表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遠征編
39/44

39話目

 レイナの銃声が響く。乾いた音。

 直後、オニグマの頭が僅かに揺れた。止まらないのは想定内。その一瞬で十分だった。

「ハヤテ!」

 ナツメのワイヤーが飛ぶ。

 腰へ巻き付き、強引に引っ張られる。身体が浮く。その下を黒い前脚が通過した。

 地面が爆ぜる。

 もし半秒遅れていたら。考えるだけ無駄だった。

 死んでいた。それだけだ。

 着地。膝が折れそうになる。踏ん張る。無理やり立つ。

「生きてるか!」

 レイナの声。

「ギリ」

「なら動け!」

「あぁ」

 まともに返事が出来ているかは定かではない。

 そんな余裕もない。オニグマが向きを変える。狙いが散った。だから余計に厄介だった。

 誰でも殺せる。そういう位置にいる。レイナも理解していた。

 ナツメも。ユウトも。

「ユウト!」

「はい!」

「準備は!」

「終わってます!」

 声が裏返っている。

 だが返事は早い。よくやっている。

 今日だけで何度死にかけたか分からない。それでもまだ動いている。

 ゴウッ。

 オニグマが突進した。

 標的はナツメ。

 ワイヤーを張り巡らせている存在を本能的に邪魔だと判断したのかもしれない。

 理由はどうでもよかった。潰されたら終わる。ハヤテは地面を蹴る。肺が悲鳴を上げた。

 知らない。もう体のわがままを聞いてやれる余裕がない。

 双剣を振る。

 肩口。

 浅い。それでも視線が動く。

「こっちだ!」

 叫ぶ。口に広がる血の味が鬱陶しい。

 オニグマが振り向く。

 その瞬間。猛烈な悪寒。まずい。

 そう思った時には遅かった。前脚。視界いっぱいの黒。避ける。避けたつもりだった。踏み込んだ足に力が入らない。

「ッここでか?!」

 衝撃。身体が吹き飛ぶ。何が起きたのか分からない。ただ道路を転がり続けた。

「ハヤテ!」

 レイナの声。

 起きろ。まだだ。身体を起こせ。

 右目が霞む。血か。たぶん血だ。流しすぎた。身体中が軋む。痛みがない所の方が見つけられない。

 オニグマを見る。

 息が止まった。

 近い。いつの間にか。本当にいつの間にか。もう目の前だった。

 逃げられない。避けられない。立てない。終わった。そう思った瞬間だった。

 ギンッ。

 金属音。ワイヤー。何本も。何十本も。

 オニグマの脚。周囲のビル。崩れた鉄骨。

 街灯。

 ありとあらゆる場所へ張り巡らされていた。

「今!」

 ナツメが叫ぶ。

 次の瞬間。ユウトが振り下ろした。

 剣ではない。支柱。すでに半壊していた建物の最後の支え。

 メキッ。

 嫌な音。そして、世界が崩れた。

 ビルが傾く。誰かに担がれ、崩れ行く世界が遠ざかる。次々にオニグマへビルが倒れていく。

 連鎖。

 崩落。

 轟音が街を飲み込む。

 オニグマが咆哮した。

 初めて焦ったように見えた。

 いや、そう見えただけかもしれない。

「走れ!」

 レイナが叫ぶ。

 誰も返事をしない。返事をする体力なんて残っていなかった。

 ただ走る。

 背後で街が崩れていく。

 瓦礫の津波が迫る。オニグマがどうなったか。

 誰も確認しなかった。確認する余裕などなかった。

 全員が理解していた。

 あれで倒せる相手じゃない。だからこれは討伐じゃない。生き残るための時間稼ぎだ。

 そして崩落の向こう側から響いた咆哮が、その判断が正しかったことを証明していた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ