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104/122

104、送別会のつもりで

 いつものようにハイテンションなサリィさんの話を聞きながら、私達は夜食を食べた。


 にぎり寿司が生臭かったのは、凍ったままカットしたマグロをしゃりに乗せた後に、魔法で解凍したせいだったみたい。こんなものまで取り扱っているなんて、このレストランには驚きしかない。


 口直しにと、レストランからケーキと紅茶のサービスがあった。サリィ王女の席だからかな。



「オモチさん、測定アプリはどうなってるの?」


 紅茶を飲んでいると、サリィさんは自然な流れで、聞いてきた。ちょうどいいかな。


「さっき見た時には、私の感覚と大きくズレている気がして、何を測ってるのか不思議です」


「ん〜? 何種類かあるみたいだから、オモチさんの携帯機に何が入ったかは、私もわからないよ。でも、感覚と違う気がするなら、メールで問い合わせしてみたら? たぶん教えてくれないけど、ミッション完了した後に、お知らせメールが来ると思うよ」


「へぇ、じゃあ、問い合わせをしてみます」



 私が携帯機を出してメールで問い合わせを打つのを、覗き見してたサリィさんは、突然、立ち上がった。


「じゃあ、私、ちょっと準備してくるね」


「えっ? 準備?」


 サリィさんは、そのまま、厨房の方へと消えてしまった。何か、用意してくれてるのかな?


 メールの返信は、すぐに届いた。サリィさんが話していたように、ミッションが完了したら、お知らせすると書かれていた。ずっとモヤモヤするのも嫌だもんね。




「オモチ、サリィさんは、今夜はオモチの送別会のつもりみたいだよ。話したくなったらアース星に遊びに行く、とも仰っていたけどね」


「えっ? 私の送別会?」


 私はシエルさんに聞き返したけど、オルフルさんが頷いた。


「オモチさんは、明日の夜にミッションを終え、明後日には帰られるかもしれないので、サリィさんは今夜を送別会に選んだようです」


「あ、明後日って、そっか。滞在時間は、5日しか残ってないですし、少し早めに帰ることも可能でしたね」


「そういうことです。サリィさんは、多くのフレンドと交流されていますが、オモチさんには特別、親しみを感じておられるようですね。滅多に演奏されることはないのですが」


「演奏? あっ!」



 店の照明が、少しずつ暗くなっていたから気付かなかった。店の真ん中にある小さなステージに、セーラー服っぽい姿のサリィさんが立っていた。


 他のお客さんは、すぐに気づいたみたい。みんな、静かになっていく。


「サリィさんが、音楽隊の制服を着ているのは、不思議な光景です。いつもなら、逆なんですよ。いたずら心が抑えられないようですね」


 いたずら心? やっぱりコスプレ?




『皆さん、こんばんは。今夜は、私のフレンドさんが、もうすぐミッションを終了するお祝いとして、加護を与えようと思いついたのー。皆さんも聴いてね〜』


 念話だ。レストランが、シーンと静まり返っている。加護を与える?



 サリィさんは、タクト棒のような物を持ち、空中に何かを書くような仕草をした。


 わっ! 棒の先から出た光が、次々と形を変えて、レストランのあちこちに散らばっていく。大きな楽器を持った精霊? 


 ゆったりとした曲が、順にかなでられる。最初は、フルートのような音だったのに、だんだんと楽器の数が増え、まるでオーケストラみたい。


 知らない曲だけど、心が洗われるように心地よい。他のお客さん達も、うっとりとした表情で聴き惚れているみたい。


 魔法の音楽隊ってことなのかな?


 やがて、曲が終わると、レストランにいた人達は、不思議なポーズをしている。両手を胸の前で組んで、ぐるっとひっくり返した状態を維持してる。



『オモチさん、嫌な目に遭わせちゃって、ごめんね。だけど、私は、オモチさんとフレンドになって楽しかったよ。貴女がどういう選択をしても、私は応援するね』


 私は、コクリと頷いた。私も、サリィさんの明るさには、本当に助けてもらった。何だか、泣きそう。


 念話は、皆にも聞こえたみたい。パラパラと拍手が起こった。イービー星の人以外のお客さんかな。サリィ王女の挨拶への拍手は、不敬なのかも。




「あー、緊張した〜。上手くできなかったよー。久しぶりだったもん」


 席に戻ってきたサリィさんは、珍しく言い訳してる。


「サリィさん、素敵な演奏でした。知らない曲だけど、聴き惚れてしまいましたよ」


「そう? それならいいんだけどねー。あっ、明日は、夜10時過ぎに、シエルさんのレストランに集合ね。それまでは、自由に過ごして」


「はい、わかりました」


「今夜は、もう遅いから、解散にしよっか。シエルさん、オモチさんを送り届けてあげて」


 サリィさんが不思議な演奏を聴かせるためだけに、シエルさんに連れてくるようにと言っていたみたい。


 シエルさんは、静かに席を立つと、私が立ち上がるのを待って、私を店の外へと連れ出した。



「オモチ、明日は、遠慮しなくていいから、やりたいことをやればいいからね」


「はい、ありがとうございます。ちょっと一人で、振り返ってみたいと思います」


「うん、それもいいね。じゃあ、送るね」


 転移魔法の発着場所に使われている部屋で、シエルさんは、私の手を握った。顔が近づいてきたけど、何もなかった。キスしようとして、やめたの?


 シエルさんの表情が、一瞬、悲しそうに見えて、何か言わなきゃと思ったときには、もう転移魔法の光に包まれていた。




 ◇◇◇



 宿屋ノームの部屋に入ったときには、もう日付けが変わっていた。達成済みミッションの表示が減ると、また、強い寂しさを感じる。


 もう、こんな生活は終わる。


 解放されて嬉しいはずなのに、なぜこんなに、辛いとさえ感じるんだろう。


 わからない。


 ううん、違う。私は、わかってる。



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