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118/122

118、明日か明後日

「わぁっ! すっごい綺麗!」


 私達は、聖堂の塔の上から、夕焼けの街を見た。街全体があかね色に染まっていて、空の交通渋滞の光もキラキラしている。とても幻想的な光景だな。


「この景色を、オモチに見せたかったんだよ。俺が生まれた街に似てるんだ。聖都ではなく、田舎だけどな」


 セルさんは、私を守るように、腕の中に閉じ込めて、景色を見ている。昨日の表情とは別人だな。私の選択が間違ってなかったと実感する。



「そろそろ、移動するか」


 セルさんは、私をお姫様抱っこすると、塔から浮遊魔法を使って、ゆっくりと下に降りた。昨日、私が怖がったことを覚えてくれてたのね。


「どこの街に行くんですか?」


「ん? あぁ、まだ、どちらかわからないな。オモチは知らない方がいい。俺にすべて任せてくれ」


 どちらかわからない? セルさんにしては、歯切れが悪いような気がする。聖堂の近くの草原も通り過ぎて、どこかを目指して歩いてる。転移魔法は使わないのかな。




 あれ? 転移屋? セルさんは、私と腕を組んだまま、転移屋に入っていく。転移魔法は、すごく魔力を使うからかな。


 転移屋では、順番待ちの人が少し並んでいたけど、セルさんは気にしてないみたい。セルシードだって、コソコソ言われてる。ゲームの恋人時間は終わってるから、また、声をかけてきたり、追いかけられるのかな。


 いつかのように、前に並んでいた人が、次々と順番を譲ってくれる。絶対に、追いかけてくる気だよね。



 私達の順番がまわってきた。


「どちらに行かれますか?」


 順番を譲ってくれた人達が、静かになった。聞き耳を立ててるみたい。


「まだ、どちらかわからないんだよ。俺も付き添う。俺が魔導士だから、たぶん明日だと思うんだけどね」


 ん? 何が明日?


「おぉ! では、総合館がよろしいですね。えーっと、はい、空きがありますよ」


「じゃあ、総合館に繋いでくれ」


 転移屋の魔導士達が、急に笑顔になってる。何? 総合館って、この街の施設?


 私達は、転移魔法の光に包まれた。




 ◇◇◇




「こちらは、研究室が管轄する総合館です。予約はありますか?」


 到着した場所は、広いホール内だった。研究室?


「いや、予約はない。だから転移屋を使ったんだ。俺はロッコロッコ星、彼女はアース星だ」


 セルさんがそう伝えると、そこにいた魔導士は、パァッと明るい笑みを見せた。


「まぁ! 一緒に来られたということは、付き添い希望ですね。コテージにご案内しましょう」


 コテージ? 総合館って言ってたのに、宿屋なのかな。研究室が管轄するということは、ここは街じゃないの?



 すぐに、案内の人が来てくれた。宿屋ノームほどじゃないけど、笑顔の素敵な接客ね。


「敷地内にはレストランもありますが、コテージにお食事を届けます。コテージでは、常に体調確認をしていますから、ご安心ください。ロッコロッコ星の方の子でしたら、少し早いでしょうね。通常でしたら、女の子は3〜4日、男の子は2〜3日で生まれます。妊娠は昨日ですか?」


 いきなり、何の話?


「あぁ、昨夜だ。深夜ではない。明日か明後日かな」


「大抵は女の子が生まれますから、明後日の可能性が高いですね。アース星の方の子は、父親の能力を強く受け継ぐ確率が高いのですよ。有能な魔導士になりそうですね」


 はい? 私は驚きすぎて、何も話せなくなっていた。もしかして、コテージって病院なの?



「こちらへどうぞ。ごゆっくりお過ごしください。お食事は、すぐに夕食が届きます。その後、夜食と軽食が届きますが、足りないようでしたら、ご注文ください」


「あぁ、わかったよ。俺の分の飯も出る?」


「はい、付き添いの方の分も、ご用意します」


 私達は、小さな山小屋のような建物に案内された。同じような建物が数え切れないほど並んでいる。私達が入ると、門灯がついた。消えているコテージは、空室みたい。




「オモチ、もう安心だぜ。ここは、アース星でいえば、病院だからな」


「私、入院したってこと?」


「ふっ、まぁ、そんな感じだな。ここにいれば、携帯機に記録されないが、携帯機は普通に使える。それに、食べ放題だぜ」


 なぜか、セルさんは楽しそう。


「もしかして、ワクワクしてます?」


「まぁな。まだ、完全に成功したかはわからないが、たぶん明日の夜だぜ。それまでは、ここでのんびりしよう」


 完全に成功? 何か企んでたの? セルさんは少年のようにキラキラと目を輝かせている。でも、明日? アバターだと数日で生まれると聞いてたけど、まだ心構えができてない。



 コテージの中には、広すぎるリビングと、寝室が3つもある。そして、鍵がかかっていて入れない部屋もあった。


「オモチ、夕食が届いたよ」


 テーブルの上に、突然、料理が現れたように見えた。


「どこから運んできたんでしょうか」


「ん? 調理室からだろ。このテーブルには、転移魔法陣があるからな。テーブルの上に乗るなよ?」


「乗らないですよ!」


 私が即座に反論すると、セルさんはククッと笑ってる。また、からかったのね。



 普通の定食の3倍はありそうな量だけど、私は普通に食べれてしまう。怖いな。ずっと食べていられる。


 夜食も、その後の軽食も食べ、さすがに苦しくなった。セルさんは、ケラケラと笑いながら、お姫様抱っこで、寝室に運んでくれた。




 ◇◆◇◆◇



『セルシード! どういうつもりかしら!?』


『俺を必要としてくれたんだよ。だから、オモチは帰らない。明日の挨拶まわりはキャンセルだ』


『アナタね! 私達がどれだけ……』


『俺は悪役だから、何を言われてもいい。だが、オモチには、ひどいことを言うなよ? シャルル』


『あのねー!!』


『成功したかは、まだわからない。だが、オモチの希望を最大限に叶える努力はした。明日なら、男だ』



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