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111/122

111、私は、帰らないよ

「ん? オモチは、何をやめるんだ? ゲームの恋人作戦か? あー、この街は、見飽きたか」


「違うよ。私、もう、我慢するのをやめたの」


 声に出してみると、心の中にあったモヤモヤが、スーッと晴れていくのを感じた。そう、私が帰るのをやめればいい。そしたら、寂しい気持ちに苦しまなくていい。なぜ、こんな簡単なことに、気づかなかったんだろう。


 私は、すでに事故で死んだことにされている。きっと、もう、お葬式もとっくに終わってるよね。だから帰ると、家族や友達は喜んでくれると思うけど、その先のことを考えると憂鬱になる。


 この星で出会った多くの人達が、私が帰れるように協力してくれた。その気持ちもすごく嬉しかったから、頑張ることができた。地球に帰ることが、私の責任だと思ってた。


 でも、私が帰らなくても、もうシャルルさんは困らない。責任は果たしたと考えていいよね。



「我慢って……俺がオモチを不快にさせてたか」


 セルさんは、全然わかってない。


「うん、主人公の私の最後のゲームの恋人になってくれないんだもん。他の人に押し付けようとしてる」


「あー、悪い。俺は、自分を信用できないんだ。だが、それは俺の問題だ。確かに今、ゴタゴタしたことは、不快だよな。悪い」


 それで、どうするの? そう尋ねるつもりで、セルさんの顔を見る。ちょっと挑発しすぎかな? 嫌われるかもと、少し不安になる。

 


「オモチ、その膨れっ面は何だ?」


「セルさんがどうするのかなって。悪役らしくないなー」


 私がそう言うと、セルさんは大きなため息を吐いた。


「そうだな。俺もあと4日は、悪役だったな」


 セルさんは、何かのスイッチが入ったみたい。役割に徹することにしたのかな。


 彼の顔が、スーッと近づいてくる。


 私の唇に彼の唇が重なった。優しいキス。私、今までで一番ドキドキしてる。やっぱり、セルさんのことが好きだと実感する。



「よし、これでいいな」


 セルさんは、ゲームの恋人として、割り切ろうとしているみたい。あっ、また逃げるかな。


「セルさんは、私の護衛ですよね?」


「ふっ、もうこれで最後だからな。ちゃんとオモチを護衛するから、心配するな。さてと、看板通りでポスターを見るんだったか?」


「はい。攻略対象の顔が、全然思い出せないから」


「わかった。じゃあ、降りるぞ。聖堂付近は、転移魔法が使えないから、芝生の所までは歩くからな」


 セルさんは、私の腕を掴むと、塔から飛び降りた。ゆっくりと降りて行くけど、一瞬、落ちるかと思って、セルさんの腕をギュッと掴んでしまった。


「ふっ、子猫は高い所から降りるのは、苦手か」


「怖いですよ。私は浮遊魔法なんて使えないもの」


「簡単な重力操作魔法だから、オモチの魔力量でも使えるぜ。帰るまでに習得しとくか? でも本来の身体に戻ると、魔力がないから使えないな」


 私は、帰らないよ。


 だけど、今はまだ言えない。きっとセルさんは、私を帰らせようとするもの。彼はそれが亡き恋人への償いだと考えてるって、シャルルさんも言ってたもんね。


 どういう作戦でいこうかな。やはり、宇宙船の搭乗時間に間に合わなかったというのが、一番いいよね。誰も、自分のせいだとか思わないもの。



 聖堂近くの広場から、セルさんは、転移魔法を使った。




 ◇◇◇



「さっきの塔が見えますね」


 私達が着地したのは、看板通りの先に、聖堂の塔が見える場所だった。空の交通渋滞も、この場所の真上にはない。


「ちょっと離れたが、ここは少し高台になっているから、街の様子も見えるだろう?」


「そうですね。しかも、空の渋滞がない。空には道がないのに、なぜ交通渋滞が起こるのかな」


「ん? 空にも道があるぜ? 自由に乗り物が飛び交っていたら、事故が多発するだろ」


「へぇ、確かにそうですね」


 私は空を見上げてみた。道らしきものは見えないけど、渋滞してるってことは、そういうことなのね。




「ふっ、オモチ、こっちだ」


 セルさんは、看板通りを歩いて行く。この通りは、人が少ないから、穴場なのかも。私は置いていかれないように、小走りで追いかけた。


「セルさん、すぐに先に行っちゃう癖がありますよね」


 追いついた私が文句を言うと、彼は一瞬、目を見開いた。あっ、感じ悪かったかな。


「やはり、オモチは似てるな。一瞬、コイツが言ったのかと、ドキッとしたよ」

 

 セルさんは、一枚のポスターを指差した。『聖都ミルズの騎士物語』のポスターね。大きな聖堂が背景になっていて、端っこの方に、二人の少女が描かれている。


 どっちがシャルルさんなのかな。あー、右か。ということは、左がマリーヌさん? 亡くなった恋人のポスターがあるなんて、セルさんには辛いのかな。逆に、会えて嬉しいのだろうか。



「私は、似てますか? シャルルさんにも、そう言われたことが何度かあります」


「あぁ、顔は違うけどな。俺が先に行くと、いつも文句を言われたよ。たぶん、性格が似てるんだと思う」


「セルさんは、ずっと忘れられないんですよね。忘れちゃいけないって思ってる。だけど私は、セルさんには前を向いてもらいたいです。過去に囚われて生きるのは、もうやめませんか」


「ふっ、悪役令嬢にも同じことを言われたよ。俺が、マリーヌの亡霊に取り憑かれていては、マリーヌが可哀想だとか言ってたな。そんな亡霊には会ったこともないけどな」


 シャルルさんも、セルさんには、前を向いてもらいたいのね。たぶん、親友を死なせたことは、一生怒ってるだろうけど。



「で? オモチ、攻略対象を思い出したか?」


 あっ、そうだった。私は、横のポスターを見ていく。しっかり名前まで見ても、よくわからないな。


 


「アース星の主人公が、また闇堕ちしたんですって」


「ロッコロッコ星の人達に、厳しいミッションが出てるからでしょ」


 ポスターを見ていた人が話す声が聞こえてしまった。厳しいミッション?



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