105、オモチ、覚悟を決める
翌朝、私はいつものように、豪華な朝食を食べ、昼前に、チェックアウトと同時に宿泊予約をした。
今朝は、測定アプリは見ていない。確定しない情報に悩んでも仕方ない。今日は、ゆっくりと過ごそう。
宿屋から外へ出ると、誰かを待っているらしき人が、たくさんいた。だけど、それは私ではないみたい。私は自分のことで精一杯になっていたけど、新たな主人公が何度も到着しているはず。
最短なら、明日には、私は地球に帰れるらしい。ここに来たときは、本当に最悪だと思ってたけど、いざ帰るとなると、寂しいを通り越して、苦しい。
その理由は、わかっている。帰ると、もうセルさんに会えない。私が再び、この人工星に来ることなんて、ないはずだもの。
何も気付かないで終われたら、よかったのかもしれない。すべては、昨日、セルさんが住んでいた街に行きたいと言った私の責任。自業自得か。
看板通りを歩いたり、誰かと行ったことのある公園に一人で行くと、いろいろなことを思い出した。あっ、そういえば、メモリーを見てないな。
公園のベンチに座って、携帯機を手に取った。そして、メモリーを開く。
うわっ! すっごく増えてる!
二次元の写真のような感じだけど、だから余計に、ウィルのことは、わかりやすい。日付順になってるけど、人別の方がいいのにな。
次々に見ていくと、シエルさんとウィルばかり。私は、セルさんを探しているのか。全然ない。どうして、セルさんがないんだろう。全員との思い出というわけじゃないのかな。
あっ! あった!
セルさんと一緒に写っているのは、商店街だけだった。私からキスをしたときと、セルさんが私の頭を押さえて抱きしめているとき。その2枚しかない。
私に顔を隠していたときの、彼の表情が写っている。その前にも彼の涙の跡に気付いたけど、やっぱり、あのときも泣いていたんだ。
彼の表情は、読み取れない。私は、亡くなった恋人の代わりを務めてたもんね。この涙は、私が見るべきじゃない。そう考えると、胸がズキンと痛くなった。
片想いって、こんなに痛かったっけ。もう居ない人には、絶対に勝てないからかな。勝ち負けじゃないか。私は、彼が過去に縛られて苦しんでいることが、辛いのかな。
静かなコンセプトカフェで、遅めの昼食を食べた。乙女ゲームを紹介しているファイルを、めくってしまう。黒魔導士セルシード……これがセルさんだよね。
背景には、夜の繁華街が描かれていた。あの商店街で見た看板もある。そっか、この看板のせいで、場所が特定されたのかも。
私は、長い時間を、そのコンセプトカフェで過ごした。一人でいるのは、刺されて療養していたとき以来だな。
でも、必要な時間だったと思う。覚悟ができた。
最後のミッションは、測定アプリの結果に従わないといけないけど、その後、帰るまでに、セルさんとちゃんと話そう。じゃないと、一生後悔する気がする。
◇◇◇
私は、夜、少し早めに、シエルさんが働くファン会館へ行った。3階では、護衛の人達に名前を名乗ると、すぐに通してくれた。
レストランに入ると、ウィルがいた。なぜか、ファンらしきお客さんと握手してる?
「オモチさん、早いね。でも、そろそろかしら? セルシードさんは、向こうの会議室にいるよ。ウィルさんは、2階の事務所に行ってね」
「サリィさん、こんばんは。えっと、じゃあ、私はどこに?」
「オモチさんは、私と一緒に結果チェックよ。もうすぐ、シャルルさんも来るよー。ミッション完了を見届けないとねー。誰になるんだろう? ワクワクするね」
サリィさんは、本当にワクワクしてるみたい。リアルな乙女ゲームを楽しんでるのね。
「遅くなったかしら。こんばんは」
「全然、遅くないよー。まだ、確定時間じゃないもん。シャルルさんは、誰が選ばれると思う? 昨日の時点では、ウィルさんが1位だったみたいだよ」
私はシャルルさんに、軽く会釈をした。
「そうね。一番積極的に世話をしていたシエルさんじゃないかしら? この3人なら、私ならシエルさんを選ぶわ」
「昨日の時点では、シエルさんは3位だよー。私はねぇ、セルシードさんかなって思ってるの」
「はい? 一番可能性は低いと思いますよ。オモチさんは、セルシードさんの過去を知っていますからね」
シャルルさんは、少し不機嫌になったかも。でも、もう、セルさんのことは許しているように見えるけどな。
「ええ〜? じゃあ、ウィルさんにしようかな。でも、それだと、意外性がないもの。うーむ、何を測ってるかがわかれば、もっと予想しやすいのにねー」
そっか。サリィさんは、あくまでもゲームのミッションだからと、選ばれない人を勇気づけているのかも。
シエルさんの姿は見えない。厨房にいるのかな。
「じゃあ、そろそろ俺は移動するよ。オモチは、測定アプリの結果が出たら、その人の所に行くんだよな? その後ここに集合でしたか?」
「うん、そんな感じでよろしくね〜。それから、オモチさんのミッションが完了したら、ここでお疲れ様会をするよ」
サリィさんは、完全に仕切ってるんだな。
「オモチのお疲れ様会なら、俺の娘も参加したがるだろうけど、この時間は寝てますね」
「アース星に帰る前に、オモチさんは皆の所をまわるはずよ。私が同行するわ。私も挨拶まわりをしたいもの」
シャルルさんが、私の挨拶まわりを付き合ってくれるのね。彼女も、ロッコロッコ星に帰れるからかな。
「娘には、そう言っておくよ」
ウィルは、少し寂しそうな表情をして、レストランを出て行った。私と会えなくなるのを、寂しいと思ってくれてるのかな。
「オモチさん、そろそろ時間よ。結果を見てみて」
シャルルさんも、少し寂しそうに見えた。




