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109/122

109、聖都ミルズの聖堂

 食後の飲み物が運ばれてきた。これは初めてかも。透明なお湯のようなのに、飲むと花の香りがする。


「オモチ、この後は、どこに行くんだ?」


 セルさんは、この飲み物を一口飲むと、少し遠い目をしていた。亡き恋人との思い出があるのだと直感した。やはり彼は、過去から抜け出せないのかな。



「行ったことのない場所を見てみたいです。4日間あるから、転移屋さんで地図を見ようかと考えてました」


「オモチ、実質的には2日じゃないか? 最終日は、昼食をラグ塔で食べる。帰れなくなると大変だからな。前日は、悪役令嬢と挨拶まわりだろう? 自由時間は、今日と明日くらいじゃないか?」


「あっ! そうですね。もう時間がないんだ」


 私は、携帯機の達成済みミッションが4つ残っているから、勘違いしていた。ちゃんと時間を見ないと。この仕様は、錯覚させるためなのかも。


「じゃあ、チェックアウトして、出発するか」


「はい、あ、一旦、部屋に戻ってもいいですか? 服を着替えたくて」


「わかった。あちこち歩き回るつもりなら、動きやすい服にしろよ?」


 私が頷くと、セルさんは、私の頭を撫でようとして……なぜかやめたみたい。いつもなら、子猫扱いしてたのにな。


 


 ◇◇◇



 部屋に戻って、忘れ物がないかをチェックしつつ、服を着替えた。かわいいワンピースにしようと思ってたけど、動きやすい服にした。


 私は、知らない街に泊まってみたいと思っていた。この部屋には、お世話になったな。帰るまでに、また来られるだろうか。



 フロントで、私はチェックアウトの手続きをした。


「今夜も宿泊予約されますか?」


 私はいつもそうしていたから、自然に尋ねてくれた。私の行動を覚えてくれていて、とても嬉しい。


「いえ、昨夜ミッションが終わったんです。帰るまでには日にちがあるので、また泊まりに来るかもしれないですが、今日は、知らない街に泊まってみたくて」


「まぁ! オモチ様、おめでとうございます。ここを離れられる前に、またお立ち寄りいただけたら嬉しいです」


「ありがとうございます。皆さんには、本当にお世話になりました。出発までには立ち寄りたいと思ってます」


 奥の休憩室からも、従業員さんが出て来てくれた。みんな、おめでとうって言ってくれる。なんだか、涙が出そうになるよ。



 セルさんは、私よりも先にチェックアウトしていたみたい。ロビーのソファに座って、携帯機を操作していた。私の挨拶の邪魔をしないように、配慮してくれてるのね。やっぱり、大人だよね。


 彼が私に依存してるなんて、どう考えてもありえない。測定アプリは、彼の何を測ったのかな。




 ◇◇◇



 私が宿屋ノームを出ると、セルさんが追いかけてきてくれた。宿のフロントの人達が見送ってくれてたから、セルさんに声をかけそびれたのよね。


「オモチ、護衛を置いていくなよ」


「すみません。声をかけるタイミングが難しくて」


 言い訳のようなことを言ってしまったけど、セルさんは特に気にしてないみたい。やはり大人だ。



「オモチの知らない街なんて、たくさんありすぎると思うぜ。他に遊んでいた乙女ゲームはないのか?」


「ですよね。スープラ社で一番最初にやったのは、『聖都ミルズの騎士物語』です。かなり前だし、攻略対象のことも覚えてないですけど、街が近未来な感じで、すごく綺麗だった印象が強いです」


「へぇ、あれが近未来な感じなのか。聖都ミルズに、行ってみるか?」


「は、はい!」


 勢いよく返事をしたせいか、セルさんがクスッと笑った。彼が笑ってくれると、すっごく嬉しい。


「じゃあ、行くぞ」


 セルさんは、私の腕を掴むと、転移魔法を使った。




 ◇◇◇



 移動した先は、大きな聖堂の前にある美しい広場だった。空を見上げると、空飛ぶ乗り物が渋滞している。


「わぁっ! 聖都ミルズだ! 本物も、空の交通渋滞があるんですね」


「ふっ、大渋滞だな。聖都は道が細いから、歩行者しか利用できないんだよ。だから、乗り物は空を飛んでいる。転移屋が少ないからな」


「へぇ、そうなんですね。何となく思い出してきました。あの聖堂は、奥に塔がありますか?」


「あるよ。行ってみるか?」


 セルさんはそう言うと、私に手を出してくれた。これって、もしかして、手を繋いでもいいってこと?


 私がそっと手を置くと、セルさんは優しく握ってくれた。こんな風に手を繋ぐのは、初めてかも。


「オモチは、迷子になる特技があるからな」


「えーっ? そうですかぁ?」


「ククッ、行くぞ」



 セルさんは、聖堂の門をくぐり、中庭にある塔を目指しているみたい。聖堂の中は、すっごい人だった。あの乙女ゲームは、そんなにヒットしなかったから、他の星から来た人が多いのかな。


 塔にたどり着くと、身体がふわりと浮かび上がった。セルさんの魔法みたい。他の観光客は、階段を必死に上がっているのに、私達だけがズルをしてる気分。あっ、他にも同じことをしてる人はいるのね。



 塔の上からだと、聖都ミルズの街全体を見渡すことができる。乙女ゲームでも、この場所は登場したっけ。



「オモチ、反応がイマイチだな。まぁ、昼間は、見晴らしはいいが、この街の美しさはわからないな」


「この場所がゲームで登場した記憶はあるんですけど、あまり覚えてないです。看板通りで、ポスターを見れば思い出すかも」


「ふっ、まぁ、ここがメイン舞台のゲームの制作は、もう15年以上前のことだからな。アース星への配信は、10年くらい前か。その直後は、悪役令嬢が忙しそうだったよ」

 

「悪役令嬢? あっ、この聖堂に住む謎の美少女のことですか? 確か、ゲームのヒントをくれる役割のような……」


「シャルルだよ。彼女は脇役で出ている。ここは、ロッコロッコ星の聖都に似せて、作られたからな」


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