113、オモチ、必死に考える
コンセプトカフェを出ると、夕焼けの街を見る予定が、すっかり夜の景色に変わっていた。
空には、星の光だけでなく、渋滞している乗り物の光もあって、色とりどりで綺麗。こんな空は、他の街では見られないよね。
「しまったな。夕暮れにもう一度、塔に行こうと思ってたが、タイミングを間違えた。仕方ない。次の街に行くか」
「夜の景色も綺麗ですよ? 空の渋滞が綺麗だし、今日はこの街に泊まりたいです」
私がそう言うと、セルさんは口を開きかけて、すぐに閉じた。ん? 何か葛藤してる?
「オモチ、この街ミルズには、精霊の加護のある宿屋がないんだ。だから、宿泊はできないよ」
「宿屋がないのですか?」
「宿屋はあるが、精霊の加護のある宿屋がないんだ。ロッコロッコ星は、精霊信仰はしてないからな。聖堂で祀るイービー神だけが、唯一の信仰対象だ」
「イービー神って、イービー星の人ですか?」
「あぁ、この人工星だと、イービー星の神々は、普通の人のフリをしているけどな。シエルさんも他の星に行けば神だぜ?」
セルさんは、私とシエルさんを、くっつけようとしているのかな。全然わかってない。シエルさんは確かに優しくて良い人だけど、私はシエルさんにはドキドキしないもの。
「でも、測定アプリが選んだのは、セルさんでしたよ」
「不思議だよな。なぜ俺なんだ? オモチの何を測定したら、そんな結果になるんだろうな」
「秘密です」
まさか、私が測られてないなんて、誰も予想もしなかったことだよね。
「ふっ、じゃあ、次の街に行くか。どこがいい?」
セルさんはそう言いつつ、夕焼けを見逃したことを後悔しているように見えた。この街のあの塔から見る夕焼けに、思い出があるんだろうな。
もうこの街にも、簡単には来られないと考えているのかも。ゲームの恋人じゃないと、自由に歩けないだろうし。
「私は、この街で泊まりたいです。朝の空は、すごい数の乗り物が飛び交っていたと思うんですけど」
「オモチは、変なとこを覚えてるんだな。朝は渋滞緩和のために、臨時の道ができるからな。俺達としては、ごちゃごちした光景だが、知らない人には興味深いか。明日の朝、また来ればいい」
彼が精霊の加護のある宿屋にこだわるのは、宿屋ノームと同じく、一人部屋になるからだよね。
でも、私は……。
そのとき、ふとお菓子屋のような店が、視界に入った。マカロン? いや、それにしては蛍光色だよね。
「セルさん、あの店は何ですか? マカロンみたいなお菓子が……」
「マカロン? それは俺にはわからないが、あの店は、お菓子屋じゃなくて、惣菜屋だよ」
「えっ? お菓子にしか見えない」
「ククッ、子猫が興味を持ってしまったな。まぁ、昼食は遅かったし、夜は、オモチの興味のある物を買って、宿で食べるのもいいか」
宿で食べる? うん、それがいい。私は思いっきり頷いたのだと思う。セルさんは、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、セルさんは懐かしそうな顔をしていた。亡き恋人と来たことがあるのかな。
並ぶ惣菜は、私の目にはマカロンにしか見えない。しかも、蛍光色のマカロン。カツの中身が蛍光色だったのは驚いたけど、最初から蛍光色なら心構えができる。
「食べやすいように工夫されてるんだよ」
「へぇ、お菓子にしか見えないですけど、惣菜ということは、細長いパンに合わせるんですか?」
「ん? もうパンで挟んであるじゃないか。あのパンは、聖都の料理で使うんだよ」
「蛍光色の物が、パンなのですか? 色が違うと味が違うのかな」
私がショーウィンドウに釘付けになっている間に、セルさんは、惣菜を買ってくれたみたい。
「上の段を一列全部買ったぜ。次の街に行って、宿探しだな」
そう言うと、セルさんはまたスタスタと店を出てしまう。記憶力は30分って言ってたのは、事実らしい。
「セルさん、私が持ちます」
「歩きながら食うのか? 中身がポロポロとこぼれる惣菜が多いから、歩きながらは難しいぜ」
外は、急に寒くなったように感じた。
「じゃあ、公園で食べます」
「この街は、夜の公園は寒いよ。今日は風がないから、まだマシだけどな」
私がセルさんから惣菜の紙袋を奪い取ると、彼はクスクスと笑っていた。完全に子猫を見る目だよ。油断させて、どこかの宿屋に……なーんて、絶対に無理だよね。
「オモチは、また悪い顔をしてるな。何を考えてるんだ?」
「えっ? なぜわかるんですか」
「ふっ、わかりやすいからな。この街は、一気に寒くなるから、そろそろ移動しよう。どこがいいかな」
セルさんは、精霊の加護のある宿屋にしか泊まらない? もしかして、私を置いていくの?
「セルさんは、私と一緒に泊まってくれないんですか? だから、精霊の加護のある宿屋のある街に行こうとしてる?」
「同じ宿屋に泊まるよ。だが……」
「知らない街で一人で泊まるのは嫌です。セルさんと一緒がいい」
「なっ? オモチ、まさか俺を誘ってるのか?」
うん、そうだよ。とは言えない。私は渾身の演技力で、首を傾げた。
「宿の部屋には、これを食べる場所がありますよね? まさか、私を放置しないですよね?」
「あ、あぁ、そういうことか。そうだな、リビングの広い宿屋もあるが……」
「高いのかな」
「いや、精霊の加護のある宿屋ほど高い宿は多くない。そうだな、寝室が複数ある部屋なら問題ないか……」
セルさんは、ぶつぶつと何か喋っている。自問自答かな? しばらく歩いていると、近未来的な建物が並んでいるのが見えた。金属製で冷たいイメージだけど、何だか見たことがあるかも。
「ここって、乙女ゲームに出てきた?」
「あぁ、そうだな。ロビーにはポスターが貼ってあると思うぜ。団体用の宿屋だが、小さめの部屋が空いているか、聞いてみるか」




