1-3デルフトの魔術師見習い
小鳥の絵の前で、気がつけば、カレルと話し込んでいた。
絵の技法について色々質問した。カレルは丁寧に応えてくれた。
「カレスさん、頼まれていた絵具を……」
扉から入ってきた青年は言葉を途中で止めた。
「……美しい」
「は?」
ラデリアの声が出るのと同じタイミングで、間合いを詰めてきた。
顔立ちの整った青年、目つきがやけに鋭く、瞬きもせずラデリアを見つめている。
「月の様な神秘的な顔立ちに異国情緒溢れる黒い髪、まるで月の無い夜の様。白い肌は透き通りデルフトの陶器、瞳は神秘的で万人を惹きつける宝石だ!」
「カレルさん、誰ですか?」
「ヨハネス、僕の元弟子だ。絵のこととなると周りが見えなくなる変人だよ」
「変人じゃない。最高の作品のためこだわってる!!」
ヨハネスは力強く拳を握りしめながら、言った。
「なんて美しいんだ、貴女を描きたいっ!!」
「ダメです…」
ラデリアは、絵を観るのが好きだが、絵に描かれることに興味は無い。
「どうしてもダメか?」
「ダメ」
「光をまとうオーラがある。君は素晴らしいよ…後悔はさせない」
「ダメ」
何度か押し問答を繰り返したところで、カレルが口を開いた。
「コホン、ラデリアさん、気にしないで。こいつは絵のことになるとこうなんだ」
カレルは軽く咳払いをして、二人の間に割って入った。
「どうしてもか?貴女を描かないと一生後悔する気がする」
ヨハネスは、真っ直ぐな目でラデリアを見てきた。
「じゃあこうしましょう。今はこの国も含めて数か国を気ままに旅をしています。もし、次出会うことがあるのなら……その時は、運命だったと、描くことを一考します」
数百年の時を生きるラデリアに比べれば遥かに若いヨハネス、運命が交差すれば出会うこともあるとラデリアは思った。
「ほ、本当か!?」
「“考える”だけです。約束ではありません」
「それまでにもっと良い絵を、光を捕らえられるように、腕を磨いておく!それで十分だ!絶対にまた会える気がする」
感極まったように息を吐いた。
カレルは苦笑しながら肩をすくめる。
「ヨハネス、今日の仕事は?」
「もう終わりました」
「じゃあ、ラデリアさんにこの街を案内してあげたらどうだ?絵は描けなくても、一緒に居たら何か絵を描くに繋がることもあるかも」
「名案!」
「直ったよ。フードのお嬢ちゃん」
そうこうしていると、隣の工房の革職人が、破れていた革財布を直してもって来てくれた。
「助かりました」
「いいってことよ」
ラデリアはお代として何枚か銀貨を渡して、革袋を受け取った。
破れていたところは錨と革紐を使って上手く直されていた。
「じゃあ、行ってらしゃい」
ラデリアとヨハネスの二人は街へと出て行った。




