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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遠征編
30/33

30話目

 ウシオニが低く唸る。

 赤熱した吐息が地面を焼き、周囲へ白い蒸気が立ち上った。

 一歩。それだけで瓦礫が沈む。ユウトの喉が小さく鳴った。

「……これ、やるんですか」

「逃げてもいいけど?」

 レイナが即答する。

「いや……」

 ユウトはウシオニを見上げる。

 怖い。それはもう、隠しようがない。

 だが。

「……やります」

 ハヤテが少しだけ口角を上げた。

「上出来だ」

 その返事を聞いた瞬間、レイナの空気が切り替わる。

「ナツメ。右側崩落ビル使う」

「了解」

「ユウトは中衛。絶対深追いしない」

「はい!」

「ハヤテ」

 レイナが視線を向ける。ハヤテは双剣を抜いた。

「俺が前やる」

「お願い」

「気ぃ引き続ける。お前らは削れ。仕留めるまでの過程を見出してくれ」

「了解」

 短い。だが十分だった。

 ウシオニが咆哮する。

 空気が震えた。次の瞬間。巨体が突進する。

「ッ!!」

 ユウトの顔が引き攣る。

 デカいくせに速い。だが、

「よそ見すんなよ、デカブツ」

 ハヤテが踏み込んだ。

 爆発じみた加速。ウシオニの眼前へ一気に潜り込む。

 双剣が閃く。

 ガギィン!!

 硬い。前脚へ斬撃が走るが、深くは入らない。

「っ、硬ぇな……!」

 以前より明らかに出力が高い。それでも足りない。

「なら――!」

 双剣が脈打つ。

 黒い刃が軋み、刀身内部のマガが発光した。マガツ化。

 刃が目に見えて伸びる。

「うおっ……!」

 ユウトが目を見開く。黒い刃が、獣の牙みたいに変形していた。

 ユイの新調した武器。活性化による刀身延長。ハヤテが笑う。

「こりゃ良いな!」

 斬撃。今度は通る。

 前脚へ深く裂傷が走った。

 ウシオニが咆哮。熱風混じりの突進がハヤテを薙ぎ払う。

「ハヤテ!」

「見えてる!」

 ギリギリで回避。だが完全には避けきれず、熱だけで頬が焼ける。

 重くそして硬い。

 単純な出力なら、今まで戦った大型でも上位だ。

 ウシオニが角を向ける。

 再突進。だがその瞬間。

 バンッ!!

 レイナの銃撃。

 着弾は眼ではなく、脚。僅かに体勢が流れる。

「ナツメ!」

「もうやってる」

 ワイヤー射出。

 崩れたビルの鉄骨へ絡みつき、一気に固定。さらに別方向から二本。ウシオニの前脚へ巻き付く。

「ユウト!」

「はいッ!」

 ユウトが駆ける。怖い。だが止まらない。

 ハヤテが前で暴れている。なら、

「俺も……!」

 片刃剣が振り抜かれる。狙うのはハヤテが斬った傷。

 ガキィン!!

 硬い。だが今度は浅くない。

 傷が広がる。直後。ウシオニが暴れた。

「離れろ!!」

 レイナが叫ぶ。

 熱風。赤熱した息が横薙ぎに吐き出される。道路が焼けた。

「うわッ!?」

 ユウトが吹き飛びかける。そこへ。

「よくやった新人!」

 ハヤテ。双剣が交差する。

 マガツ化した刃がさらに伸び、熱線を斬り裂くように振り抜かれた。

 完全には止められない。だが逸らす。その隙にユウトを引っ張り出した。

「っ、すみません!」

「いや、上出来だ。ビビらず行け!俺が何とかしてやる」

 ウシオニが咆哮する。だが。

 右前脚。そこには確かな裂傷が走っていた。レイナがニヤリと笑う。

「……うん、悪くないわね」

「だから言ったろ」

 ハヤテが息を吐く。

「俺が止める」

 双剣を構える。その背中を見て、ユウトが小さく息を呑んだ。

 真正面。

 あの化け物を相手に、ハヤテは一歩も引いていない。

 だが、今の一撃で分かった。

 一人じゃ足りない。

 火力が。拘束が。連携が必要だ。

 そしてそれを、ハヤテ自身も理解していた。

「レイナ」

「なに」

「次、もっとデカく崩す」

 ハヤテが笑う。

「合わせろ」

 レイナも口角を上げた。

「何よ、リーダー気取り?」

「馬鹿言え、元々隊長だ」

 ウシオニが再び地面を踏み砕く。戦いは、まだ始まったばかりだった。

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