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101/122

101、コールドパン仲間に伝えたいこと

「ピルス達は、何を食べるか決めてた?」


 順番がきて、4人席に案内されると、ウィルはサングラスを外した。そして昔からの友達のように、知り合ったばかりの彼に話しかけてる。


「いや、俺達はまだ……」


「じゃあ、同じのにしない? ユキコさんも一緒でいいかな? その方が調理の人も楽だと思うし」


 彼女さんは、真っ赤な顔のまま、コクコクと頷いている。調理の人が楽という謎理論で、ウィルは自分の考えを押し通すのね。あっ、これはウィル王子のセリフだ。


 ウィルは、店員さんに、さっさと注文してしまった。夜定食は、ちょっと高い。高いメニューを奢ることで、強引な相席の、罪滅ぼしのつもりかも。いや、ウィル王子のプライドかな?



「ルナシティのファン会館のゲーム屋って……」


 私は、その存在を知らないから、ユキコさんに尋ねた。だけど、彼女は彼の顔を見てる。


「あはは、ですよねー。少し前に彼女は出産したんですよ。そのときに、もらった権利証で、まだ攻略してないルートをやると言い始めて、ほぼ毎日通ってます」


 何が、ですよねー、なのか全くわからない。


「あぁ、生まれた子を研究室に渡したんだね。それで、ゲーム屋の利用権利証か。アース星から来た人を、研究室は放っておかないからな」


 ウィルは、一応、私に説明してくれたのかな? 子供を渡して、ゲーム屋の利用権利証をもらったってこと? あまりにも釣り合ってないよね?



「そうみたいですね。子供を売ることには抵抗があったんですけど、研究室には逆らえないです。俺は、難民だったし……」


 子供を売った? あ、お金も、もらったのか。


「ん? 俺も難民だよ。メイロ星から来たんだ。知らなかった?」


 ウィルは、さらりと答えている。ピルスさんは、少し驚いた顔をしていた。まぁ、知らなくて当たり前かも。


「俺は、モーグスト星です」


「へぇ、じゃあ、地の精霊ノーム信仰かな? オモチも、財布は精霊ノームの加護付きを使ってるよ」


 ウィルがそう返すと、ピルスさんはホッとしたような笑みを見せた。



「ウィルさんも難民だったなんて、驚きです。すごく魔力が高いのに」


 あれ? 主人公をしてたはずのユキコさんも知らなかったの? そうか。彼女が住む街では、『月の世界の王子様』に関する悪い噂は、広まってないのかも。


「まぁ、メイロ星は、基本的に野蛮な戦闘民族だからね。戦乱のせいで、星が半壊して住めなくなったし。モーグスト星の人は、おとなしいから、信じられないだろうけどね」


「俺達は、アバターがあっても、魔法は上手く使えないですし、人というより魔物に近い種族ですからね」


 私は、コールドパンの難民特区のことを思い出していた。この人工星に来て、彼は、必死に勉強したんだろうな。もちろん、ウィルもだけど。




 料理が運ばれてきた。


「わぁっ! すごい綺麗!」


 私よりも、ユキコさんが目を輝かせていた。


「うん、綺麗ですね」


 私は慌ててフォークを持ち、ユキコさんに合わせて、食べ始めた。ピルスさんの視線に、少し違和感を感じる。なんだか少し自虐的な……。



「ピルス、俺達も食べようぜ。コールドパン仲間だろ。そんな顔をするなよ」


「えっ? あ、はは、変な顔をしてましたか」


「主人公としてこの人工星に来た人を捕まえないと、難民は生活できない。それが、コールドパンの街の常識だろ?」


 ウィルの言葉に、ピルスさんの表情は深く沈んでいく。同じ難民のウィルは、ピルスさんの目には、成功者に見えるんだろうな。苛立ちに似た感情が渦巻いているような気がする。


 もしかして、店の前で彼を見たときに、ウィルは、彼が難民だと気づいたのかな。あっ、難民の印か。コールドパンで門番がそんな話をしてた。私には見えないけど、難民同士ならわかるのかな? でも、彼はウィルの印には気づかなかったみたいだけど。



 ピルスさんの表情は、ユキコさんの楽しそうな顔をチラチラ見ながら、どんどん酷くなっていく。


 でも、ウィルは気づかないの? あっ、今のウィルは、ウィル王子スイッチが入ってるからな。




「ピルスさんは、街で普通に暮らしているんですよね?」


 私は、ピルスさんの気持ちを変えるために、話し始める。


「はい。俺は、農業をやっています」


「ユキコさんと一緒にですか?」


「あー、まぁ、今は彼女は、ファン会館通いをしてますけどね。収穫の忙しい時期は、手伝ってくれます」


「へぇ、いいですね。ウィルは、いつも忙しいし、ファンの目があるから、自由に街歩きもできないんですよ」


 私がそう話すと、3人が同時に私の顔を見た。えーっと、不満をぶちまけた形になってしまったか。



「そうだな。俺のせいで、オモチは刺されて死にかけたもんな」


「えっ? あれは……」


 ウィルが私の話に合わせているのか、もしくは自分のせいだと思い詰めているのかわからないけど、変に否定もできない。


 周りが聞き耳を立てているもんね。



「噂は本当だったのですね。どのゲームも、人気のある攻略対象には過激なファンがいて、恋人が殺される事件も少なくないって」


 ユキコさんは、すごく心配してくれているみたい。私は、ウィルとはそんな関係じゃないのにな。だけど、ここでそれは言えない。


「配信直後に、俺の恋人は殺されたよ。その後も何人か殺された。正直なところ、攻略対象に選ばれたことで、得たものよりも、失ったものの方が多いかな」


 あっ! ウィルは、これを言いたかったんだ。主人公だった彼女のお金がないと生活できない難民は、きっと、他人を羨ましがることで、堕ちていくから。


「そう、でしたか」


 ユキコさんは、ズーンと沈んでいく。二人は似ているのかもしれない。



 そして、話を聞いていた周りの人達も、シーンと静まり返っていた。



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