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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遠征編
29/33

29話目

もう少しだけ毎日投稿を頑張りたい。

もう少し、、、

 残ったキツネツキが低く唸る。

 黒煙の尾が揺れ、細い瞳がこちらを舐めるように動いた。

 仲間を一瞬で斬られた。それでも逃げない。

「……来るよ」

 ナツメが静かに言った。キツネツキが跳ぶ。今度は真っ直ぐハヤテへ。

 ハヤテは構えてチラリとレイナへ目配せをした。

「動かないで」

 レイナの声。

「は?」

「勉強するんでしょ。なら見なさい」

 次の瞬間。レイナの弾丸が、キツネツキの顔横を掠めた。命中していない。だが、わざとだ。

 キツネツキの視線が一瞬だけレイナへ逸れる。

「ユウト、左」

「はい!」

 ユウトが即座に回り込む。

 するとキツネツキはそちらへ反応し、尾が広がった。

「――そこで止まる」

 ナツメのワイヤーが路面へ突き刺さる。

 ガキン、と音を立て、細い鋼線が瓦礫の間へ張られた。

 キツネツキが着地。直後、脚がワイヤーへ触れる。

 ほんの僅か。バランスが崩れる。

「今!」

 レイナの二射目。今度は肩口へ着弾。体勢がさらに流れる。そこへユウト。

「っらぁ!!」

 斬撃。

 浅い。だが狙いはダメージではない。無理に深追いせず、即離脱。

 キツネツキが反撃で尾を薙ぐ。空振る。

「見た?」

 レイナが横目で言った。

 ハヤテは黙ったまま頷く。

「アイツ速いけど、1匹やられたから慎重になってる。“反応してから動く”状態」

 レイナが銃を構え直す。

「だから先に選択肢を潰す」

「射線とワイヤーで誘導してるのか」

「そういうこと」

 キツネツキが再び跳ぶ。今度はナツメ狙い。

 だが途中で、パン、と銃声。

 キツネツキが空中で僅かに身を捩る。そこへユウトが先回り。

「うおっ!?」

 完全には読めていない。それでも反応して剣を振る。

 火花。前脚へ斬撃が入る。

 着地したキツネツキが苛立ったように咆哮した。

「今のは良い」

 ナツメが淡々と言う。

「深追いしてない」

「い、今の余裕無かっただけです!」

「それでいいのよ」

 レイナが笑う。

「生き残る時って、大体そんなもん」

 ハヤテはそこでようやく理解し始めていた。

 自分なら、今の隙に首を狙い、速攻で終わらせる。

 だがこの戦い方は違う。

 誰かが狙われ、誰かがそれを逸らし、誰かが仕掛ける。その流れは誰かであり、特定の役割を与えられているわけではない。全員がその都度役割を切り替えている。

 安全に。確実に。事故を減らすように。

「……守りの戦いか」

 ぽつりと漏らす。

 レイナが聞き逃さなかった。

「そ。あんた苦手でしょ、こういうの」

「まぁな」

「知ってる」

 レイナがニヤつく。

「あんた、“自分が斬った方が早い”って顔してるもん」

「否定できねぇ」

「でも部隊で戦うってのは、“誰も死なない方が大事”なの」

 その瞬間、キツネツキが再び跳んだ。今度はユウト一直線。

「ッ!」

 まだ対応しない。それは遅れたからというのもあるだろうが、それだけではない。

「よし!ユウト、しゃがめ!」

 レイナの声。反射的にユウトが屈む。

 その頭上を、ハヤテが駆け抜けた。

「お前ら、こんな感じか?」

 双剣が閃く。

 一撃目で尾を裂き、二撃目で前脚を崩す。

 そこへナツメのワイヤーとレイナの銃撃。

 キツネツキの動きが止まる。

「ユウト!」

「はい!」

 最後はユウトの剣だった。

 首へ斬撃。黒い血が噴き出し、キツネツキが崩れ落ちる。

 静寂。

「……倒した」

 ユウトが呆然と呟く。

「うん」

 レイナが肩を竦めた。

「これが私たちの部隊」

 ハヤテはキツネツキの死体を見下ろす。効率だけなら、自分一人の方が速い。

 だが、こちらは消耗が少ない。

 事故率も低い。

 何より、ユウトみたいな若手が経験を積める。

「……なるほどな」

「ん、わかった?」

 レイナが少し得意げに笑った。

 その時だった。

 ズン――――。

 足元が揺れ、一同の表情が変わる。

「……え?」

 ユウトが顔を上げる。

 遠くの崩れたビル群の奥で、瓦礫が崩れ落ちる音が響いた。

 重い何か巨大なものが、ゆっくりと近づいてくる。

 ナツメが端末を見る。そして珍しく、僅かに目を見開いた。

「……大型反応」

「Aか?」

 レイナが低く問う。ナツメは数秒沈黙し、

「多分、だけどデカい」

 短くそう言った。

 次の瞬間。瓦礫の山が吹き飛ぶ。現れた影を見て、ユウトが息を呑んだ。

「――ぁ」

 牛。そう呼ぶには、あまりにも巨大だった。

 四脚に隆起した黒い筋肉。地面へめり込むほど太い脚。背中からは、捻じれた角のような骨が幾本も突き出している。

 そして、

 赤熱した吐息。吐く度に空気が歪み、地面が焼ける。

 ウシオニ。

 その巨体が一歩踏み出すだけで、砕けたアスファルトが軋んだ。

「……マジかよ」

 レイナが小さく舌打ちする。

 キツネツキとは比較にならない圧力だった。

 “そこにいる”だけで空気が重い。

 ハヤテは無意識に双剣へ手を掛ける。

 以前戦った個体よりも、明らかにデカい。

 筋肉の張り。骨格。息の熱量。同種。

 それは前回、シドウのお膳立てしかできなかった相手。

「ハヤテ」

 レイナの声。

「ああ」

 返事をしながらも、視線は逸らさない。

 ウシオニの赤い目が、こちらを見ていた。

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