119、ちっこい子猫
翌朝、目が覚めると、身体が重かった。
「オモチ、おはよう。朝食もおやつも昼食も届いてるよ。一緒にシャワーしようか」
「そんなに寝てました? でも昨夜は深夜まで食べ過ぎて、まだお腹が苦しいです。あ、あれ?」
私のお腹は、はち切れそうなほど膨らんでる。
「ふふっ、子が重いんだろ。見るたびに大きくなっていくから、目が離せないね。シャワーを浴びて、朝飯にするぞ」
セルさんは、私に軽くキスをすると、あっという間に抱きかかえ、シャワー室へと連れて行く。昨夜は、食べ過ぎたまま、寝落ちしたよね。でも、パジャマを着ていた。セルさんが着替えさせてくれたの?
私の顔を見ながら、セルさんも服を脱いでるし、まぁ、うん、シャワーするからなんだけど、やっぱり恥ずかしいよーっ!
◇◇◇
「オモチ、好きな物だけ食べればいいよ。この後、人が来るみたいだ」
シャワーを浴びた後、私は、バスローブ姿で朝食を食べることにした。このお腹では、持っている服が入らない。
「人が来るって……」
「出産の準備だよ。俺はずっとそばにいるから、心配するなよ」
「えっ? は、はい」
昨日とは違って、今日はそれほど食欲はない。さすがに、昨日は食べ過ぎたからかな。
食後のフレッシュジュースを飲んでいると、扉をコンコンと叩く音が聞こえた。セルさんが、扉を開けに行ってくれた。
「セルシードさんですね? オモチさんは今は?」
「ジュースを飲んでるよ。成長が速いようだ」
「ええ、速いですね。準備をさせてもらいます」
コテージに、二人の女性が入ってきた。そして、鍵付きの部屋の鍵を開けたみたい。水の音がする。何だか緊張してきた。
「オモチさん、出産は水中で行います。普通の水ではないので、呼吸はできますからね。すぐに眠くなると思いますよ。目が覚めたときには、出産は終わっていますから、ご安心ください」
「ええ? 水中?」
「はい、少し早いですが、入っておきましょうか」
いやいや、今、ご飯を食べたばかりだよ? セルさんの方を見ると、軽く頷いてる。
「オモチ、心配するな。俺は、ここにいるからな」
私が頷くと、身体がふわっと軽くなった。そして、バスローブのまま、丸い水槽の中に入ってる。水の中なのに呼吸はできるけど……まだ、心の準備が……。
私は、そのまま、スーッと眠りに落ちていった。
◇◇◇
「あ、あれ? 私は……」
ここは、どこ? 水の中ではない。私はバスローブ姿ではなく、パジャマを着てるし、カーテンで仕切られているせいか、薄暗い部屋。
「おっ、オモチ、起きたか」
「セルさん、えーっと? 私、変な夢を見てた?」
お腹は、ぺったんこになってる。まだ眠くて、頭がスッキリしないな。
「ふっ、夢じゃないよ。立てるか?」
セルさんは、私の背中を支えてくれた。身体も重いな。
「何だか、身体がダルいというか、重い感じがする」
「あぁ、水中にいた影響だよ」
セルさんが、シャッとカーテンを開けた。あっ、丸い水槽がある。それに、その中には、赤ん坊がいる?
「あの水槽って、私が入ってた? なぜ赤ん坊が……」
「あぁ、そうだよ。俺達の息子だ。1歳くらいの身体に成長するまでは、あの中で育つんだ。母親の体内と似た環境にするために、薄暗くしてあるらしい」
「えっ? 私が生んだの? 眠ってたのに」
「イービー星の技術だよ。オモチ、体調はどう? 何か食べられそうか?」
セルさんは、とても穏やかな目をしていた。
「うん。眠いけど、大丈夫。あの子が、私達の赤ちゃんなのね。赤くはないね。新生児というより、乳児というか……」
「朝には、1歳くらいに育つみたいだよ。男の子でよかったよ。名前を考えなきゃね」
セルさんは、もう完全に父親の顔をしてる。私は、名前と言われて、やっと、子供が生まれたんだと理解した。あまりにも展開が速すぎる。でも、そっか。セルさんは、ずっと起きて見てくれていたのね。
「セルさんは、男の子が欲しかったの?」
「あぁ、オモチの願いを叶えるには、それしかなかったからな。ここで食べようか。適当に持ってくるよ」
セルさんは、薄暗い部屋から出て行った。
私は、水槽に近寄っていく。赤ん坊は眠っているみたい。その顔を見て、私はハッとした。男の子だと聞いたけど、私に似てる。正確には、私のアバターだけど。
そっか、私の子なんだ。でも髪色はセルさんかな。私とセルさんの子。ジワジワと喜びが湧き上がってくる。私は、お母さんになったんだ! セルさんがお父さんなのね。
「オモチは、赤ん坊を見てたのか」
セルさんは、私に、ジュースを手渡してくれた。
「セルさんと同じ髪色ですね」
「ふっ、そうだな。顔は完全にオモチだろ。見た瞬間、ちっこい子猫だと思ったよ」
「ええ〜? 猫っぽいですか?」
「オモチっぽいってことだよ。男の子だったと、悪役令嬢に連絡したぜ」
「シャルルさんに? あっ、挨拶まわり……」
「もう、知れ渡ってると思うよ。男の子だったからな」
「男の子だと、何か……」
そう話しかけると、セルさんは携帯機を見せた。彼のミッション? あれ? 次のミッションがない。まさか、研究室送りになった?
「俺は、新しくできる街に移り住むことになった。もちろん、オモチも、ちっこい子猫も一緒にな」
「えっ? それはどういう……」
「滞在者から居住者に変わる。生まれた子を育てる宣言をしたんだよ。男の子は急成長しないから、5年間は育てる必要があるからな。つまり、オモチの感覚なら、結婚したということだ」
「ええっ? 結婚した?」
私が思わず叫んだせいか、水槽の中の赤ん坊が、こちらを向いて目を開けた。だけど、ふわぁっとあくびをすると、また眠りに落ちたみたい。
「ふっ、ちっこい子猫も、驚いたみたいだな。母猫にそっくりだよ」
「大きな声は、ダメですね」
「あぁ、これなら大丈夫か」
セルさんは、そっと優しいキスをした。
皆様、いつもありがとうございます♪
次回で、本編最終話となります。以前お伝えしていた予定より長くなってしまいました。(*´-`)
本編最終話の後は、後日談2話を予定しております。最後までお付き合いいただければ、嬉しいです。




