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102/122

102、勝手にコラボ

 食事が終わり、食後の紅茶が運ばれてきた。


 ウィルがいるせいか、お客さんはほとんど帰らない。割り込みをしなければ、きっとまだ店の外で並んでいたよね。


 なぜか、ウィルは時間を気にしているみたい。シエルさんに、私を引き渡す時間を決めているのかも。ん?



 店内に、音楽が流れ始めた。聞いたことあるような……何だっけ? ウィルが、ニヤッと悪ガキのような笑みを浮かべてる。


 もしかして……。



 曲が終わる頃、店の扉が開く音がした。


 キャーッ!!


 そして次の曲は、『青に染まるキミの春』のオープニング曲。間違いない。攻略対象が、誰か来る!




「こんばんは。シャールだ。俺達のコンセプトカフェに来てくれて、ありがとう!」


 キャーッ!!


 すごい歓声。さっきまでウィルの話を盗み聞きしていた人達は、まるで別人のように大騒ぎだった。まぁ、ここは、『青に染まるキミの春』のコンセプトカフェだもんね。


 シャールくんは、学園の制服を着ているけど、ちょっと疲れているように見えた。前に見かけたときより、夜だからか、さらに酷いかも。



「シャールさんが順にお席を回ります。皆さん、立たないでください」


 ちょっとちょっと、ちょーっと! なぜ、ウィルがそんなにニヤニヤしてるのよ? 変なこと考えてないよね?



 シャールくんは、順に席を回っている。大変だよね、この仕事。ウィルも、ほぼ毎日やってるみたいだけど。


 私達の席に、だんだん近づいてくる。


 ウィルは、ニヤニヤしながら、携帯機を見るフリをしてうつむいていた。本当に見てるかもしれないけど。



 来た〜!


「こんばんは。今夜はありがとう。ゆっくりしていってくれよな」


「きゃー! シャールくん」


 あっ、ユキコさんは、シャール推し? 満面の笑みで手を振ってる。私も一応、手を振ってみる。すると、シャールくんは、作り笑顔で、順に握手してくれるみたい。


 ユキコさんの次に、私の手を握ろうとしたとき、シャールくんの手を、ウィルがパーンと払った。そして、被っていたパーカーのフードを外して、立ち上がったよ。


 シャールくんは、ウィルに今、初めて気づいたみたい。完全に固まってる。



「おまえなー、俺の女の手を握ろうとしてんじゃねぇぞ!」


 ちょ、何を言ってんの! あれ? 何か合図してるし、妙に声量があって、それに聞いたことあるようなセリフ。



「ウィル、何を言ってんの」


「うるせぇ、おまえは黙ってろ」


「立ち上がって、何をする気? 座りなよ」


「新旧対決だって、言っただろ」


 はい? 私が小声で注意しても、悪ガキは止められない。シャールくんを睨んで、腕を組んでるよ。



「キミは何? 失礼な人だね」


 シャールくんも声を張ってる。それに、さっきまでとは違って、ちょっと楽しそう。


「は? 誰に向かって言っている?」


「失礼なキミに話しかけてるよ。そんなことも理解できないの? 頭、大丈夫?」


 うわぁ! セリフだよ! ほとんど乙女ゲームのシナリオ通りのセリフだ!


 シャールくんは、『青に染まるキミの春』のシャールのセリフを喋ってるし、ウィルは、『月の世界の王子様』のウィル王子のセリフだよー!


 気づいたのは、私だけじゃない。コンセプトカフェにいるお客さんは、ほぼ全員が気づいてる。



「俺の女に触るなって言っている。俺様の女だ」


「キミは何を言っているんだ? 彼女も迷惑しているじゃないか。ふざけるのは、そのパーカーだけにしとけよ」


 パーカー! ここのセリフって、確か、顔が正解だよね。変化球キター!


「これは俺の私服だ。文句あるなら外に出ろ!」


 ウィルも、ちゃんと会話が噛み合うようにアレンジしてる。しかも、髪をかきあげて、ポーズをキメるウィル。3次元なのに、完全にウィル王子に見えるよー。


「何だと……ぷぷ……ぷははは。めちゃくちゃウィル王子じゃないっすかー。ダメだ、ツボに入った。あははは」


 ありゃ、シャールくんが笑っちゃった。そんなシャールくんを見て、ウィルはドヤ顔してる。



「おまえの負けだよ。新旧対決は、俺の勝ちだな」


「何なんすか、それ。ってか、俺達のコンセプトカフェで、勝手にコラボしないでもらえますかー」


「悔しかったら、ルナシティに来いよ。きっと、俺が勝つけどな」


「その自信は、どこから来るんすか。攻略対象としては、俺の方が先輩なんだけど」


「ふふん、俺は、ここに来る前から役者なんだよ。今も演劇の舞台に出ている。ただの攻略対象に負けるかよ。さっさと次のテーブルに行けよ」


 ウィルは、思いっきり俺様全開だな。



「オモチ、勝ったから帰るぞ」


 ウィルは、店員さんに何かメモのような紙を渡した。内緒話?


「えっ? 私、まだ、シャールくんと握手してないよ」


「は? 話を聞いてなかったのかよ。おま……触るなって」


 次の席に行きかけていたシャールくんは、戻ってきて、握手してくれた。作り笑顔じゃなくて、本当の笑顔ね。


「だって、私、『青に染まるキミの春』だとシャールくん推しだもん」


「はぁ? ウィル推しは、どーした?」


「それは、『月の世界の王子様』じゃない。もうっ、勝手にコラボしちゃって〜。また叱られるよ?」


「面白い方がいいだろーが。帰るぞ。あっ、ピルス、ユキコさん、またな」


 ウィルは、スタスタとお会計に行ってしまった。



「ユキコさん、ピルスさん、楽しかったです。ありがとう」


「オモチさん、こちらこそ……」


『えーっと、皆様、今、この時間までのお会計は、すべてウィル王子がお支払いくださいました。騒がせたお詫びだそうです』


 店長らしき人が、急にアナウンスをした。


「ちょ、言うなよ。オモチがさっさと来ないから、バラされたじゃねぇか」


 ウィルが、全員分を払ったの?


 私が慌てて席を立つと、シャールくんに会釈された。疲れが吹き飛んだみたいな明るい表情だった。




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