102、勝手にコラボ
食事が終わり、食後の紅茶が運ばれてきた。
ウィルがいるせいか、お客さんはほとんど帰らない。割り込みをしなければ、きっとまだ店の外で並んでいたよね。
なぜか、ウィルは時間を気にしているみたい。シエルさんに、私を引き渡す時間を決めているのかも。ん?
店内に、音楽が流れ始めた。聞いたことあるような……何だっけ? ウィルが、ニヤッと悪ガキのような笑みを浮かべてる。
もしかして……。
曲が終わる頃、店の扉が開く音がした。
キャーッ!!
そして次の曲は、『青に染まるキミの春』のオープニング曲。間違いない。攻略対象が、誰か来る!
「こんばんは。シャールだ。俺達のコンセプトカフェに来てくれて、ありがとう!」
キャーッ!!
すごい歓声。さっきまでウィルの話を盗み聞きしていた人達は、まるで別人のように大騒ぎだった。まぁ、ここは、『青に染まるキミの春』のコンセプトカフェだもんね。
シャールくんは、学園の制服を着ているけど、ちょっと疲れているように見えた。前に見かけたときより、夜だからか、さらに酷いかも。
「シャールさんが順にお席を回ります。皆さん、立たないでください」
ちょっとちょっと、ちょーっと! なぜ、ウィルがそんなにニヤニヤしてるのよ? 変なこと考えてないよね?
シャールくんは、順に席を回っている。大変だよね、この仕事。ウィルも、ほぼ毎日やってるみたいだけど。
私達の席に、だんだん近づいてくる。
ウィルは、ニヤニヤしながら、携帯機を見るフリをしてうつむいていた。本当に見てるかもしれないけど。
来た〜!
「こんばんは。今夜はありがとう。ゆっくりしていってくれよな」
「きゃー! シャールくん」
あっ、ユキコさんは、シャール推し? 満面の笑みで手を振ってる。私も一応、手を振ってみる。すると、シャールくんは、作り笑顔で、順に握手してくれるみたい。
ユキコさんの次に、私の手を握ろうとしたとき、シャールくんの手を、ウィルがパーンと払った。そして、被っていたパーカーのフードを外して、立ち上がったよ。
シャールくんは、ウィルに今、初めて気づいたみたい。完全に固まってる。
「おまえなー、俺の女の手を握ろうとしてんじゃねぇぞ!」
ちょ、何を言ってんの! あれ? 何か合図してるし、妙に声量があって、それに聞いたことあるようなセリフ。
「ウィル、何を言ってんの」
「うるせぇ、おまえは黙ってろ」
「立ち上がって、何をする気? 座りなよ」
「新旧対決だって、言っただろ」
はい? 私が小声で注意しても、悪ガキは止められない。シャールくんを睨んで、腕を組んでるよ。
「キミは何? 失礼な人だね」
シャールくんも声を張ってる。それに、さっきまでとは違って、ちょっと楽しそう。
「は? 誰に向かって言っている?」
「失礼なキミに話しかけてるよ。そんなことも理解できないの? 頭、大丈夫?」
うわぁ! セリフだよ! ほとんど乙女ゲームのシナリオ通りのセリフだ!
シャールくんは、『青に染まるキミの春』のシャールのセリフを喋ってるし、ウィルは、『月の世界の王子様』のウィル王子のセリフだよー!
気づいたのは、私だけじゃない。コンセプトカフェにいるお客さんは、ほぼ全員が気づいてる。
「俺の女に触るなって言っている。俺様の女だ」
「キミは何を言っているんだ? 彼女も迷惑しているじゃないか。ふざけるのは、そのパーカーだけにしとけよ」
パーカー! ここのセリフって、確か、顔が正解だよね。変化球キター!
「これは俺の私服だ。文句あるなら外に出ろ!」
ウィルも、ちゃんと会話が噛み合うようにアレンジしてる。しかも、髪をかきあげて、ポーズをキメるウィル。3次元なのに、完全にウィル王子に見えるよー。
「何だと……ぷぷ……ぷははは。めちゃくちゃウィル王子じゃないっすかー。ダメだ、ツボに入った。あははは」
ありゃ、シャールくんが笑っちゃった。そんなシャールくんを見て、ウィルはドヤ顔してる。
「おまえの負けだよ。新旧対決は、俺の勝ちだな」
「何なんすか、それ。ってか、俺達のコンセプトカフェで、勝手にコラボしないでもらえますかー」
「悔しかったら、ルナシティに来いよ。きっと、俺が勝つけどな」
「その自信は、どこから来るんすか。攻略対象としては、俺の方が先輩なんだけど」
「ふふん、俺は、ここに来る前から役者なんだよ。今も演劇の舞台に出ている。ただの攻略対象に負けるかよ。さっさと次のテーブルに行けよ」
ウィルは、思いっきり俺様全開だな。
「オモチ、勝ったから帰るぞ」
ウィルは、店員さんに何かメモのような紙を渡した。内緒話?
「えっ? 私、まだ、シャールくんと握手してないよ」
「は? 話を聞いてなかったのかよ。おま……触るなって」
次の席に行きかけていたシャールくんは、戻ってきて、握手してくれた。作り笑顔じゃなくて、本当の笑顔ね。
「だって、私、『青に染まるキミの春』だとシャールくん推しだもん」
「はぁ? ウィル推しは、どーした?」
「それは、『月の世界の王子様』じゃない。もうっ、勝手にコラボしちゃって〜。また叱られるよ?」
「面白い方がいいだろーが。帰るぞ。あっ、ピルス、ユキコさん、またな」
ウィルは、スタスタとお会計に行ってしまった。
「ユキコさん、ピルスさん、楽しかったです。ありがとう」
「オモチさん、こちらこそ……」
『えーっと、皆様、今、この時間までのお会計は、すべてウィル王子がお支払いくださいました。騒がせたお詫びだそうです』
店長らしき人が、急にアナウンスをした。
「ちょ、言うなよ。オモチがさっさと来ないから、バラされたじゃねぇか」
ウィルが、全員分を払ったの?
私が慌てて席を立つと、シャールくんに会釈された。疲れが吹き飛んだみたいな明るい表情だった。




