1-2デルフトの小鳥
第1話で初めて感想をもらいました。
ありがとうございます。こんな駆け出しの私にもコメントが頂けたこと、モチベーションにつながるので嬉しいです。
のどかな街並みを気に入り、ラデリアはデルフトに数日滞在することにした。
街並みは一番高い教会がランドマークであり、白い塔は街のどこからでも見ることができた。
石畳で舗装されており、街中を縫うように運河が張り巡らされている。
輸送はもっぱら船や馬車であって、運河沿いには倉庫が並んでいた。
魚市場、画家たちのアトリエ、そして小さな酒場が目に入る。
通りを歩くと焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐる。
活気のある街、そういう印象をラデリアは持った。
「お腹空いた。あぁ美味しそう・・おっと、よだれが」
「危ないっ!」
お腹も空いてきて、ぼーっとお店を見ていたところ突然青年の声が聞こえた。
馬車が猛スピードで目の前を通り過ぎる。
手が滑って、持っていた小袋を落としてしまった。
それを後続の馬車が踏んでしまって、中の銀貨がまき散らされる。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?怪我はない?」
線の細い男だった。髪の毛はくせ毛で、身なりの良さがわかる小綺麗な茶色のローブを着ていた。
男は手を挙げて、向かってきた馬車を止めると、道に散らばっている銀貨を集めてくれた。
「あ、大丈夫です。あらら、やっちゃいましたね」
ラデリアもしゃがんで銀貨を集める。
「あぁ・・」
目の前には無残な姿になってしまった革財布が落ちていた。
「お嬢ちゃん、その財布じゃ・・・もう役に立たないな」
男は、口紐が千切れ、底の縫い目は完全に裂けている袋を手でつまみ上げた。
「うう~長いこと使ってたのに・・・」
男は集め終えた銀貨を手のひらに乗せて差し出した。
「ほら、全部ある。……たぶん」
数は揃っているのを確認した。
「この破れ方は、直るかもしれないな。ここの近くにうちのアトリエがある。その隣が革職人の工房だ。付いてくるか?」
「お、お願いします」
「じゃあ、行こう名前は?」
「ラデリアです」
「僕は、カレルだ。よろしく」
ラデリアは、カレルの後ろを付いて行った。
メインの通りから小道に入り、石畳を進むにつれ、馬車の音が遠ざかり、代わりに鍛冶場の金属音が聞こえてきた。
「到着、ここが僕たちの工房、隣が革工房だ」
周囲には、絵の具の油と革の特徴的な香りが漂っている。
カレルのアトリエを窓から中を覗くと、制作途中の絵が壁に立てかけられ、几帳面な性格なのか驚くほど整然と整理されていた。
隣の建物では、革の加工用の道具が壁に設置してあり、道具を手に取りながら背の大きな男性が作業しているのが見えた。
「おやじ、仕事を頼む。革の袋が破れた」
「はいよ、見せてみな。おや、これは酷えな」
カレルが店内に入ると、その男性に声を掛けた。
腕がラデリアの腰ぐらいありそうな男が革袋を受けとると、全体を見てそう言った。
「直らねぇことはないが、少し時間は掛かるぞ。どっかで時間潰してきな」
「ありがとうございます」
ラデリアはお礼を言って、前金を渡した。
「じゃあ、僕の絵の感想を聞きたいから、うちのアトリエに来ない?」
「良いのですか?」
「もちろん」
カレルは木の扉を開け、ラデリアを中へと招き入れた。
室内は、油絵具の匂いが満たされていた。
壁には、複数の描きかけの絵が立て掛けられていた。
「ただいま、お客さんだ。もてなしたいから準備をしてくれ」
「おかえりなさいカレルさん、わかりました」
少年はアトリエの奥へと引っ込んで行った。
「この絵についてどう思う?」
とカレルが聞いてきた。
街にいる兵士が木のベンチで休んでいる絵、細部まで丁寧に描かれ、全体のバランスも良い印象を受けた。
「良い絵ですね。明るく繊細な背景に描きたいものがわかりやすく配置され、柔らかな自然光も捉えられてます」
ラデリアは、すらすらと感想を述べた。
「そうだろ、気づいてくれるとは、ラデリアさんも只者じゃないな。じゃあこれは、一番の最新作だ」
カレルは口の端をわずかに上げた。
現れたのは、木の板に描かれた金色の小鳥の絵だった。
影の使い方がうまく、本当に1羽の小鳥が止まり木に止まっているように見える。
「本当に可愛い、本物みたいですね」
「題名は『ゴシキヒワ(ゴールドフィンチ)』だ。元々家具に描いていたんだが、依頼者が亡くなって、ちょっとした理由から一枚の絵に仕立て直した」
「なるほど、すごく気に入りました」
「板絵は手間がかかるが、光の表現はこっちのほうが思い通りになる。小鳥の影も、板の硬さがあってこそだ。最近はやり出したキャンバスじゃ、こうはいかない」
「鎖が……この鳥は繋がれてるんですね」
ラデリアは小鳥の足首に描かれた細い鎖に気づき、そっと指先を寄せた。
「繋いでおかないと、本当に飛んで行きそうな気がして、後から描き加えた」
「それほど生き生きしている。良い絵です」
ラデリアは、にこっと笑った。




