表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/122

110、葛藤

「ええ〜っ? シャルルさんが、あの謎の美少女ですか? あっ、確か二人いましたよ。昼と夜では、変わるんです」


 私は、古い記憶を必死に手繰り寄せる。昼と夜では、アドバイスが変わったりして、ちょっと混乱したっけ。


 あれ? セルさんがまた遠い目をしている。私の方を見たときには、目が少し潤んでいるように見えた。


「もう一人は、マリーヌだよ。確か、マリーヌが昼の少女で、シャルルは夜の少女じゃなかったかな」


 えっ? マリーヌって……。シャルルさんから以前聞いた名前だ。名前があまり聞かない感じだから、耳に残っていた。セルさんが亡くした恋人の名前。



「シャルルさんは、夜の少女ですか。正確には覚えてないけど、昼と夜では、同じ質問をしても答えが変わることがあったんですよ」


 私は、マリーヌさんのことを、口に出すことができなかった。そっか、それで彼は、遠い目をしてたのね。



「あぁ、そうらしいな。そのせいで惑わされるらしい。『聖都ミルズの騎士物語』は、設定がおかしいんだよ。ロッコロッコ星の聖都には、騎士なんていないぜ」


「あっ、魔導士が多いんでしたっけ?」


「聖都には、いろいろな種族が訪れるが、住んでいるのは全員が魔導士だ。ロッコロッコ星との違いを出したかったみたいだけど、脇役の二人はよく文句を言っていたよ」


 セルさんと目が合った。彼が必死に耐えているような気がして、私までつらくなってくる。だけど、彼は指摘して欲しいのだと感じた。



「マリーヌさんという方が、セルさんの恋人なんですね」


 私の話し方が意外だったのか、彼は少し戸惑っているように見える。でもこの表現が正しい。今も彼の中には、マリーヌさんしかいないもの。


「俺の恋人だったよ。俺がマリーヌを殺したんだ」


 そう言って、自虐的な笑みを浮かべた彼は、その場に崩れるように座り込んでしまった。なんだかセルさんが壊れてしまいそうに見える。商店街で涙を隠したときも、彼は泣いていた……。


 私は気づいたら、セルさんにキスをしていた。



「ちょ、オモチ! ゲームの恋人になるだろーが」


 セルさんは、私の肩を押して、強制的に離した。あっ、忘れてた。3秒は経ってない。それを言おうとしたけど、彼の方が、子猫のような顔をしている。


 そうか、こういうことか。彼の測定値が95%だったのを思い出した。彼が私に依存している度合い。私を必要としている。私はセルさんに必要とされている!



「私は、セルさんのことが好きです」


「それは、測定アプリを使って、俺が一番数値が高かったってことだろ? 勘違いするな。オモチは、3日後には帰るじゃないか」


 セルさんの話し方がおかしい。私に話しているというより、まるで自分に言い聞かせているような……。


「私のことは、子猫にしか見えませんか?」


「オモチは、迷子の子猫だからな。安心しろ。今の突撃では、ゲームの恋人にはなってない」


「ゲームの恋人になると、マズイですか?」


「そりゃ……ん? そうか、オモチを闇堕ちさる罠があるとすれば、今夜が一番危険か。明日の夜は悪役令嬢が引き取るだろうし、最終日の前夜には仕掛けても無駄だ。そうだな」


 セルさんの表情が、いつもの大人に戻ってしまった。さっきの言葉は、彼の心の中で繰り返していた言葉なのかな。


 セルさんは、私を帰らせてやりたいって思ってるから、自分の心に蓋をしてる。でも、私が亡き恋人に似ているから、きっと……。




「オモチ、ゲームの恋人になっておくか? その方が、俺も安心できる。オモチを返したくない運営側が何か仕掛けてくるとすれば、確実な方法は一つしかない」


「確実な方法って?」


 私は闇堕ちのことが、イマイチわかっていない。この星から出られない理由なんて、よく知らないから、セルさんが何を言っているかわからない。


「いや、それは言えない。しかしそれなら、俺じゃなくて、シエルさんの方が確実か」


「どうして、シエルさんが出てくるの? 私が選んだのは、セルさんなのに」


「まぁ、そうだがな。俺は、信用できないだろ。悪役だし、そもそも……」


 セルさんは、何かと葛藤しているみたい。また、さっきの言葉を、頭の中で繰り返してるのかな。


 あっ! そうか。


 私は、セルさんが何を言っているのか、ようやく気づいた。この星に永住することが闇堕ちで、期限切れ以外で一番多い理由を、シャルルさんから聞いたことを思い出した。


 私は、どうしたいの?


 セルさんは、立ち上がると携帯機を操作し始めた。誰かに相談してるの? しゃがんでいた私も立ち上がる。



「誰にチャットしてるんですか?」


「ん? あぁ、まぁ、ちょっとな」


「見せて」


「嫌だね。子猫が突撃して来そうな予感がする」


 ば、バレてる。


「他の人に、私を押し付けようとしないでよ。セルさんって、すぐに逃げるよね」


「あぁ、逃げるよ」


 ダメだ。挑発しても乗ってこない。


「そういえば、シャルルさんが言ってたよ。セルシードは、逃げるって」


「ふぅん、そうか。悪役令嬢の分析力は、基本的に有能だからな」


 シャルルさんを出しても無理。ダメだ。完全にあしらわれてる。人生経験の差なのかも。だけど、私は……。



「チッ、二人とも厳しいな」


 ん? シエルさんとウィル? 


「断られたんですか」


「いや、早い方で夕方遅くだ。サリィさんの権限を使えば、行けるそうだが、緊急事態でなければできないと……当たり前だな。はぁ、俺が冷静になればいいだけのことだ」


 セルさんは、自分を信用できないと言っていた。でも、ゲームの恋人は良い作戦だと思ってるから、他の誰かに押し付けて、逃げようとしてる。


 彼は、自分を押さえてるから、本音が出てしまうことを恐れてるの? 私が、帰ることを望んでいるから?


「セルさん、私、やっぱ、やめるよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ