118、明日か明後日
「わぁっ! すっごい綺麗!」
私達は、聖堂の塔の上から、夕焼けの街を見た。街全体があかね色に染まっていて、空の交通渋滞の光もキラキラしている。とても幻想的な光景だな。
「この景色を、オモチに見せたかったんだよ。俺が生まれた街に似てるんだ。聖都ではなく、田舎だけどな」
セルさんは、私を守るように、腕の中に閉じ込めて、景色を見ている。昨日の表情とは別人だな。私の選択が間違ってなかったと実感する。
「そろそろ、移動するか」
セルさんは、私をお姫様抱っこすると、塔から浮遊魔法を使って、ゆっくりと下に降りた。昨日、私が怖がったことを覚えてくれてたのね。
「どこの街に行くんですか?」
「ん? あぁ、まだ、どちらかわからないな。オモチは知らない方がいい。俺にすべて任せてくれ」
どちらかわからない? セルさんにしては、歯切れが悪いような気がする。聖堂の近くの草原も通り過ぎて、どこかを目指して歩いてる。転移魔法は使わないのかな。
あれ? 転移屋? セルさんは、私と腕を組んだまま、転移屋に入っていく。転移魔法は、すごく魔力を使うからかな。
転移屋では、順番待ちの人が少し並んでいたけど、セルさんは気にしてないみたい。セルシードだって、コソコソ言われてる。ゲームの恋人時間は終わってるから、また、声をかけてきたり、追いかけられるのかな。
いつかのように、前に並んでいた人が、次々と順番を譲ってくれる。絶対に、追いかけてくる気だよね。
私達の順番がまわってきた。
「どちらに行かれますか?」
順番を譲ってくれた人達が、静かになった。聞き耳を立ててるみたい。
「まだ、どちらかわからないんだよ。俺も付き添う。俺が魔導士だから、たぶん明日だと思うんだけどね」
ん? 何が明日?
「おぉ! では、総合館がよろしいですね。えーっと、はい、空きがありますよ」
「じゃあ、総合館に繋いでくれ」
転移屋の魔導士達が、急に笑顔になってる。何? 総合館って、この街の施設?
私達は、転移魔法の光に包まれた。
◇◇◇
「こちらは、研究室が管轄する総合館です。予約はありますか?」
到着した場所は、広いホール内だった。研究室?
「いや、予約はない。だから転移屋を使ったんだ。俺はロッコロッコ星、彼女はアース星だ」
セルさんがそう伝えると、そこにいた魔導士は、パァッと明るい笑みを見せた。
「まぁ! 一緒に来られたということは、付き添い希望ですね。コテージにご案内しましょう」
コテージ? 総合館って言ってたのに、宿屋なのかな。研究室が管轄するということは、ここは街じゃないの?
すぐに、案内の人が来てくれた。宿屋ノームほどじゃないけど、笑顔の素敵な接客ね。
「敷地内にはレストランもありますが、コテージにお食事を届けます。コテージでは、常に体調確認をしていますから、ご安心ください。ロッコロッコ星の方の子でしたら、少し早いでしょうね。通常でしたら、女の子は3〜4日、男の子は2〜3日で生まれます。妊娠は昨日ですか?」
いきなり、何の話?
「あぁ、昨夜だ。深夜ではない。明日か明後日かな」
「大抵は女の子が生まれますから、明後日の可能性が高いですね。アース星の方の子は、父親の能力を強く受け継ぐ確率が高いのですよ。有能な魔導士になりそうですね」
はい? 私は驚きすぎて、何も話せなくなっていた。もしかして、コテージって病院なの?
「こちらへどうぞ。ごゆっくりお過ごしください。お食事は、すぐに夕食が届きます。その後、夜食と軽食が届きますが、足りないようでしたら、ご注文ください」
「あぁ、わかったよ。俺の分の飯も出る?」
「はい、付き添いの方の分も、ご用意します」
私達は、小さな山小屋のような建物に案内された。同じような建物が数え切れないほど並んでいる。私達が入ると、門灯がついた。消えているコテージは、空室みたい。
「オモチ、もう安心だぜ。ここは、アース星でいえば、病院だからな」
「私、入院したってこと?」
「ふっ、まぁ、そんな感じだな。ここにいれば、携帯機に記録されないが、携帯機は普通に使える。それに、食べ放題だぜ」
なぜか、セルさんは楽しそう。
「もしかして、ワクワクしてます?」
「まぁな。まだ、完全に成功したかはわからないが、たぶん明日の夜だぜ。それまでは、ここでのんびりしよう」
完全に成功? 何か企んでたの? セルさんは少年のようにキラキラと目を輝かせている。でも、明日? アバターだと数日で生まれると聞いてたけど、まだ心構えができてない。
コテージの中には、広すぎるリビングと、寝室が3つもある。そして、鍵がかかっていて入れない部屋もあった。
「オモチ、夕食が届いたよ」
テーブルの上に、突然、料理が現れたように見えた。
「どこから運んできたんでしょうか」
「ん? 調理室からだろ。このテーブルには、転移魔法陣があるからな。テーブルの上に乗るなよ?」
「乗らないですよ!」
私が即座に反論すると、セルさんはククッと笑ってる。また、からかったのね。
普通の定食の3倍はありそうな量だけど、私は普通に食べれてしまう。怖いな。ずっと食べていられる。
夜食も、その後の軽食も食べ、さすがに苦しくなった。セルさんは、ケラケラと笑いながら、お姫様抱っこで、寝室に運んでくれた。
◇◆◇◆◇
『セルシード! どういうつもりかしら!?』
『俺を必要としてくれたんだよ。だから、オモチは帰らない。明日の挨拶まわりはキャンセルだ』
『アナタね! 私達がどれだけ……』
『俺は悪役だから、何を言われてもいい。だが、オモチには、ひどいことを言うなよ? シャルル』
『あのねー!!』
『成功したかは、まだわからない。だが、オモチの希望を最大限に叶える努力はした。明日なら、男だ』




