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105/122

105、オモチ、覚悟を決める

 翌朝、私はいつものように、豪華な朝食を食べ、昼前に、チェックアウトと同時に宿泊予約をした。


 今朝は、測定アプリは見ていない。確定しない情報に悩んでも仕方ない。今日は、ゆっくりと過ごそう。



 宿屋から外へ出ると、誰かを待っているらしき人が、たくさんいた。だけど、それは私ではないみたい。私は自分のことで精一杯になっていたけど、新たな主人公が何度も到着しているはず。


 最短なら、明日には、私は地球に帰れるらしい。ここに来たときは、本当に最悪だと思ってたけど、いざ帰るとなると、寂しいを通り越して、苦しい。


 その理由は、わかっている。帰ると、もうセルさんに会えない。私が再び、この人工星に来ることなんて、ないはずだもの。


 何も気付かないで終われたら、よかったのかもしれない。すべては、昨日、セルさんが住んでいた街に行きたいと言った私の責任。自業自得か。



 看板通りを歩いたり、誰かと行ったことのある公園に一人で行くと、いろいろなことを思い出した。あっ、そういえば、メモリーを見てないな。


 公園のベンチに座って、携帯機を手に取った。そして、メモリーを開く。


 うわっ! すっごく増えてる!


 二次元の写真のような感じだけど、だから余計に、ウィルのことは、わかりやすい。日付順になってるけど、人別の方がいいのにな。


 次々に見ていくと、シエルさんとウィルばかり。私は、セルさんを探しているのか。全然ない。どうして、セルさんがないんだろう。全員との思い出というわけじゃないのかな。


 あっ! あった!


 セルさんと一緒に写っているのは、商店街だけだった。私からキスをしたときと、セルさんが私の頭を押さえて抱きしめているとき。その2枚しかない。


 私に顔を隠していたときの、彼の表情が写っている。その前にも彼の涙の跡に気付いたけど、やっぱり、あのときも泣いていたんだ。


 彼の表情は、読み取れない。私は、亡くなった恋人の代わりを務めてたもんね。この涙は、私が見るべきじゃない。そう考えると、胸がズキンと痛くなった。


 片想いって、こんなに痛かったっけ。もう居ない人には、絶対に勝てないからかな。勝ち負けじゃないか。私は、彼が過去に縛られて苦しんでいることが、辛いのかな。



 静かなコンセプトカフェで、遅めの昼食を食べた。乙女ゲームを紹介しているファイルを、めくってしまう。黒魔導士セルシード……これがセルさんだよね。


 背景には、夜の繁華街が描かれていた。あの商店街で見た看板もある。そっか、この看板のせいで、場所が特定されたのかも。


 私は、長い時間を、そのコンセプトカフェで過ごした。一人でいるのは、刺されて療養していたとき以来だな。


 でも、必要な時間だったと思う。覚悟ができた。


 最後のミッションは、測定アプリの結果に従わないといけないけど、その後、帰るまでに、セルさんとちゃんと話そう。じゃないと、一生後悔する気がする。




 ◇◇◇




 私は、夜、少し早めに、シエルさんが働くファン会館へ行った。3階では、護衛の人達に名前を名乗ると、すぐに通してくれた。



 レストランに入ると、ウィルがいた。なぜか、ファンらしきお客さんと握手してる? 


「オモチさん、早いね。でも、そろそろかしら? セルシードさんは、向こうの会議室にいるよ。ウィルさんは、2階の事務所に行ってね」


「サリィさん、こんばんは。えっと、じゃあ、私はどこに?」


「オモチさんは、私と一緒に結果チェックよ。もうすぐ、シャルルさんも来るよー。ミッション完了を見届けないとねー。誰になるんだろう? ワクワクするね」


 サリィさんは、本当にワクワクしてるみたい。リアルな乙女ゲームを楽しんでるのね。




「遅くなったかしら。こんばんは」


「全然、遅くないよー。まだ、確定時間じゃないもん。シャルルさんは、誰が選ばれると思う? 昨日の時点では、ウィルさんが1位だったみたいだよ」


 私はシャルルさんに、軽く会釈をした。


「そうね。一番積極的に世話をしていたシエルさんじゃないかしら? この3人なら、私ならシエルさんを選ぶわ」


「昨日の時点では、シエルさんは3位だよー。私はねぇ、セルシードさんかなって思ってるの」


「はい? 一番可能性は低いと思いますよ。オモチさんは、セルシードさんの過去を知っていますからね」


 シャルルさんは、少し不機嫌になったかも。でも、もう、セルさんのことは許しているように見えるけどな。


「ええ〜? じゃあ、ウィルさんにしようかな。でも、それだと、意外性がないもの。うーむ、何を測ってるかがわかれば、もっと予想しやすいのにねー」


 そっか。サリィさんは、あくまでもゲームのミッションだからと、選ばれない人を勇気づけているのかも。


 シエルさんの姿は見えない。厨房にいるのかな。



「じゃあ、そろそろ俺は移動するよ。オモチは、測定アプリの結果が出たら、その人の所に行くんだよな? その後ここに集合でしたか?」


「うん、そんな感じでよろしくね〜。それから、オモチさんのミッションが完了したら、ここでお疲れ様会をするよ」


 サリィさんは、完全に仕切ってるんだな。


「オモチのお疲れ様会なら、俺の娘も参加したがるだろうけど、この時間は寝てますね」


「アース星に帰る前に、オモチさんは皆の所をまわるはずよ。私が同行するわ。私も挨拶まわりをしたいもの」


 シャルルさんが、私の挨拶まわりを付き合ってくれるのね。彼女も、ロッコロッコ星に帰れるからかな。


「娘には、そう言っておくよ」


 ウィルは、少し寂しそうな表情をして、レストランを出て行った。私と会えなくなるのを、寂しいと思ってくれてるのかな。



「オモチさん、そろそろ時間よ。結果を見てみて」


 シャルルさんも、少し寂しそうに見えた。



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