103、測定と感覚のズレ
「オモチ、楽しかったぜ」
コンセプトカフェを出て、少し歩くと、ウィルは寂しそうな顔をして、そんなことを言った。まるで、もう会えないと思っているみたい。
「勝手にコラボして、また叱られるよー。私は、ハラハラしたよ」
「ふっ、そうか。まぁ、オモチのおかげで、新しい遊びを見つけられたのは、感謝してるよ」
やっぱり、もう会えないって思ってるよね。測定アプリは、明日の夜まで計測が続くのに。もしかしたら、再測定になる可能性だってあるのに。
だけど、ウィルは忙しいもんね。
「あっ、オモチのミッション、いや測定アプリはどうなってる? 再測定の可能性を排除しないといけないって、シエルさんから連絡来たよ」
大きな街灯の下で、ウィルは立ち止まった。広いスペースがあるけど人は多くはない。地面から魔力を感じる。何だろう? ウィルは、ここで私を、シエルさんに引き渡すことになってるのかな。
「見てみるね」
携帯機を操作して、デイリーミッションを表示する。私の残り滞在時間は、5日か。
【ミッション30】未達成
恋をした人に告白しよう!(注あり)
(残り5日3時間45分)
【ミッション25】コンセプトカフェに行こう!
【ミッション26】看板通りに行こう!
【ミッション27】花壇のある公園に行こう!
【ミッション28】ビンゴを1枚クリアしよう!
【ミッション29】恋人だった人に挨拶に行こう!
測定アプリを開くと……。
【測定対象】
● セルシード:35%
● シエル : 20%
● ウィル : 60%
(指標の目安)
10〜20%: 友達
20〜35%: 好意
35〜50%: 恋愛対象
嘘! どうして、セルさんの数値が下がってるの? 私は、セルさんに片想いをしているって気づいたのに。逆に、悪ふざけをしていたウィルは、上がってる。
「オモチ、どうなってる? 再測定になると期限ギリギリだと聞いたけど、大丈夫そうか?」
あっ、そっか。測定アプリの数値は、他の人が見ても、文字化けするんだっけ。
「ウィルだけが50%を超えてるよ。どうして、セルさんが下がったんだろ? シエルさんは変わらない」
「俺が一番人気なのか?」
さっきまで寂しそうな顔をしていたのに、今のウィルは少し嬉しそうに見える。
「うん、朝には、また大きく動くのかもしれないけど、よくわかんないね」
「そうか、俺が一番人気か。ふふん」
少しじゃなくて、すっごく嬉しそう。
「オモチ、一番高い数値は80%を超えてる?」
わっ、びっくりした。突然、シエルさんが転移してきたみたい。地面が淡く輝いている。ここは、屋外の転移屋なのかも。
「ウィルが、60%ですよ」
「じゃあ、まだわからないね。80%を超えないと、50%以下に下がる可能性もあるらしいよ。僕は?」
「シエルさんは、あれから変わってないです」
そう答えると、シエルさんは軽く頷いた。想定通りだったのかな。
「測定アプリの数値が確定するのは、明日夜10時過ぎだよね? 再測定の可能性も考慮して、明日夜、ウィルも、僕が働いているファン会館に来てくれる? サリィさんが仕切ると仰っていた」
「わかった。明日は、オモチの呼び出しに対応できるように、ジュエンのコンセプトカフェ巡りだけにしてあるよ」
ウィルとシエルさんが、目の前でしゃべっている光景は、私の目には不思議に映った。本来なら、こんな風に対等に話せる地位じゃない、と考えてしまう。
この人工星って、すごいな。神扱いされるイービー星の人と、神に見捨てられて崩壊したメイロ星の難民が、同じ空間で対等に話せるなんて。
「じゃあ、俺は行くよ」
ウィルは、軽く手をあげると、スッと転移魔法の光に包まれた。
「僕達も、移動しようか」
シエルさんが私と手を繋ぐと、私達も転移魔法の光に包まれた。
◇◆◇◆◇
「こんばんは。身分証をお願いします」
何もない広い部屋に着くと、後ろから、魔導士風の人に声をかけられた。シエルさんは、手のひらから光を出している。
「サリィ王女と待ち合わせしてるんだよ」
「シエル様とサリィ王女のフレンド様ですね。サリィ王女は、こちらにおられます」
魔導士風の人に、シエルさんは何かを見せられていた。座席表かな?
「わかったよ。ありがとう。オモチ、行くよ」
「は、はい」
シエルさんは、少しぎこちないけど、エスコートしてくれる。やっぱり真面目で優しい人だな。
「あっ! オモチさん、こっちだよー。ちょうど注文した料理が揃ったよ。私って、天才かも〜」
サリィさんは、セーラー服っぽい物を着ている。何かのコスプレだろうか。
「サリィさん、こんばんは。わっ! 和食が並んでる」
サリィさんの隣には、オルフルさんもいた。サリィさんのお世話係なのかな。いつも一緒だよね。
「でしょ〜。ただ、ちょっとコレは、おかしいと思うの。生魚が、ご飯に乗ってるだけで、不気味でしょう? さっきオルフルさんが毒見して、悶絶してたよ」
えっ? 毒見して悶絶?
「にぎり寿司ですよね。醤油をつけないで食べた……あー、悶絶って、わさびかな?」
「腐った草をすり潰したものが、生魚の下に入っていた。生臭いから文句を言うべきかと、話していたのです」
「オモチさんも食べてみて。あっ、私達、ちゃんと毒消しの魔法は使えるから、安心してね」
サリィさんは、興味津々だな。まぁ、こういう人だけど。
「では、いただいてみますね」
私は、醤油を少しつけて、パクリと食べてみた。クリスタルショップの食堂で食べた物と、同じかも。冷凍マグロの解凍を失敗したのか、赤い汁がシャリに染み込んでいる。少し生臭いな。
「冷凍マグロを解凍したときに、汁が出てしまったみたいですね。醤油を多めにつければ、大丈夫です。緑色の物は、わさびというツーンとする植物ですよ」




