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116、ぶっちゃけることにしたオモチ

「私は、帰らないよ!」


 彼の問いに対する答えではない。だけど、セルさんが怒っているように見えて、私は、新たに何か言うことが怖かった。


「それは、さっき聞いた。ムキになるなよ。俺は、俺へのお願いは何だ? と聞いただけだろ」


 私とは違って、セルさんは、やっぱり大人だな。子猫という言葉を使わなかった。私が真面目に打ち明けていたことがわかっているから、からかうのをやめたのね。


 どうしよう。


 セルさんは、私が何を言いたいのか、たぶんわかってると思う。彼にはトラウマがあるから、話し方を間違えると、すぐに出て行ってしまうかもしれない。



 また、シーンと静かになった。セルさんは、飲み物に手をかけている。喉が渇くってことは、彼も緊張してる? 緊張というより警戒かもしれないけど。


 セルさんは、私が話すのを待ってくれてるのかな。


 彼の顔を見ると、何だか不安そうに見えた。私を子猫扱いしていたときとは、全く違う。彼を失望させることを、私が話してしまうことを恐れているのかな。私は、彼の亡き恋人に性格が似ているから、私が話す言葉は、亡き恋人の言葉に聞こえるのかもしれない。


 どうしよう。


 圧倒的に恋愛経験値の足りない私は、こういうときに、どう話せばいいか、全くわからない。でも、これ以上、重苦しい時間が続くと、セルさんが帰ってしまうかもしれない。


 私は、パッと顔をあげた。だけど、まだ何も思いついてない。どうしよう。


 セルさんの視線が、私に真っ直ぐ向けられた。私が何を話しても、それを拒否して帰らせようと考えたのかな。さっきの不安な雰囲気はない。セルさんを説得なんて、私にはできそうにない。



 はぁ、もう、いいや。

 ぶっちゃけよう!




「セルさん、私は帰らないよ」


「あぁ、何度も聞いたぞ? 俺に、何のお願いがあるんだ?」


「私は、セルさんと一緒にいたいの。セルさんには、街にいて欲しいよ」


 彼は、小さなため息を吐いた。嫌われたかな。


「オモチは、わかっていて言ってるのか? コンセプトカフェで、俺のミッションを見たよな? 俺は、オモチがアース星に帰った翌日には、研究室送りになる」


「ミッションをやれば、街に残れるんでしょ? 私が帰らないなら、主人公の闇堕ちなんだよね?」


「はぁ、やはりオモチは、それで帰らないと言い出したのか。確かに、主人公を闇堕ちさせれば、次の期限までは街に居られる。だが、次のミッションも同じだと思うぜ」


「えっ? また、主人公を闇堕ちさせるミッション?」


「あぁ、研究室勤務の魔導士が足りないらしい。未来から来たロッコ族の世話係が必要だからな」


 じゃあ、私が帰らなくても、ひと月が経つと、セルさんは街から研究室に移ることになるの? シャルルさんも、ロッコロッコ星に帰るし、私は……。


 でも、そっか。そうだとしても、私はここに居たい。アバターは、男性側が子供を作ろうとすれば、必ず妊娠する。セルさんの子供がいれば、私はひとりぼっちにはならない。



「私は、帰らないよ」


「こら、オモチ! 意地を張るんじゃねーよ」


「意地じゃないよ。私が残れば、セルさんが街に居られる時間が、30日延びるじゃない。それに私はアバターだから、すぐに子供を産めるんでしょ? セルさんに似た子供がそばにいれば、寂しくないよ」


 あっ、失敗した? セルさんは、信じられないモノを見るような目をしてる。彼のトラウマに触れてしまったのかも。どうしよう。でも、発した言葉は消えない。それに、私の本心だもの。



「オモチ、それは、俺との間に子供を作りたいと言ってるのか?」


 俺を誘ってるのか、とは言われなかった。


「うん、そうだよ。アバターから生まれた子供って、成長が早いんだよね。あっ、ウィルの娘のケイトさんは、母親の魂が入ったから急成長したんだっけ」


「アイツらから、いろいろと情報を仕入れたんだな」


 セルさんは、うつむいてしまった。どうしよう。また、長い沈黙が続く。


 私は待つことしかできない。




「オモチ、本当に帰らないのか?」


「帰らないよ。だから、次のミッションの期限までの30日間は、私と一緒にいて欲しい」


 私は、必死な顔をしていたのだと思う。セルさんは、フッと笑ってるし。


「帰らなくて本当にいいのか? やっぱり帰ると言い出しても、できなくなるぞ。アバターで子供を作ると、母親は永住が決定するからな」


「私は、帰らないよ!」


 セルさんは、また、うつむいてしまった。


 きっと、こういうときって、乙女ゲームに出てくるような可愛いことを言うべきだよね。私は、帰らないって、叫んでるだけ。あまりにもダメすぎる……。



「オモチは、俺のことが好きなのか」


 ん? 独り言のような小さな声。


「私は、セルさんが好きだよ。何度も言ってるしょ!」


 ハッ! また失敗した。なぜ叫ぶかな。まぁ、うん、わかってる。照れ隠しだよね。


「俺のどこが好きなんだ? 見た目はウィルの方が好きだろう? 俺は、シエルさんのような人徳者でもない」


「そんなの、知らないよ! 好きに理由なんて必要なの? 気がついたら好きだったんだから、そんなの、わかんないよ!」


 ダメだ……。どうして、こんな言い方をしてしまうんだろう。きっと、呆れられる。


「ふっ、そうか。オモチは、感覚派か」


 あれ? セルさんは、笑ってる。感覚派って何?



「セルさんの目には、私は子猫にしか見えないですか」


 私がそう尋ねると、彼は妖艶な笑みを浮かべた。


「俺の子猫を産んでくれるなら、母猫だな」


「結局、猫ですか!」


「あぁ、俺は猫が好きなんだよ。引っ掻かれても、もう手放せなくなる。それでもいいか?」


「いいよ! でも、私の名前は飼ってた猫から付けたけど、私は猫じゃ……んっ」


 私の照れ隠しの反論は、彼の甘いキスで止められてしまった。



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