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114/122

114、マカロンのような惣菜

 近未来な感じの宿屋に入っていくと、ロビーの壁沿いには、たくさんのポスターが貼ってあった。


 この街をメイン舞台にした『聖都ミルズの騎士物語』のポスターばかりみたい。看板通りにはなかったポスターもたくさんある。この宿屋が登場したストーリーの名場面かな。


 その中で、私は見覚えのある攻略対象を見つけた。そっか、看板通りのポスターだと騎士のような姿をしていたから、どれも特徴がなくてわからなかったのね。騎士の服を着ていないキャラは、わかりやすい。


 だけど、名前は出てこないな。金色の目なのに髪は黒髪で、ちょっと不自然だと思ったっけ。それに、魔導士キャラにありがちな陰のある雰囲気なのに、騎士だもんね。



「オモチ、部屋が取れたよ。ん? ルーベルトを見てたのか?」


「あ、ルーベルト! 名前が出てこなかったんです。この攻略対象はクリアしたけど、何だか不自然なキャラだと思っていました」


「ん? 不自然なキャラ?」


「はい。金色の目なら、金髪や薄い茶髪が多いのに、このキャラは黒髪だし、魔導士っぽいのに騎士だから」


 するとセルさんは、ケラケラと笑った。


「やはり、そういう所なんだよな、この乙女ゲームがイマイチなのは。ルーベルトは、この街のアバターでは、瞳も髪も黒いよ。だけど本来の姿だと、落ち着いた金髪だ。ロッコロッコ星の魔導士は、金色の目が多いんだよ」


 あっ、クリスタルショップに行ったときに護衛をしてくれた子供達も、金色の目をしてたっけ。


「じゃあ、実物のルーベルトさんの本来の姿とアバターを混ぜたんですね。魔導士なのに騎士だから、不自然な気がしたのかな」


「ふっ、そうだろうな。初期の乙女ゲームは、設定もストーリーも、はっきり言ってグダグダだからな。部屋に行くぞ」


 セルさんは、私が持っていた惣菜の紙袋を取り上げた。


「ちょ、私が持つと言ったじゃないですか」


「館内は、食べ歩き禁止だからな。部屋に着いたら返してやるよ」


「食べ歩きなんてしないよ」


 私はちょっとカチンときたけど、セルさんは楽しそうに笑ってる。あっ、子猫扱いして遊んでるのね。



 ◇◇◇



 部屋は5階だった。坂道を魔力で上がっていく不思議な板に乗って移動した。エスカレーターみたいなものかな。やはり近未来ね。


「ここだな。オモチ、よく我慢したな。惣菜を返してやるよ」


 セルさんは、部屋の鍵を開けて扉を開くと、私に紙袋を返した。何だか芝居がかっているような気がする。彼は、私を子猫扱いすることで、自分を抑えているの?



「わぁっ! 広いですね。リビングにはテーブル席が二つもある。何人が泊まる部屋なんですか」


「だいたい4〜5人で使うんじゃないかな。この宿屋では小さな部屋だよ。寝室も二つしかないからね」


 やはり、寝室は別の小部屋にするつもりね。


「でもテーブル席は二つありますよ?」


「連泊用じゃないか? チェックアウトするまで清掃は入らないからな」


「えっ? 連泊できるんですか」


「あぁ、連泊ができない精霊の加護のある宿屋が、特殊なんだよ。魔法で一斉に掃除するためらしいけどな」



 セルさんはテーブルの上に、どこからか飲み物を出してくれた。私は紙袋を置いて、お皿がないかを探す。


 あっ! またポスターがある。ミニキッチンの冷蔵庫の上に食器棚があるのを見つけたけど、その棚には、額にいれた小さなポスターが飾られていた。さっき話していたルーベルトね。



「ん? オモチ、何をしてるんだ? 早く食べようぜ」


 セルさんは声をかけてくれたけど、ミニキッチンには来ない。ここは狭いからかな。


「お皿を探しにきたら、ルーベルトのポスターが飾ってありました」


「あぁ、それがこの宿屋の売りだからな。あちこちに、攻略対象が隠れているらしいよ。ここに宿泊したがる観光客へのサービスだろうな」


「へぇ、ファン心理を掴んでますね。やり込んだゲームなら、絶対に嬉しいですよ」


「ふっ、そうか。早く食べようぜ」


 私は大きめの皿を持って、テーブルに戻った。だけど、セルさんは紙袋を破いて、お皿状態にしている。食器はいらなかったかな。



 セルさんの向かいの席に座って、マカロンのような惣菜をかじる。うっ……お皿が必要だよ。中身がパラパラとテーブルに落ちた。


「オモチ、皿を持ってきたのに、全部テーブルにこぼれたな。その色は、中身がパラパラだから皿が必要だ」


「先に言ってくださいよー。でも、食べたことのない味で、不思議な感じがします。甘辛くて丸い穀物が入っているのかな」


「一応、野菜だな。ロッコロッコ星は、一日の寒暖差が激しい地域が多いから、オモチの星のような葉物野菜は、ほとんど無いんだよ。この惣菜は、聖都の料理とは違って、食べやすいから、どの国でも売ってるよ」


「へぇ、そうなんですね。アース星も、場所によっては、寒暖差はわりとありますよ。砂漠とかは酷いみたいだし」


「ふぅん。あっ、こっちを食ってみな。これなら食べやすいはずだ」


 セルさんに渡されたマカロンみたいな惣菜は、食べてもいいのか悩むほどの青い蛍光色だった。そういえば青い食べ物って、あまりないよね。


 中身は、しっとりしていて、ミルクっぽいクリームの中に、何種類かの柔らかいつぶつぶが入っていた。


「とても食べやすいし、美味しいです」


「ククッ、やっぱりな」


 なぜか、セルさんは笑ってる。全然爽やかさのない笑いなんだけど……。


「やっぱりって?」


「それは、子供が食べるスープだよ。子猫に合うと思ったんだよ」


「えー、私は大人ですけど!」


 ダメだな。セルさんは、完全に私を子猫扱いしてる。でも、変な言い方をして、セルさんが他の部屋に移ってしまっても困るよね。


 あっ、そうだ!


「セルさん、お願いがあるんですけど……」



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