。
『オモチ様、5日目を記念して、倉庫機能とチャット機能を開放しました。倉庫には、服とお金以外の物を入れることができます。倉庫内の量が増えると、維持のための魔力量が多く必要になりますので、お気をつけください。チャットは、グループチャットと、友好値が上位5人のフレンドとの個別チャットがあります。ご不明な点は、メールにてお問い合わせください』
倉庫とチャットが開放された。倉庫には布財布は入れられないみたい。やはりカバンが必要ね。
個別チャットをするには、友好値が関係あるのか。個別チャットよりも、グループチャットの方がメインなのかな。
チャットのアイコンに、未読があることに気づいた。誰かが送ってくれたんだ。開いてみると、シエルさんからだった。
『オモチ、おはよう。サリィさんが、個別チャットをして欲しいそうです。サリィさんからは、オモチに個別チャットができないらしいよ』
『シエルさん、おはようございます。お料理、すごく美味しかったです。チャットの件、了解しましたー』




