104、送別会のつもりで
いつものようにハイテンションなサリィさんの話を聞きながら、私達は夜食を食べた。
にぎり寿司が生臭かったのは、凍ったままカットしたマグロをしゃりに乗せた後に、魔法で解凍したせいだったみたい。こんなものまで取り扱っているなんて、このレストランには驚きしかない。
口直しにと、レストランからケーキと紅茶のサービスがあった。サリィ王女の席だからかな。
「オモチさん、測定アプリはどうなってるの?」
紅茶を飲んでいると、サリィさんは自然な流れで、聞いてきた。ちょうどいいかな。
「さっき見た時には、私の感覚と大きくズレている気がして、何を測ってるのか不思議です」
「ん〜? 何種類かあるみたいだから、オモチさんの携帯機に何が入ったかは、私もわからないよ。でも、感覚と違う気がするなら、メールで問い合わせしてみたら? たぶん教えてくれないけど、ミッション完了した後に、お知らせメールが来ると思うよ」
「へぇ、じゃあ、問い合わせをしてみます」
私が携帯機を出してメールで問い合わせを打つのを、覗き見してたサリィさんは、突然、立ち上がった。
「じゃあ、私、ちょっと準備してくるね」
「えっ? 準備?」
サリィさんは、そのまま、厨房の方へと消えてしまった。何か、用意してくれてるのかな?
メールの返信は、すぐに届いた。サリィさんが話していたように、ミッションが完了したら、お知らせすると書かれていた。ずっとモヤモヤするのも嫌だもんね。
「オモチ、サリィさんは、今夜はオモチの送別会のつもりみたいだよ。話したくなったらアース星に遊びに行く、とも仰っていたけどね」
「えっ? 私の送別会?」
私はシエルさんに聞き返したけど、オルフルさんが頷いた。
「オモチさんは、明日の夜にミッションを終え、明後日には帰られるかもしれないので、サリィさんは今夜を送別会に選んだようです」
「あ、明後日って、そっか。滞在時間は、5日しか残ってないですし、少し早めに帰ることも可能でしたね」
「そういうことです。サリィさんは、多くのフレンドと交流されていますが、オモチさんには特別、親しみを感じておられるようですね。滅多に演奏されることはないのですが」
「演奏? あっ!」
店の照明が、少しずつ暗くなっていたから気付かなかった。店の真ん中にある小さなステージに、セーラー服っぽい姿のサリィさんが立っていた。
他のお客さんは、すぐに気づいたみたい。みんな、静かになっていく。
「サリィさんが、音楽隊の制服を着ているのは、不思議な光景です。いつもなら、逆なんですよ。いたずら心が抑えられないようですね」
いたずら心? やっぱりコスプレ?
『皆さん、こんばんは。今夜は、私のフレンドさんが、もうすぐミッションを終了するお祝いとして、加護を与えようと思いついたのー。皆さんも聴いてね〜』
念話だ。レストランが、シーンと静まり返っている。加護を与える?
サリィさんは、タクト棒のような物を持ち、空中に何かを書くような仕草をした。
わっ! 棒の先から出た光が、次々と形を変えて、レストランのあちこちに散らばっていく。大きな楽器を持った精霊?
ゆったりとした曲が、順に奏でられる。最初は、フルートのような音だったのに、だんだんと楽器の数が増え、まるでオーケストラみたい。
知らない曲だけど、心が洗われるように心地よい。他のお客さん達も、うっとりとした表情で聴き惚れているみたい。
魔法の音楽隊ってことなのかな?
やがて、曲が終わると、レストランにいた人達は、不思議なポーズをしている。両手を胸の前で組んで、ぐるっとひっくり返した状態を維持してる。
『オモチさん、嫌な目に遭わせちゃって、ごめんね。だけど、私は、オモチさんとフレンドになって楽しかったよ。貴女がどういう選択をしても、私は応援するね』
私は、コクリと頷いた。私も、サリィさんの明るさには、本当に助けてもらった。何だか、泣きそう。
念話は、皆にも聞こえたみたい。パラパラと拍手が起こった。イービー星の人以外のお客さんかな。サリィ王女の挨拶への拍手は、不敬なのかも。
「あー、緊張した〜。上手くできなかったよー。久しぶりだったもん」
席に戻ってきたサリィさんは、珍しく言い訳してる。
「サリィさん、素敵な演奏でした。知らない曲だけど、聴き惚れてしまいましたよ」
「そう? それならいいんだけどねー。あっ、明日は、夜10時過ぎに、シエルさんのレストランに集合ね。それまでは、自由に過ごして」
「はい、わかりました」
「今夜は、もう遅いから、解散にしよっか。シエルさん、オモチさんを送り届けてあげて」
サリィさんが不思議な演奏を聴かせるためだけに、シエルさんに連れてくるようにと言っていたみたい。
シエルさんは、静かに席を立つと、私が立ち上がるのを待って、私を店の外へと連れ出した。
「オモチ、明日は、遠慮しなくていいから、やりたいことをやればいいからね」
「はい、ありがとうございます。ちょっと一人で、振り返ってみたいと思います」
「うん、それもいいね。じゃあ、送るね」
転移魔法の発着場所に使われている部屋で、シエルさんは、私の手を握った。顔が近づいてきたけど、何もなかった。キスしようとして、やめたの?
シエルさんの表情が、一瞬、悲しそうに見えて、何か言わなきゃと思ったときには、もう転移魔法の光に包まれていた。
◇◇◇
宿屋ノームの部屋に入ったときには、もう日付けが変わっていた。達成済みミッションの表示が減ると、また、強い寂しさを感じる。
もう、こんな生活は終わる。
解放されて嬉しいはずなのに、なぜこんなに、辛いとさえ感じるんだろう。
わからない。
ううん、違う。私は、わかってる。




